2007年5月22日

またまた膠(ニカワ)

くどいようだが、またまたニカワについて。

ニカワの原料には牛、羊、兎、鹿などの皮や骨や内臓などが使われている。原料によって特色があるようだ。国産のもので良く見かけるのは、三千本と呼ばれる棒状のもので、日本画の下地などにも使われる。これは牛が原料だ。

西洋のニカワも、原料が色々なのは同じだが、ニカワを専門にあつかうような店では、"gram strength"という単位が表記してある場合がある。どういう測定に基づく数値なのか、詳しくは知らないが、100未満から500以上までさまざまだ。数値が大きいほど早く固まり、強度も高い。しかし、あまり早く固まると、部材を合わせる前に固まってしまい、いわゆる「ニカワをかんだ」、不完全な接着になってしまう。また、数値が低いと作業時間に余裕はでるが、接着強度が足りないということになってしまう。150以下では強度が必要な接着には向かないようだ。

ヴァイオリン製作や、通常の木工では、200~250 gram strength位が適していると言われている。

2007年5月20日

また膠(ニカワ)

弦楽器はニカワによる接着というシンプルな接合で成り立っている。だからこそ(?)、ニカワの使い方自体に、さまざまな配慮がなされている。

その第一は濃度であろう。ご存知の通り、表板の接着には薄められたニカワ液が用いられる。薄めて接着強度を下げることで、表板を開けるメンテナンスを容易にし、「割れる前に剥がれる」という表板の保護機能まで持たせている。

その逆に、あまり剥がす機会の少ない、裏板や指板の接着には濃いニカワ液が用いられる。濃度をさまざまに調整することによって、場所毎の接着強度を調整しているのだ。また、ニカワは固まった後でも、温水を使って素材を痛めることなく完全に取り除ける。さらに、接着強度自体も、現代の接着剤と比べても強力な部類である。

通常ニカワは、粒子状やフレーク状のものから棒状のものまで、固形物の形で保存され、使用する前に水につけてから温度を上げ、溶かして使用する。一旦溶かしてしまうと、接着強度はフレッシュなものの方が強い。そのまま放置すれば、もちろん腐ってしまう。

朝ニカワ液を作れば、その日1日中は快適に作業できるだろう。次の日には、接着の信頼度は少し落ちるかもしれない。さらに翌日以降は、季節にもよるが、換気扇がないと辛いかもしれない。

2007年5月18日

膠(ニカワ)

コントラバスに限らず、弦楽器は木の細工の最たる物のひとつと言える。
しかし、指物などの技法と最も違うのは、凝った仕口が無いことではなかろうか。仕口とは、木と木を接合する方法の事で、指物にはさまざまな組み合わせ方がある。

弦楽器の場合は、殆どのパーツがニカワによって張り合わされている。平らな面同士を接着するのも仕口の1つと言えばそうだが、仕口らしいものは、ネックと本体の接合部分に、日本で言う「蟻」や「追い入れ」が用いられているくらいだ。 つまり、弦楽器は主にシンプルな接着によって作られている。何故、もっと強度が高く接着面積が広がるような仕口を使わないのか疑問に思っていた。

弦楽器の接着には、ニカワが用いられる。ご存知の通り、ニカワは、硬化後であっても温度や水分で元に戻る。この特性が弦楽器の修理を可能にしている事は良く知られている。考えれば、剥がす事が前提であれば、接着部分はなるべく剥がしやすくシンプルなものの方が良いに決まっている。入り組んだ複雑な仕口では、パーツを傷つけずに剥がすのは難しくなる。

ネック部分に仕口が用いられている場合があるのは、強度の問題があるのであろう。それに、ネック自体は消耗品(もちろんスクロール部分は違う)だから、外す時には本体側が傷つかなければ良いのだ。

2007年5月16日

裏板と湿度

まもなく梅雨だ。

フラットバックの楽器では、先に書いたように、裏板の伸縮を反りで吸収している。湿度が高くなって裏板が伸びる時には、クロスバーがその動きを止めようとするので、裏板には圧縮力がかかる。外見上は、裏板が膨らんでくるように見えるだろう。圧縮力である分には、直接割れにはつながらない。

しかし、逆に乾燥した時には、縮もうとする裏板をクロスバーが止めようとするので、引っ張る力がかかる。この時引っ張る力が材料の強度を超えると、裏板は割れてしまう。湿度による木の伸縮を止めることはできないから、裏板の割れを避けるためには、裏板が最も縮んだ状態で、クロスバーを接着すれば良いと言う事になる。つまり、最も乾燥した時期(裏板が最も縮んだ状態の時)、或いは湿度が低く管理された条件の中で行うのが良いという事になる。

2007年5月11日

エンドボールとフェルト


大抵のスチール弦のエンドボールには、フェルトがついている。

このフェルトは、何の為についているのであろうか。テールピース裏側のエンドボールが当る部分を保護しているのであろうか。そこは本当に保護しなくてはならない重要なところなのだろうか。


この疑問は、筆者のオリジナルではなくて、10年以上前に、在京の演奏家の方が言っておられた。正確には発言は、「こいつを外すと良いということに気づいた」だった。とにかく、このフェルトも音に影響を与えているというのである。


以来、筆者もつけたり外したり、何度かやってみた。フェルト無しで、弦が直接テールピースとつながっていた方が音量も出て、音色も明るく、サスティーンも長くなるような気がする。しかし、思いこみもあるし、弦を張りなおした直後の音色は、概して明るく響きがちだから、プラセボの範囲のような気もする。


もし、お持ちのテールピースが博物館級でないなら、やってみても損は無いと思う。良い結果が得られるかもしれない。気に入らなくても簡単に元に戻せるし、お金もかからない。

2007年5月8日

魂柱セットアップのツール


魂柱調整用の道具を紹介しよう。筆者が使っているというだけで、特にこれが正統だという訳ではない。

下から、魂柱ゲージと鏡、魂柱つかみ、ピックアップツール、位置調整用のブラスハンマー、定規類である。

魂柱ゲージは、筆者の場合、欠かせない。定規と組み合わせて使用し、魂柱の位置を測定する。

鏡は、表板と魂柱のフィットを、目で確認するために使う。魂柱を掴んでいる手応えでもある程度のフィットはわかるが、必ず視覚でも確認するようにしている。

魂柱掴みは、バネのついている側を押すと、反対側の手が開いて、魂柱を保持できる。これで掴んで魂柱を立てたり、倒れた魂柱を取り出したりする。その上のピックアップツールは、この魂柱掴みと機能は同じで、単に長いものを自作しただけである。

魂柱掴みで魂柱を立てた後、微調整はブラスハンマーで行う。

筆者は、S字型の魂柱立ては使っていない。特に理由があるわけではなく、単にやり方の違いだ。ただし、S字型の魂柱縦を刺すための溝はつける。魂柱の上下と、木目の方向の目印になるからである。

この他に、魂柱の長さを調整する場合には機械類も使うし、表板やクロスバーへのフィットを行う時には、ノミや小刀等の刃物も使用する。楽器の中を照らすライトも必需品だ。

2007年5月6日

駒と魂柱のセットアップ3

駒と魂柱、それぞれのセットアップについて書いたが、さらに両者をどう組み合わせるかが問題となる。

駒と魂柱の両方を同じ音質の方向にチューンしていくのか、または、あえて片方を明るめ、片方を暗めの方向にしてバランスをとるのか、応用するやり方は1つではないと思う。 もちろん、楽器の個体差もあるし、この辺が、専門家の腕の見せ所となってくる訳である。

しかし、筆者の経験の浅さを棚に上げて言うならば、比較的ダークで、柔らかい傾向のセットアップがなされている楽器が多いように思う。確かに、そう言うセットアップは、ゲージが太くて反応しにくい弦を弾き易くするとは思うが、片方でクリアさやエッジを失っているのである。

現実に演奏する上では、所属する団体の個性や制約もあり、好き勝手には出来ないと思う。とはいえ、そういう制約の無いところで、自分が良しとする音はどういうものなのか、先入観にとらわれずに向き合うことが必要なのではなかろうか。駒や魂柱のセットアップについて知ることは、その手がかりになるのではなかろうか。

2007年5月3日

駒と魂柱のセットアップ2

駒の位置が決まったら、魂柱のセットアップを行う。

以下、文章だけでは少し説明しにくいし、誤解を招くかもしれないので、参考程度に。実際の調整は、魂柱と表板とのフィットや、長さ調整などの作業も含まれるので、専門家に依頼したい。

魂柱は、G線側の駒の足のテールピース側にセットする。
最初にどこに立てるかは、人によっても違うと思うが、上下方向は、魂柱の駒側の端が、駒の足のテールピース側の端から、魂柱の直径程度はなれたところが良いのではなかろうか。左右方向は、駒の脚(足ではない)の幅の中が良かろうかと思う。


まず、魂柱を上下方向に動かすことはどういうことだろうか。

魂柱の上下方向の移動は、主に音色に影響する。

魂柱を駒に近づけると、おおむね音は「明るい」「はっきりとした」方向に変わる。悪く言えば「鼻にかかったような音」方向だ。そして、楽器の反応は「かたい」感じになる方向だ。

逆に駒から離すと、「暖かい」または「暗い」方向に変化する。悪く言えば「鈍く」「エッジの無い」方向だ。そして、楽器の反応は「柔らかい」「弾きやすい」方向と言える。


魂柱の左右方向の移動はどうだろうか。

魂柱の左右方向の移動は、弦の音量のバランスに主に関係する。

魂柱をG線側に移動すると、G,D線の音量が増す。変わりにA,E線は音量を失う方向だ。

魂柱をE線側に移動すると、A,E線の音量が増す。変わりにG,D線は音量を失う方向だ。


以上はおおまかな傾向の話であって、現実には各々が完全に独立に調整できるわけではない。

例えば、魂柱の上下方向の移動は、音域毎の音量のバランスにも変化を与える。左右方向の移動による弦の間のバランスだけでなく、音域毎のバランスも考慮しなくてはならない。