2009年11月26日

ネックリセットのはずが

ネックをリセットする事になり、ネックを外すと、ブロックの状態はおもわしくなかった。

既にネックは少なくとも一度リセットされていた。ネックブロックの写真右側は埋め木がされていて、深さは分からないが新しい木が追加されている。また、左側の古い部分は、剥がれたが付けなおされた状態で、接着には隙間があり、ネックを良い状態で支えられるとは思えなかった。さらにサイドに入れられたシムは、部分的に入っているだけで密着度が低いうえ、壁自体にも亀裂が入り、ブロックとは一体ではなくなっていた。

この状態が分かった以上、このままネックをリセットするわけにはいかない。このままでは間違いなく楽器の効率は上がらない。ネックリセットの前に、ブロックを交換するか、補修するかである。結局補修することにした。埋め木と剥がれの部分を掘り進むと、深さはそれほど深くなく、ネックブロックのサイズから、悪い部分を取り除いても、強度が保てると判断した。10mmほどブロックを掘って、以前の補修跡をまたぐように埋め木をし、さらに壁の部分を補強する事にした。ネックブロックは、割れて3つに別れた形跡があり、接着されていた。今回は、この割れた部分をまたぐようにこれを埋めた。

この楽器のネックは、彫り込まれている深さが比較的浅いタイプである。深く掘られているかどうか、また、さらにもう一段ホゾが付いているかどうかは製作方法の違いであって、優劣の違いではない。楽器の他の部分の構造とも関係して、楽器のキャラクターを決める一つの要素であると言われている。

ネックの方は、綺麗にクリーニングする。今回は、部分的に膠ではない接着剤が使われていたので、クリーニングには時間がかかった。膠でない接着剤は、除去に時間がかかるだけでなく、完全に取り除くのは難しい。一部残った部分もあるかもしれないが、殆ど影響は無いと思う。

裏板のボタンと接着されるヒールの部分は、大きく面がとられていた。この部分は多少は、面取りした方が良いが、面にしてはあまりにも大きいので、木を足した。木口接着に近いが、ボタンとの接着面積を多少は稼ぐだろう。

今回の指板交換に伴う、ネックリセットとブロック補修は、オーナーのかたには、予想外の出費となったと思うが、結果的には良かったのではないだろうか。外からは見えない部分ゆえに、こういう機会でもなければ、ブロックの状態は分からなかったのではないだろうか。

2009年11月21日

指板交換のはずが


楽器全般のチェックとともに、指板交換のご依頼をいただいた。

交換の理由は指板が薄いためである。薄いだけなら、あと一回くらいは、ドレッシングできそうでもあったが、反りの量が大きいため、交換が望ましいと判断した。

チューニングマシンの調子も良くなかったため外し、ナットを外し、指板を外す。指板は常に綺麗にはがれる訳ではないが、今回の楽器は順調であった。指板の裏側とネックの接着面は、接着を確実にするため、ナイフで傷を付ける事があり、今回の楽器でも付けられた跡が見える。外した指板の裏にはサインがあり、さらに割れを補修した跡があった。

指板を外し、ネックを綺麗にしていると、どうも様子が変である。ネックに剛性感が無い。最初に楽器を拝見した時に、ネックの付け根部分と表板の間に隙間があり、少し気になっていた。この部分は表板に弦のテンションを伝えるところなので、極力密着している方が良いのではないかと思う。一見ついていないようで、ついている場合もあるが、今回は、やはりネックの接合に問題がある。隙間はナイフが簡単に入る所もあった。

ネックは緩んでいてもすぐに外れてしまう訳ではない。この楽器でもボタン部分はしっかりしており、弦を張って弾くことは可能である。しかし、緩んだネックでは、弦の振動が吸収されてしまい、効率をあげる事は難しい。オーナーの方と相談して、ネックのリセットを行う事になった。

2009年11月13日

古色

チューニングマシンは、使いやすく手入れされているのが一番で、見た目は二番かもしれない。

オーナーの方の希望にもよるが、古いチューニングマシンなら、なるべく時代を残しつつ綺麗にする。古くて良く手入れされた機械は良いものだ。新品のチューニングマシンも嬉しいものだが、もともとの作りが良かったり、特色のあるマシンなら、手入れして長く使いたい。

たいていの場合、古いチューニングマシンのギアの歯の間には、油とほこりが固く固まったものが詰まっている。もし、全体をピカピカに磨いてしまうなら、有る程度強硬な手段もとれるが、一つ一つ取り除く事もある。世の中を変えるとも思えない地味な作業である。真鍮製のパーツであれば、緑青の部分は取り除きたいけれども、表面の味は残したい。スチールのパーツであれば、汚くなったさび部分は取り除きたいが、全部をピカピカに磨いてしまうと時代が無くなってしまう。メッキパーツや、普段からよく磨かれていて光っている部分は、基本的には綺麗にしてしまう方向で、錆や酸化した表面のテクスチャは生かしながら、見た目が良くなるよう努力する。
写真の奥側が作業前で、緑青で少し緑がかっている。緑っぽいのが取れるだけでも、良い感じになると思う。家人の反応は薄かった。一見すればあまり変化は無いが、各部分の汚れやゴミが取り除かれ、動作は快調になった。
もともと、チューニングマシンの手入れを行ったのは、外観のためではなく、動作の問題だったので、快調になったのが一番だ。反応が薄くても良いのである。チューニングマシンが固い理由はさまざまで、今回は、対向するチューニングマシンの軸が長く、写真のようにプレートと軸が干渉していたのも一因であった。スクロールチークは、軸方向が板目面だから、年を経るにつれてスクロールチークが収縮して、幅が狭くなったのかもしれない。作られた当初は干渉していなかった可能性もある。
チューニングマシンの各部は、使えば減ってくるから、ギアのかみ合わせ部分の当たり方も変化してくる。この楽器では、ウォームギアの飾り部分との干渉も発生していた。なるべく違和感のないように干渉部分を落として、ようやく使いやすい感じになった。

2009年11月4日

指板のビビり


「弦がビビる」を、もう少し専門家風に言いたいのに、良い言葉が見つからない。「ビビる」が、方言なのかどうかも分からない。
「弦が指板に当たってノイズが出る」と言うべきだろうか。少し長い。

ビビるのは、多くの場合、指板の反りが適正でないのが原因である。今回は2か所でビビるという事で、一か所はネックの付け根付近で、もう一か所はD線の解放の半音上のE♭であった。

E♭の方は指板が原因であった。EとE♭間辺りを境にして、ナット側の方が低くなっていた。E♭を弾けば指板がビビるわけである。E♭と解放の間は通常は弾かないので、この部分が減るという事は通常は考えにくい。原因は不明である。と日記には書いておこう。
逆の状態は良く見かける。指板のハーフポジション近辺は良く使うので、弦の下が掘れて溝になり弦高が高いのと同じになってしまう。指板全体が一定に削らず、溝になった部分だけを削るような修理がおこなわれると、見た目は良くなるがナット側の弦高は高いままなので、かえって弦高が高くなってしまう。

ネックの付け根付近でのビビりは、どうやら弦が原因であったようである。弦が経年変化で、テンションが下がっているような感触だったので、それが原因で指板に当たるようになったようだ。上のE♭のビビりも、弦のテンションが高いうちは目立たなかったのかもしれない。