2008年5月26日

N氏の楽器11---魂柱

魂柱は、表板の内側と裏板の内側(又はクロスバー)に正確にフィットされていなければならない。

今回のケースでは、当初魂柱はフィットしない状態で立てられており、表板の内側には、いくつかの魂柱の跡が残っていた。写真では少し強調されて見えるが、幸いどの跡も致命的なものではなく、さらに、何故か筆者が魂柱を立てようと予定している付近は綺麗であった。

以下は、あまり正確な推論ではないかもしれないが、少し想像をたくましくしてみる。魂柱を斜めに立て、魂柱のエッジだけが表板に当っているとすると、単位面積当たりの表板にかかるせん断力は、表板をへこませるのに十分な大きさになる。表板がへこんで魂柱の断面となじむと、接触面積が増えるから、単位面積あたりのせん断力は減り、(割れたりしなければ)表板の強度とつりあうところでへこみは止まる。今回のケースで、魂柱のつけた傷の大きさをみると、ざっとみたところ魂柱断面積の1/3~1/2以上にはなっていないようである。大胆に推測すれば、今回のケースでは、魂柱断面積の少なくとも1/2以上がフィットしている状態ならば、少なくとも、表板に跡を残すような事は避けられると考えられないだろうか。安全率を見れば、もう少しフィットしている面積を大きくする必要があるかもしれない。

もちろん、表板に跡を残すかどうかは、表板の材質や表板にかかるダウンスラストの大きさにもよるから、魂柱の径だけからは、一概には言えない。特に、今回の表板には目のつんだ材料が使われており、強度が高い場合の例かもしれない。一般的には、ケースバイケースではあると思うが、ごく大雑把に言って、魂柱の直径が16mm未満になると表板を傷つける危険性が高くなるようである。直径19mmの魂柱に対し、16mmの魂柱の断面積は約30%減、すなわち約2/3である。少し結論ありきの匂いはするが、先の結果と感覚的には近いのではなかろうか。

ところで、作業のクオリティを追求しても、現実には100%のフィットは難しい。魂柱断面の2/3以上がフィットしている状態は、実は外観からは完全にフィットしている状態に近いのかもしれない。どうやら、話が振り出しに戻ってしまったようである。

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