2008年11月6日

足と脚


弦を張ると、駒の脚は多少アーチに沿って開く。足の裏を表板にフィットさせる時には、この辺を考えに入れる必要がある。どの位開くかは、駒の材質や表板のアーチにもよる。

写真は仕上がった駒で、アジャスターはMansonである。この楽器では、最初に弦を張った時、予想以上に脚が開いたような印象だったが、最初はその原因が分からなかった。一旦オーナーの元に戻った後、弦高の再調整の為に再度セットアップした時、脚の開きが小さくなり、当初の予想程度に収まるようになった。

この楽器に最初着いていた駒は素晴らしい駒だったが、大きさが少し小さく、今回はバスバーに対する位置関係を改善するために大きい駒に替える事にした。新しい駒は幅広になったため、表板に当る位置が変わり、滑りやすくなったのが最初に脚が開いた原因の様である。再セットアップの時には、表板のニス表面に足がグリップするようになり、脚の開きが小さくなったのではないかと思う。

特にリクエストが無い場合には、筆者の場合は、駒のトップはあまり薄くしない。これは弦の当る部分の厚みを一定程度残すという意味で、駒を厚く作るか薄く作るかとは又別の話である。もっとも、最初にお渡しする時には、演奏家の好みに合わせて調整する余地を残すようにするので、いずれにしても最初から極端に薄くは出来ない。

駒の厚みや形など、駒の作り方はそれこそ色々で、同じブランドの同じ型の駒を使ったとしても、作り方によって性格は大きく変わるだろう。機能の要求に加え、形のバランスだって格好良い方が良いはずだ。アジャスターの位置も考えに入れなくてはならないし、毎度の事ながら、楽器と駒を前にして悩む訳である。ソクラテスかプラトンか、ニーチェかサルトルか・・・コントラバスだけに大物とは言えるかもしれない。

7 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

この方の弦は「エヴァピラッツィ」では^^)

駒が開く・グリップ・大きさ・種類・厚み・・ など、駒だけでも新発見(北の地より)続出ですね。

こだわりの調整なさる工房<ご近所なのがうらやましいです(笑)

匿名 さんのコメント...

そのとおりです.

楽器はWilliam Tarr, 1838,
Manchesterです.駒はもう少し薄くても
よいような気がしますが,次の手術の時に手を加えてもらうとしましょう.

yamaguchi さんのコメント...

ひろtさんコメントありがとうございます。

セットアップについて深く追求するのは演奏家にとっても必要だと思いますが、本当なら、演奏家の要望に対して、リペアラーが具体的な提案をするという形になるのではないでしょうか。

何かをすれば、当然に功罪があります。また、楽器は個体差がありますので、一般論だけでは個別の問題の解決に繋がらない事も有ると思います。直接会って楽器を前に話ができれば最高ですが、私も比較的遠距離の方とはメール等での打合せになる事も多いです。それでも、ある程度はつめていけると思いますので、頻繁に通えない位距離であっても、ある程度範囲を広げて探されても良いのではないかと思います。ひろtさんの良い出会いをお祈りしています。


教授さん、コメントありがとうございます。

駒の厚みに関してもですが、それも含めて、じっくりつめて行きましょう。

ちなみに、今の駒は、重量は以前の駒よりほんの少しだけ軽くなっています。駒の厚みはありますが、足長になった分木質の総量はあまり変わっていないという事になります。

匿名 さんのコメント...

William Tarr ですか!!!
いちど某楽器屋で拝見した事がありますが、なんと言いますか、オーラが漂っていました。。。
素晴らしい楽器に素晴らしい調整、そして素晴らしい奏者!一度音を聴いてみたいものです。
本文に関係ないところに食いついてすみません…。

ところで、文中に「素晴らしい駒」とありますが、どういった観点で「素晴らしい」と思われたのでしょう。

毎回毎回お聞きして申し訳ありません。
本来は言葉では表せないものだろうとは思うのですが…。

yamaguchi さんのコメント...

きゃっつさんコメントありがとうございます。本文に関係無くてもどうぞ遠慮無く投稿下さい。

調整にも様々なレベルがあると思いますが、私の場合は、教科書の範囲を超えない程度の実力ですので、至らない事が多く、楽器にご指導頂いているという感じです。教授さんが感じていらっしゃるように、駒の厚さなど、もっともっと最適な解があるはずだと思います。

ところで、駒を素晴らしいと感じた点ですが、簡単に申し上げますと、材質と加工の精度と形のバランスです。材質が密にして均一、木取りの方向やフィット等の加工が正確で、仕上がった形が美しいという感じです。美しいという評価は私ごときが言う事ではないかもしれません。ですので、今回大きさの違いを理由としてリプレースすべきかどうか大変悩みました。市販の駒でなく、塊の材料から切り出して作られたものだと言うお話です。

匿名 さんのコメント...

丁寧な返信に感謝します。

やはり駒の材質だけではなく、加工や楽器との整合性、そして見た目も考えての事だったわけですね。
しかし直接削りだしで作られた駒なんてものも存在するわけですね。ある意味究極の駒ですね。
それ自体がフィットしていなかったと言うのはある意味皮肉な事実かも知れませんが、リペアラーや製作者によって考え方が違うということの表れでもあるわけですね。
一つだけの解ではなく、結果として音が良くなれば解であり、理論や計測は解を導くための因子であれば良いと考えるのが良いでしょうか?

yamaguchi さんのコメント...

きゃっつさんコメントありがとうございます。

駒の大きさについては、やはり考え方の違いと言う事になると思います。どのような考え方が良いかを決めるのは難しいと思いますが、おっしゃるとおり、音が良くなるという事が解だと言えると思います。弾き手の好みにも依存するという事もあります。私は、駒や魂柱の位置などを測って記録し、セットアップの参考にしますが、楽器の反応によっては、あまり標準的でない位置もテストします。もちろん健康的にセットアップできる範囲という前提はありますが、あくまでも音を聞いて良い方を良しとしています。

ですので、私の場合は、何かから演繹して正解を得ると言うよりは、基本的には、色々やって良い所を探していると言う事になるかもしれません。

現実には、全ての組み合わせを試す事は不可能なので、具体的な数値や理屈があれば、少しは効率的に探せるといった感じです。これが「良い」と言えるかどうかは私には分かりません。高度な見識と腕と経験を兼ね備えたような人ならば、また違ったアプローチがあるような気もします。

問題を拡散させるみたいですが、音の何を良いとするかもまた難しいところです。楽器の持っている基本的な性格というのは変えられないと思いますので、その中で効率や均一性が高まったかどうかと言う事を、良くなったかどうかの一つの基準にしています。