既にネックは少なくとも一度リセットされていた。ネックブロックの写真右側は埋め木がされていて、深さは分からないが新しい木が追加されている。また、左側の古い部分は、剥がれたが付けなおされた状態で、接着には隙間があり、ネックを良い状態で支えられるとは思えなかった。さらにサイドに入れられたシムは、部分的に入っているだけで密着度が低いうえ、壁自体にも亀裂が入り、ブロックとは一体ではなくなっていた。
この状態が分かった以上、このままネックをリセットするわけにはいかない。このままでは間違いなく楽器の効率は上がらない。ネックリセットの前に、ブロックを交換するか、補修するかである。結局補修することにした。埋め木と剥がれの部分を掘り進むと、深さはそれほど深くなく、ネックブロックのサイズから、悪い部分を取り除いても、強度が保てると判断した。10mmほどブロックを掘って、以前の補修跡をまたぐように埋め木をし、さらに壁の部分を補強する事にした。ネックブロックは、割れて3つに別れた形跡があり、接着されていた。今回は、この割れた部分をまたぐようにこれを埋めた。
この楽器のネックは、彫り込まれている深さが比較的浅いタイプである。深く掘られているかどうか、また、さらにもう一段ホゾが付いているかどうかは製作方法の違いであって、優劣の違いではない。楽器の他の部分の構造とも関係して、楽器のキャラクターを決める一つの要素であると言われている。
ネックの方は、綺麗にクリーニングする。今回は、部分的に膠ではない接着剤が使われていたので、クリーニングには時間がかかった。膠でない接着剤は、除去に時間がかかるだけでなく、完全に取り除くのは難しい。一部残った部分もあるかもしれないが、殆ど影響は無いと思う。
裏板のボタンと接着されるヒールの部分は、大きく面がとられていた。この部分は多少は、面取りした方が良いが、面にしてはあまりにも大きいので、木を足した。木口接着に近いが、ボタンとの接着面積を多少は稼ぐだろう。
今回の指板交換に伴う、ネックリセットとブロック補修は、オーナーのかたには、予想外の出費となったと思うが、結果的には良かったのではないだろうか。外からは見えない部分ゆえに、こういう機会でもなければ、ブロックの状態は分からなかったのではないだろうか。