2007年9月28日

アジャスターの取り付け


アジャスターを取り付けのメソッドも色々あるようだ。色々あるのは、決定盤が無いということかもしれない。大切な駒である、例によって、取り付けは専門家に依頼することを推奨する。

他にもいろいろあるかもしれないが・・・

駒足の裏から貫通穴を開け、足側にタップを切る。

駒足を切り離してから、切断面から夫々に止め穴を開け、足側にタップを切る。

駒足の裏からタップ下穴を開け、さらに途中までネジ径にクリアランスをプラスした径に穴を広げ、奥の下穴にタップを切り、タップ穴と広げた穴の境界で駒足を切り離す。これは、ネジ部分が駒の足でなく、脚側に来るので、特定のアジャスターのためのメソッドと言えるかもしれない。

駒足の裏から貫通穴を開ける方法は、足側と脚側の穴の軸に加工精度によるずれが生じないが、駒足の裏に穴が開く。穴の影響が無視出来るならば、筆者の感覚では、これが一つの標準的なやりかたと言えそうな気がする。特別な工具無しで、穴の精度を比較的上げやすいからである。

駒足を切り離してから、夫々に穴を開ける方法では、穴がずれないようにするためには、加工精度を高くするしかない。加工精度が無ければ、左右のアジャスターの軸が平行にならず、音に影響するのみならず、アジャスターの動作も固くなり、アジャスターを導入した意味が半減してしまう。

2007年9月23日

テールガットの長さ


テールガットが短くなりすぎた場合はどうなるだろうか。

例えば、モード・チューニングを行い、テールピースのピッチをチューニングした結果、望むピッチを得るために、テールガットを極端に短くしたい事がある。

筆者の乏しい経験上でも、たとえモード・チューニングを行ったとしても、テールガットの長さがあまりにも短いと楽器の鳴りを抑制する場合があった。例によって「必ずこうなる」と断言は出来ないが、良くない場合があるということである。テールガットの長さが短すぎると、テールピースはより強固に保持される事になって、テールピースの自由な振動を妨げる。ワイヤー等の柔軟なテールガットを使っている意味が薄れてしまうのかもしれない。

一方で、テールピースと駒の間が近くなりすぎるのも問題なので、こう言う場合には、より小さいテールピースを使う方向で考えた方が良いのかもしれない。

テールピースと駒の間が十分とれる場合には、モード・チューニングのやり方を工夫し、テールガットの長さを含めバランスの良い場所を探さなくてはならないようだ。

2007年9月13日

アジャスターの影響

駒の高さを調整するアジャスターは、その時々の環境に合わせて調整できる反面、音への影響が気になる。
ホームページのリンクでも紹介しているように、アジャスターが音に与える影響を調べた例もある。

先日、アジャスターの取付の時に、弾き比べる機会があった。使用したアジャスターは黒檀製のもので、重量は片側12g程度、一般的なアルミ製のものと同じくらいである。取付の前後で可能な限り同一のセットアップにして弾き比べたところ、殆ど差を感じられなかった。あくまでの筆者の弾き比べによる主観なので、一般化するつもりは無いが、何らかの変化があるだろうとの予想に反して、今回の取付に関しては本当に分からなかった。

たまたま黒檀のアジャスターと今回の楽器の相性が良かったのか、他に理由があるのかは分からない。アルミのアジャスターでも音に影響は無いと言う人もいる。駒を切って間に異質の物を挟むわけだから、影響が全く無いという事はないだろう。今回使用した黒檀のアジャスターでは、筆者には差は無視できる程度に思えたが、演奏者によってその辺の判断は様々と思うので、あくまで、音と利便性のトレードオフということになるのではないか。

今まで黒檀製のアジャスターは、ネジの径が大きくなるため敬遠していたが、今回使用したものは、製作精度もあり、綺麗に仕上げられていて、音共に良い印象であった。

2007年9月9日

駒足を足す


駒足の表板へのフィットを改善しようとするとき、削り代が少なければ足す必要がある。

足した部分は薄くなってしまうので、殆ど意味が無いかもしれないが、今回は手持ちの材料から、木目等がフィットするものを選び、もちろん木の表裏にも留意した。一旦駒足の裏を平面にして、ブロック状の継ぎ足し部分を接着した。写真の様に、継ぎ足した部分は殆ど無くなってしまうが。

もう少し手軽には、材料を薄くして、駒足に沿って曲げながら張るというのが現実的な線だろう。どちらかと言えば、ここに手間をかけるよりは、表板へのフィットの方が重要度が高いかもしれない。

表板へのフィットは、時間をかけて作業する。というよりは筆者には、時間が必要な作業だ。表板の駒が当る部分は、意外に凹凸があったり、曲率の変化が滑らかでなかったりする。これを隙間無く密着させるには、筆者の腕では、どうしてもある程度の時間がかかる。写真は、フィットが概ね終了し、周囲の仕上げ前の様子である。

2007年9月4日

ハイ・サドル(続きの続きの続き)

ハイ・サドルを導入すると、必要なテールガットの長さが増えると共に、サドルと駒の間の距離が変わるため、テールガットの長さ調整が必要になる。

ハイ・サドルによって、サドルと駒の間の距離が短くなる場合、テールピースが駒に近づき過ぎないようにしなくてはならない。また、ハイ・サドルに限らず、サドルからテールピースの間の距離があまりにも近いと、テールピースの自由な振動を妨げ、柔軟なテールガットを使う意味が薄れてしまう。

モード・チューニングを行うのは良いが、テールピースのピッチを重視するあまり、これらの状態を極端な状態にしてしまうと、良くない結果につながる事もあるようだ。

2007年9月1日

ハイ・サドル(続きの続き)

ハイ・サドルを製作するにあたって試作を行ううち、楽器が弦のテンションに耐えるメカニズムについて改めて考えさせられた。

Jeff Bollbach氏のホームページ※で書かれていたXiao-Houng Luo氏のコンセプトが興味深い。楽器の構造の強さを、卵に例えている。卵の上下を指で挟んで押しつぶそうとしても、なかなか難しいのと類似があるのだそうだ。そういえば、卵をつぶさずに卵を踏みながら踊る卵踊りというのを聞いた事があるような・・・。

ともかく、楽器はその形をしているが故に、弦のテンションに耐えるということである。弦の張力はネックとサドルを介して表板を上下から押し縮める様に伝えられ、一部は表板のアーチによって駒を押し返す力となっているという。

サドルは、表板とエンドブロックの両方に接して、それぞれに弦から受ける力を伝えている。表板と接触している面積は一見小さくて、たいした役割など無い様に思えるが、実際の面積を測定し、木材の圧縮強度から計算してみると、確かに、弦のテンションに耐えるだけの面積がある。

つまり、ハイ・サドルを導入する時には、なるべくもとのサドルと同じ場所にテンションがかかるように考えなければ、強度に対する本来のコンセプトから外れてしまうと言う事だろう。筆者は、結局木ネジを併用する形で製作した。恐らく問題無いのではないかと思う一方、永くもつ事を祈るばかりである。

※Jeff Bollbach Luthier, Inc.: http://www.jeffbollbach.com/
(卵の話はバスバーに関連して記述されている。 )