2008年11月30日

ペグボックスのチーク2


この割れの場所は、常に弦のテンションがかかる上に、 物理的に割れを支える構造が無い。少しでもクリープなどでズレが生じれば、ニカワの接着力も小さくなって割れが開いてしまうだろう。従って、やはり何らかの補強が必要になるのではなかろうか。

写真の様に金属のピンを使う以外にも、木のダボを使う方法や、ナットの下に埋め木をする等、補強にもいくつかの選択肢が有りそれぞれに長所短所がある。金属を使ったリペアには抵抗が有る人も居るかもしれない。しかし、補強の目的をクリープを防ぐ事と考えれば、金属のピンを埋めこむ方法にも合理性があるのではなかろうか。木質のピンでは、クリープに対する抵抗力は金属に比べればやはり少し劣るのではなかろうか。この補強では、開けた穴とピンの嵌め合いがシビアに求められるので、加工には精度が必要になる。ピンに対して少しでも穴が大きければ意味が無くなるからである。

一般的には、金属加工に比べれば木工の精度は低いが、それでも0.1mm程度は十分に追える精度である。ピンを圧入するときに、穴の側面が少しずつ押し広げられて隙間無く入り、穴の周囲も割れない程度に加工する。接着剤を入れなくてもまず抜ける心配はないだろう。

もしチューニングマシンがチロリアンタイプなら、プレートで隠れるような場所を選べるかもしれない。今回は独立タイプのマシンなのでピンが露出している。ピンの頭を少し沈めてニスを入れる事もできるだろうが、沈めない分ピンとチークの接触面積を最大にすることができる。

コストを考えに入れなければ、こう言った割れの修理で最良のものは、継ぎネックのようである。しかし、こうした補強による修理もコストパフォーマンスの点で、時によっては最良の選択と言えるのではなかろうか。

2008年11月28日

ペグボックスのチーク


個人的にコントラバス七不思議にカウントしている一つがペグボックスとネックの境である。

コントラバスやチェロでは、ネックの巾よりペグボックスの巾が大きくなっている。ペグボックス内を広くしたいためだと思うが、木の繊維が通っていないため、本質的に弱い場所である。ヴァイオリンでは、ペグボックスの巾はネックと同じなので、ネックからペグボックスまで(木取りが正確ならば)繊維が通っていて、これなら納得がいく。

しかし、筆者の納得がいこうがいくまいが、コントラバスはこのように作られて、しかも十分実用になっているのだから、世の中そういうものだ。とは言え弱い場所だから、トラブルが起こる事もある。

写真は、この部分に起こる典型的な割れで、ひどい場合にはここからスクロールごと取れてしまう。今回のケースは、割れも途中で止まっていて比較的軽傷であるが、弦を張った場合には少したわんだ感じになる。こうなると音もしっかりしなくなってしまうし、この状態が続けば割れも進行するだろう。

全てのテンションを取り除いてから割れた部分を洗浄し、ニカワを入れて接着する。さて一安心?だろうか。ペグボックスには弦のテンションが4本分全てかかっている。ニカワの接着力は強力だから耐えられるだろうか?

2008年11月27日

時間

目にもとまらぬ熟練職人の技・・・とはいかないので、筆者の場合には、クオリティ相応の時間が必要である。

ヴァイオリンの魂柱パッチなどでもフィットに半日や1日はかかると読んだ事がある。コントラバスの駒の足裏は片方で4.5cm×2.5cm程度、ヴァイオリンの魂柱パッチの大きさは、大雑把に言って5cm×3cm位と言うから、実感に近い感じがする。Jeff Bollbachも、例えば魂柱をフィットさせるにはそれなりの時間がかかると書いている。世の中には凄い人がいるから短時間でのフィットを否定する事は出来ないが、筆者の場合にはどうしてもある程度の時間が必要である。

作業の良し悪しも目に見えれば良い方で、接着面が密着しているかどうかは外からはわからないし、魂柱のフィットも鏡がなければ外からは見えにくい。しかし、修理のクオリティは音や耐久性にに影響があるだろう。手抜きしても結果が良ければ文句はないのだろうが、世の中なかなかそういう上手くは行かない。良いセットアップ同様、マズい修理もそれ単体では、音への影響は小さいかもしれない。しかし、やはり、それは積み重なる。結局弾き手の悩みが深まるだけでなく、後に修理する人間に尻拭いさせる事にもなる。結果として楽器の状態が良くなったとしたら、それは地味な時間の積み重ねの成果と言えるのではなかろうか。

2008年11月6日

足と脚


弦を張ると、駒の脚は多少アーチに沿って開く。足の裏を表板にフィットさせる時には、この辺を考えに入れる必要がある。どの位開くかは、駒の材質や表板のアーチにもよる。

写真は仕上がった駒で、アジャスターはMansonである。この楽器では、最初に弦を張った時、予想以上に脚が開いたような印象だったが、最初はその原因が分からなかった。一旦オーナーの元に戻った後、弦高の再調整の為に再度セットアップした時、脚の開きが小さくなり、当初の予想程度に収まるようになった。

この楽器に最初着いていた駒は素晴らしい駒だったが、大きさが少し小さく、今回はバスバーに対する位置関係を改善するために大きい駒に替える事にした。新しい駒は幅広になったため、表板に当る位置が変わり、滑りやすくなったのが最初に脚が開いた原因の様である。再セットアップの時には、表板のニス表面に足がグリップするようになり、脚の開きが小さくなったのではないかと思う。

特にリクエストが無い場合には、筆者の場合は、駒のトップはあまり薄くしない。これは弦の当る部分の厚みを一定程度残すという意味で、駒を厚く作るか薄く作るかとは又別の話である。もっとも、最初にお渡しする時には、演奏家の好みに合わせて調整する余地を残すようにするので、いずれにしても最初から極端に薄くは出来ない。

駒の厚みや形など、駒の作り方はそれこそ色々で、同じブランドの同じ型の駒を使ったとしても、作り方によって性格は大きく変わるだろう。機能の要求に加え、形のバランスだって格好良い方が良いはずだ。アジャスターの位置も考えに入れなくてはならないし、毎度の事ながら、楽器と駒を前にして悩む訳である。ソクラテスかプラトンか、ニーチェかサルトルか・・・コントラバスだけに大物とは言えるかもしれない。