2008年9月22日

チューニングマシン


ペグが回しにくかったり、ノイズが出たりすると使いにくい楽器になってしまう。コントラバスの糸巻きには、ほぼ例外無く歯車が使われている。見た通りの仕組で、それ程複雑な機構ではないが、チューニングマシンに問題がある場合、原因が思ったより複雑なことがある。

写真はチロリアンタイプのもので、今回の問題は、チューニングマシンそのものにあった。プレートを介して、軸に歯車を取りつける構造だが、プレートとの間にクリアランスがなく、ネジを締めると歯車と軸でプレートを締めつけてしまう。理解しがたい構造なのだが、マシンの製作者にもコンセプトがあったはずで、それを理解する努力が求められているのかもしれない。

プレートを締めつけてしまうのは、締めつけるところまでネジが締まってしまうからで、長いネジを使い、ちょうど良いところでネジが止まるようにネジの長さを切って調整すれば解決する。このケースでは、マシンの設計者は、ネジの長さで調整して欲しいと考えていたが、取り付けた人に伝わらなかったとも考えられる。しかし、これは多分に好意的な見方であって、今回のチロリアンについては、プレートの厚みは一定なのだから、最初からクリアランスを設けてあるほうが合理的に思える。それとも、ひょっとして、何時の時点かでプレートだけを交換する修理がなされたのだろうか。

ネジの長さで締め加減を調節するようなやり方は良く用いられていて、これが無視されている為に動きの渋くなったチューニングマシンもあった。歯車の反対側に軸の抜けを防止する座金とネジがついているタイプで、このタイプでネジが短いと、締めればチークを挟みつけて動きが悪くなり、緩めればネジが緩んでノイズを出すような結果になりがちである。間に革が挟んであっても本質的な解決にはならない。

チューニングマシンの動きには、正確な穴あけも重要である。穴が正確でなければ、弦に軸が引っ張られたときにプレートや歯車に余計な力がかかる。チロリアンタイプの場合には、プレートで繋がっているから夫々の穴の精度も必要な上に、隣りの穴との位置関係にも精度が必要となる。

2008年9月12日

楽器と虫


古いハイサドルを外す時、どのように付けてあるかが分からないまま闇雲に進むわけにはいかない。ハイサドルの取り付け方には決まりがないからである。

このハイサドルは3本の木ネジで固定されていた。ネジを外し、できれば古いハイサドルを形を保った状態で外したかったが、このハイサドルはリブとエンドブロックを掘りこんで強力に接着してある。外からでは内部の形状が分からないし、サドル自体を保存する意味が薄いため、ハイ・サドルを壊して取り除く事にした。

周囲との接着面に注意しながら、少しずつ掘り進むと、内部が虫に食われていた。一番下の水平方向に走る隙間は、虫食いではなく隙間である。虫食いの補修はやっかいだが、幸いな事に食われていたのはサドルの中だけで、他が食われていなかった。こういう穴を作るのはキクイムシの類で、どういう訳か、同種の木でも好みがあり、一方は食われ他は無事と言う事がある。ナラやカシなどの硬い木が好みで表板はあまり被害に遭わないようだ。楽器に小さな穴が開いて、中から木の粉が出てきたら要注意である。彼らにとって、コントラバスは単なる食べ物だ。

2008年9月3日

ニスの補修


ニスは、楽器を保護するために必要なだけでなく、見た目の美しさにも影響が大きい。引っかきキズや、打ち痕など木地が見えると目に付きやすくなって、なんとなくボロい感じになってしまう。歴史的価値があったり、博物館クラスのもののような特別な楽器でなければ、ニスの補修も行う。

写真の楽器では、表面に蓄積した松脂等の汚れを取り除いてから、打ち跡を埋め、色を合わせて、最後に全体にごく薄くニスをかけた。擦りへって下の層のニスが見えているようなところは、その雰囲気を残した。全体にかけたニスは、新たに塗り重ねると言うよりは、どちらかと言えばクリーニングの意味合いの方が大きいかもしれない。

楽器のニスに限らず、塗装は仕上がりの差が如実に目に見える行程である。楽器を直射日光に当ててチェックする事はしないが、夜に仕上げたと思った場所が、朝見るとやり直しになってしまうことがある。白日の元に晒すとは良く言ったもので、お天道様の評価たるや、実に厳しい。