2009年5月19日

チューニングマシンとロマン


マシンが新しいと、光って綺麗である。

ソリッドの真鍮の磨き仕上げだから、時間がたてばくすんでくるが、それも真鍮の良さではなかろうか。写真から分かるとおり、軸はアルミで、真鍮色にアノダイズ(?)されていたので、切った面はアルミの地の色がでることになった。マシンが軽いというのは、軽いエクステンションが有利なのと同じで、振動を妨げにくい利点があり、アルミはその点で有利だ。オーナーの方もそのことを念頭にマシンを選択されたとのことだった。ギアのセンターのネジやウォームギアがステンなので、アルミ色もなかなか良いのではないかと思う。

付属していた取付用のネジは、oval headと呼ばれるネジの頭部が少し丸めてあるタイプだった。通常のフラットヘッドもすっきりして好きだが、このマシンにはオーバルヘッドが良く合っているのではなかろうか。仕上がったマシンを見ながら一人感慨にふけっていても、家人は「男のロマンなのか?」とそっけなかった。
・・・と日記には書いておこう。

50:1のギア比は、回す回数は増えているはずだが、その後のオーナーの方のお話では、簡単に巻けるので感覚的には早く弦交換できるように思われるとの事であった。ともかく、一旦巻いてしまえばチューニングの感触は素晴らしい。もちろん、Irving Sloane以外にも良いマシンは沢山ある。どんなマシンがどんなふうに着いているのか、コントラバスならではの見どころの一つと言えるかもしれない。

2009年5月17日

チューニングマシンの配置


話が前後するが、ブッシングすると、新しくつけるチューニングマシンを好きなように配置することができる。写真上は、仕上がったペグボックスである。

好きなように、と言っても実際はかなり厳しい制約がある。まず第一は、ペグボックス内で、軸が他の弦と(なるべく)干渉しないようにしなくてはならない。次に、ペグ自体がなるべく互いに近寄りすぎない方が良いと思う。不必要に離れるのは良くないが、ワインダーを使うときにはペグの取っ手が近すぎると使いにくい。これに加えて、軸とペグボックスの底とのクリアランスを確保し、チューニングマシンのプレートがスクロールチークからはみ出さない範囲に穴を開けなくてはならない。

現実には、第一の条件の、弦の干渉を避ける事すらできないことも多い。殆どは、ペグボックスの設計とペグの軸の直径によって決まってしまうためである。良く見かけるのは、D線とG線の軸が干渉しているケースで、詳しく説明はしないが、G線とD線がどこかでクロスするので、弦をうまく配置しにくい。

今回はGペグの軸をなるべく低くし、Dペグの軸をできるだけ高くしたうえで、Aペグの軸でD線を持ち上げ、G軸とD線が干渉しないように配置した。D線とG軸の間に弦一本分の空間ができたので、G線の巻き部分がD線に当たらない。

やってみたことはないが、チューニングマシンの配置があまりうまくない楽器でも、弦を巻くマシンを入れ替えることで干渉を避けている人もいるようだ。例えば、G線を通常D線が入るペグに巻き、D線はG線のペグに巻くということのようである。ペグ位置が変わるので、あまり気分は良くない気がするが、他に手段がない場合には試す価値があるかもしれない。

ペグボックス内で、悠々自適なのは大体においてE線で、他の弦に干渉することもされることも少ない。

2009年5月10日

チューニングマシンとスクロールチーク


チューニングマシンの軸穴の配置を決め、穴をあける。

チューニングマシンの軸が滑らかに動くために最も重要なのは、マシンが付く側のスクロールチークに対して、正確に垂直に穴を開けることである。垂直でなければ、弦のテンションがかかった時に、チューニングマシンのベースと軸の間に無理な力がかかり、滑らかに動かなくなってしまう。

軸の穴が正確に開いていれば、軸の穴は軸が自由に動く範囲でピッタリの方が見た目が良いのではないか。Irving Sloaneのマシンは、軸穴を貫通させないことを前提で作られているように思うが、今回は軸が補強部分にかかっていた方が良いと判断して、貫通させるやり方を選んだ。軸が受ける弦のテンションを、補強部分でも支える方が無理が無いと考えたためだ。

2009年5月5日

スクロールチークの補強


オーナーの方のご希望で、スクロールチークをの補強を行った。

古い楽器などでは時折見かける補強で、この楽器もブッシングの穴が互いに繋がる位になっていたので、補強は適切な判断だったのではなかろうか。ブッシングのあとを綺麗にし、古いチューニングマシンの彫りこみを埋めてから、補強の板を着ける。板を張る前は、継ぎ接ぎだらけのようだが、スクロールチークの厚みに対する彫りこみの深さはそれほどでもないので、強度を損なうような状態ではないように思う。

スクロールチークの厚みが左右で均等になるように補強の板の厚みを調整し、オリジナルの形を変えないように、成形していく。写真では分かりにくいが、下の写真の手前手前側のペグボックスの底の角は、補強板と一体にすると面が大きくなるし、元の面の大きさが分からなくなるので、もともとの面をなるべく残すように作った。この楽器のペグボックスの付け根付近は過去にも何らかの補修を行ったようで、塗られているニスの色が多少違う。以前は、付け根からスクロール付近の色まで徐々にグラデーションされて、色の違いを吸収していたようである。

2009年5月1日

チューニングマシン・チューン


今回のイタリアンのチューニングマシンは、何度か交換されたようで、複数回のブッシング跡があり、チューニングマシンの跡を埋めた所もある。今ついているマシンもそれほど悪いものではなさそうだが、オーナーの方はマシンの交換を希望されていた。交換するマシンは、Irving Sloaneのもので、ベースはキャストブラス、ギアの噛み合わせの精度が高く、ガタは殆どゼロである。パテントを取っているのがどの部分かは分からないが、樹脂製のワッシャなどを用いていて、動きはとても滑らかである。

チューニングマシンを交換するには、ペグ穴を埋めてあけ直す必要がある。コントラバスのペグ穴は、テーパーが付いたものと付いていないもの両方あるが、今開いている穴はテーパーありである。テーパーのついたメープルの棒を作って差し込み、接着して埋める。コントラバスの場合は、チューニングマシンの構造からいって、機能の上からは軸にテーパーがついている必然性はないように思う。Irving Sloaneのものはテーパー無しだ。