2008年12月20日

卵の殻


コントラバスの側板は薄く、場所にもよるが2~3ミリの厚さしかない。

ヴァイオリンの側板より厚いかもしれないが、楽器の大きさの比率から言えば、相対的には薄いと言う事になるようだ。この楽器には古い虫穴が多数あり、ロウの様な補修材で埋められていた。家具や床などの補修に使われるものに似ていて、これでは強度が無いので、埋めなおす必要がある。埋められたものを少しずつ取り除き、虫穴を一つ一つ掃除して行く。

虫穴が飛び飛びのところはまだしも、虫穴の密度が高くて互いに繋がっているような所は単純に埋めるだけでは強度が不足するかもしれないため、穴の部分を削ってパッチを当てる事にした。オープンリペアであれば内側から作業出来るので、パッチの見える面積を減らす事ができる。今回は外からの作業である。接着面積が稼げるようにパッチとの境界を斜めにしてすり鉢状にし、フィットする埋め木を作る。この埋め木の形からegg shellと呼ばれるようだ。側板のRは一方向の曲げだから、厳密には卵の殻とは少し違うかもしれない。接着面の精度が悪ければ、斜めにして接着面積を稼ぐ意味が半減してしまうが、全ての面をskarf jointにするというコンセプトだから、作業を丁寧に行えば継ぎ目も目立ちにくい。

オリジナルの木は年月を経ているため、埋め木のエイジングもやった方が良いのかもしれないが、このケースではニスの色が濃いので、下地を塗る段階で周辺と色合わせする事にした。薄いニスを回数重ねる方が時間はかかるが周辺とのなじみは良いように思うので筆者は好きだ。最終的にニスが周辺と同じ高さになったら、キズをつけて周辺との風合いを合わせても良い。今回の補修個所は、エイジングは行わなかったので艶があがっている。楽器を置く時に床に当る部分でもあり、少しキズが多いので、逆に周辺のニスを綺麗にして行く方向で、今後の補修を計画して行く方が良いのでは無いかと思う。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

いつもながらの丁寧な仕事ぶり、感服いたしております。虫穴、バスバーはじめ、各所の剥がれや空隙をしっかり埋めていただいたおかげで、それぞれの効果が積み重なって、音色が非常にクリアで音程がわかりやすい状態になりました。音がよく飛ぶといえばよいのでしょうか、そういえば指揮者からチェックが入ることも最近増えたように感じます(笑)

yamaguchi さんのコメント...

Heihachiroさんコメントありがとうございます。

その後特に問題が発生していないようで安心しました。虫穴も、塵も積もればという事ですね。最終的な音のクオリティが高いのは、楽器が良い楽器であるということに尽きると思います。

釘が入っていたりと、一時期は不遇の時代も有ったようですが、今はオーナーに愛されて幸せですね。運命を信じる訳ではありませんが、巡りあわせという奴は不思議です。