2008年1月22日

表板の割れ


膠による接着では、接着面を圧締する事が必要だ。

しかし、圧締しやすい場所ばかりとは限らないし、割れの程度によっては、将来、表板を開ける時に本格的な補修をする事にして、膠を流す程度で済ますこともある。この様な場合でも、接着面の目違いが無い様に、することが重要と思う。

写真で斜めにかかっているクランプは、割れを圧締する目的よりは、むしろ、目違いをなくすためのクサビを保持するためにかけている。クサビの下には紙片を入れて、万一クサビに膠がついてしまった場合でも、クサビが楽器に付かないようにする。接着後、ニスのタッチアップをした。

表板に限らず、割れには進行する性質がある。全ての割れが進行するとは限らないが、割れが発生したら、できるだけ早く修理する事が望ましい。表板の割れでは、意外な割れがノイズの原因となっていたりするが、あまり音に影響しない割れには気づかない事もある。定期的なチェックを専門家に依頼するのも良いと思うし、何より、時にはしげしげと自分の楽器を見ることが有効なのではないだろうか。

2008年1月15日

魂柱、材料、調整

魂柱は多くの場合、表板と同じか同種のスプルースやドイツトウヒ等の材料で製作される。合板を用いた楽器の場合にはそれが最適とは限らないようで他の種類の木材を使うこともあるようだ。

しかし同じ素材であっても、さまざまな違いが有るため、選択の余地がある。魂柱の材料は、木目が通直であって2方柾に木取されなくてはならないが、年輪の間隔はさまざまだ。写真左の魂柱より右側のもの方が年輪は密である。

何を選べばよいかを一概に言うことはできないが、楽器の表板や演奏者の好みに応じて、全体の調整の方針と方向を合わせる必要はあるように思う。針葉樹では冬目が硬いので、年輪幅が狭い材料のほうが密度が高い。また、年月が経ったものの方が強度は増しているだろう。さらに、魂柱の直径との組合せもある。

魂柱自体は楽器本体に比べればそれほど高価なものではないが、音に対する影響はとても大きい。できれば手間や時間をかけた調整を依頼したい。調整にかかる費用以上の価値が楽器にもたらされることもまれではないと思う。

2008年1月6日

エンドピンのシャンク

エンドピンを受けるシャンクとエンドブロックのフィットは、エンドピンそのものに比べると見過ごされがちではなかろうか。

お仕着せではなく、素材にこだわったエンドピンを使う場合も多いのに、シャンク自体のフィットがプアなケースがある。 ひょっとすると、何らかの意図があってガタをもたせている可能性も有るかもしれないが、そういうケースは除外しよう。
困るのは、シャンクが正確にフィットされているかどうかは、全ての弦のテンションをゼロにしてからでないと分からないので、魂柱を倒すリスクがあり、演奏者が簡単にチェックできないことである。また、多少のガタがあっても、テールガットがシャンクを引っ張るので、弦を張ってしまえば、ガタのあるなりに固定されてしまい、直接のトラブルが少ないのも問題を見えにくくしているように思える。

もちろん、手段の問題ではなく、シャンクとエンドブロックのテーパーがしかるべく密着していれば、サンドペーパーや紙を挟んで修正してあっても良いと思う。しかし、シャンクに限らずテーパーを使った仕口が、互いに密着しているかどうかは、差込んだ状態で揺すっても分かりにくい。また、きつすぎてもエンドブロックを破損することになりかねない。
フィットのやり方は人によって異なると思うが、筆者のやり方では、サンドペーパーや紙のようにその都度簡単に位置がずれるものをスペーサとして使うのは難しい。写真の例では、シャンクにメープルの薄板を貼って、エンドブロックの穴にフィットさせている。写真には、もともと挟みこんであったサンドペーパーも写っている。

ともかく、エンドピンシャンクとエンドブロックのテーパーは、適正な嵌合度で密着する事によって緊結されていなければ、テーパーという仕口を使う意味は半減するし、エンドピンの素材による楽器の音の変化も不明瞭なものになってしまうのではなかろうか。

2008年1月4日

楽器と季節


String winderは、弦の交換だけでなく、楽器の調整の時にも活躍するので、欠かせない道具である。
以前から使っていたものは、何度か折れてしまい、その都度修理して使ってきたが、素材自体が劣化しているようなので、この際だから作ることにした。10年以上は使ったから、十分役割は果たしたと言えるかもしれない。

ところで、楽器はどの位の頻度で調整をするのが良いのだろうか。もちろん、個々人の自由だから、これといった決まりがあるわけではない。何かトラブルが起こってから手入れや修理を行うという方針でも良いかもしれない。あまり頻度が高くてもコストがかさむだけだ。しかし、楽器の状態は徐々に変化していくから、良い状態を保つためには、ある程度の頻度でチェックする事にも意味があるように思える。例えば、セットアップした当初は年に2回ほど調整を行い、その後は必要に応じて、調整の間隔を決めると言うやりかたはどうだろうか。

年2回というのは、四季があり湿度の変動があるからで、大まかに分けて、梅雨から夏にかけての湿度の高い季節と、秋から冬にかけての湿度の低い季節である。コントラバスの場合には、楽器が大きいために夫々の季節の状態が大きく違う。もちろん、多湿期にセットアップを行う時には、乾燥期の状態の予測を入れてセットアップを行うはずであるが、予測よりも実際の状態に基づくセットアップの方が精度は高まるのではなかろうか。季節が一巡りして調子が良ければ、翌年以降は調整の間隔を長くしても良いかもしれない。