2009年10月15日

時間

楽器の持主ほど、その楽器を見ている人はいないのではなかろうか。
もちろん、修理や調整を行う人も、楽器を念入りに観察する。


其々に、見る場所やスタンスが違うかもしれない。楽器の構造や特性に対する情報量の違いから、特に修理する側には、より一層の注意が要求されて当然ともいえる。極端な話、持主より修理する人間のほうが、より多くを見ていておかしくないはずである。つまり、「おまかせでお願いします」と言っても良いのかもしれない。しかし、この考えは、正しくないと思う。持主のかたの情報の重要性は変わらないことを強調したい。修理・調整に演奏する方のスタイルや希望を反映するために必要なだけでなく、楽器と過ごしている時間が圧倒的に長い人の意見が重要だからである。

楽器を初めて拝見したときには、必ず各部の測定を行って、修理や調整の方向を相談させていただくことにしているが、何日かその楽器と過ごすうちに分かってくる事がある。私の力不足や、鈍いために時間がかかるという面もあると思うが、いくつかの問題の本当の原因のようなものに、ハタと行き当たる時がある。作業を進めるうちに、新たな問題点が出てくることも少なくない。ともかく、私の場合には、その楽器の事が染み込んでくるまでには少し時間がかかる。

持主の方は、最も長くその楽器と時間を過ごされている訳だから、楽器のことを、現象としては最もよく理解されているはずである。具体的な原因が明確でなくても、原因を見つけるのは修理者の仕事である。なんとなく感じる事でも、瑣末に思えるような事であっても、作業する上で重要な手掛かりになる事があると思う。

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