2009年2月27日

3日間

急きょ楽器を拝見することがある。

普段は予約順に作業を進めているが、プロの方はスケジュールもあるし、何より商売道具だから死活問題である。事情をお聞きして、スポット的に予定を入れ、作業させていただくことになった。いつも非常に良くして下さっている方で、今回は泊まりがけでお越しになるということでもあり、感謝してもしきれない。

楽器は以前にも拝見したことのある5弦である。良い楽器だけれども表板に問題を抱えていた。今回、状態を伺って、問題の原因はその表板ではないかと予想していた。一通り楽器を拝見したところでは、予想を裏書きする証拠は見当たらなかった。証拠が目に見えない以上、その部分には故障がないと仮定しなくてはならない。今まで鳴っていたものが調子が悪くなった訳だから、どこかに良い状態があると信じて、駒と魂柱のセットアップを追求するしかない。通常動かす範囲を少し超えたところまで範囲を広げ、良いとはいえないまでもマシな解を求めて、セットアップを変えてテストするということを繰り返した。幸運なことに、この夜は荒天で、雨が降り雷が鳴り響いていたので、深夜の音出しには気兼ねがなかった。大体の方向が見えたところで、対処療法の一つとして、駒にアジャスターを入れた。アジャスターは、入れ方のコンセプトさえ明確なら機械的に正確に加工すればよいので、作業自体に迷いがないのは気が楽だ。アジャスターがついて、最終的にセットアップを微調整したあと、弦を新しいのに変え、モードチューニングをやり直し、何とか見て頂く所まで辿り着いた。

実は、作業の後半になって先の問題の証拠が見つかり、原因はやはり表板だった。ただオープンリペアでないと直せないので、今回は直さず対処療法でしのぐという方針は変わらない。楽器が出来上がった3日目に状態を説明して、試奏して頂いた。好意的に言って下さったが、言葉の感じからすると、良くはなったが期待したクオリティまでは・・・という思いもおありになったのではないかとも思う。筆者としては、考えられる可能性は全て試したという気持ちはあるが、力足らずということは認めなくてはならないと思う。状態が良ければ、プロが使うにふさわしく鳴る楽器だと思うので、楽器にも先生にも少し申し訳ない気持ちが残った。

とりあえず、楽器を車に積んでお見送りしたあと、その日は仕事をしない事に決め、コタツで寝た。目が覚めたら辺りはすでに暗くなっていた。

2009年2月24日

指板の裏


コントラバスに限らず、指板の裏は彫りこんであって、重量を軽くしている。

この部分は外から見えにくいので、大抵の楽器の場合はそれなりの仕上がりのように思う。機械の刃の跡が残っていたりすることが多いが、機能的に問題となる訳ではない。この楽器の場合は、彫りこみの量が極端に少なく、必要以上に重量が残っているようであったので、指板を外したついでに裏側の彫りこみ量を増やし、さらについでに綺麗に仕上げた。彫りこみ自体は意味のあることだが、綺麗にするのは気持ちが良いだけで音には関係ないし、余計なコストと言えるかもしれない。

一通り彫りこみを綺麗にしたら、端に割れが入っているのに気づいた。都合良すぎる話に思えるかもしれないが、良いこともあった訳である。

2009年2月22日

原因と結果


弦高が高いので弦高調整を、というお話であった。

それならということで楽器を拝見したら、弦高が尋常ではない。何か原因がありそうな高さだったので、調べると、指板の接着が浮いていて、指板とネック共に反っている状態であった。弦高が高いのはその結果のようである。指板は、弦のテンションに対抗する構造材の役割も果たしているから、浮いていればネックは弦のテンションに負けてしまう。

結局、ネックを修正してシムを入れることになった。類は友をのような感じである。この楽器の場合は、ネックの材料が新しいものだったので、シムとの境は比較的目立たなかった。シムや指板の接着は、面積が広いのでのんびりとやるわけにはいかない。工房の掛け時計には秒針がないので、この時ばかりは、秒針の付いた時計を用意する。今回の楽器は、肩の当たりからネックの付け根に至る裏板の角度の問題で、あて木を新たに製作した。ひとたび膠をかんでしまえば、最初からやり直しになってしまうので、プレッシャーがかかる。キリキリしているので、この手の作業のときは妻は寄ってこないか、間違ってやって来てもすぐに引き返してしまう。

2009年2月15日

銀ロウ


銀笛とか銀輪とか銀のつく言葉には、一種憧れのようなものが含まれているような気がする。長崎に銀嶺というレストランがあったが、今は移転してしまったようだ。銀ロウに憧れの気持ちは・・・どうだろうか。

熊本Nさんの楽器が一通り終わってお納めしたが、チューニングマシンからノイズが出だしたということで、また遠いところをお越しいただく事になってしまった。実は、このノイズは起こるべくして起こったようなもので、上の写真のようにチューニングマシンの歯車を固定するプレートが切れていたことが原因だ。このことは最初にお預かりした時から分かっていたが、今までは特にノイズは出ていないというお話だったので、今回はノータッチということにしていた。

しかし、原因は分からないけれども、セットアップ変更後にノイズを出すようになってしまった。このプレートは、外れているのではなく、接合部の付け根から切れているので、今風の考え方なら、「部品交換」ということになるのだろう。しかし、似たようなチューニングマシンでも、規格がある訳ではないから微妙にサイズも違うし、簡単に手に入らない。経験の長いショップなら、古いパーツを保存しておいて、こういう時に生かせるのだろう。

今回はロウ付けをして直すことにした。ロウ付けなら十分な強度が期待できるし、大がかりな工具も要らない。筆者は、見られていると集中できないたちなので、別室で待っていて頂いた。修行が足りないということだろうが、一人の方が作業にどんどん入っていけるのである。上手くいったので、ちょっと嬉しくて写真に撮るのを忘れてしまい、下の写真は、後日熊本Nさんにお願いしてお送り頂いた。感謝いたします。

2009年2月10日

角→丸


あまり楽器の本質とは関係ない話で、魂柱を作る時には、割った材料を円柱に加工する。

魂柱に限ったことではなく、手工具で円柱を作りたい時には、断面が正方形になるように木取りして、そのあとは手作業で8角にする。8角のあとは16角にして、次に32角という具合に細かくしていく。

旋盤が無くてもルーターがあるのだから、1/4円ずつ落として丸にした方が早いかもしれないが、一本だけだと似たような手間のように思う。大量に作るなら迷わず機械を使うと思うが、一本のときは手工具で作る方が好きだ。近似していく感じが楽しい。最終的に正確な丸になるかどうかは、この多角形が正確にできるかどうかで決まる。魂柱がどのくらい正確な丸でなければならないのかは分からない。魂柱を入れる方向は決まっているし、立てるときに表板を傷つけないような丸さであれば良いのかもしれない。

2009年2月4日

楽器の中心


シムのあと、指板のドレッシングを行ったところである。

仮に駒を乗せて位置を合わせ、指板と合うように駒の加工を進める。指板の方向に対してスクロールが別な方向を向いているのは、先に指板の方向を修正した結果で、継ネックをする日まではこの状態で置くより仕方がない。指板の方向を楽器のセンターに向くように修正したが、そもそも楽器のセンターとはどこだろうか。

スクロールから指板の先を通って、表板のセンターを通り、サドルの中心からエンドピンまで、完全に直線であるのが理想なのかもしれないが、コントラバスの場合はそうでないことが多い。さらには、表板と裏板のセンターシームもそれに一致していれば、気持ち良いことこの上ないのかも知れない。しかし、そもそもセンターシームが左右のf穴のセンターに来ている場合ばかりではなく、製作の精度や経年変化などで、ずれていることもしばしばのようである。楽器自体左右非対称に作られている場合もあるし、センターシームとエンドブロックの中心が合っていないこともある。

楽器の中心が分からないとしたら、駒を置くときに困る。沢山の楽器を見ている経験豊富な人なら勘に頼れる部分もあると思うが、。筆者の場合は基本的にはf穴を基準にして、センターシームも参考にするくらいである。結局はその時その時で判断する(悩む)ということになってしまう。