2009年1月27日

指板のシム


ネックの割れの補修を終えると、ネックはしっかりして、これなら大丈夫と言う気がした。

しかし、ネックの反りは十分には戻らなかった。指板との削り合わせを考えると、駒の高さが低くなってしまうので、指板下にシムを入れる事にした。

シムとは薄い木片のことで、シムを入れると指板の取付の自由度はとても大きくなる。一つには、ネックの反りを吸収して、指板との接着面を平面にできる。また、指板の角度を変えることができる。指板のG側E側の高さの調整もできるし、さらに指板の方向も調整がきく。シムの一番の問題は、見た目が良くない事である。また、ネック下がりのような問題には根本的な解決にはならないようである。

この楽器の場合は、現状より駒の高さを高くしたほうが良いように思われた。シムの厚みを調整する事によって、駒の高さを理想的な状態に出来る。また、本体のアッパーバウツの巾が広く、オーナーの方から弾きにくいと伺っていたので、指板のE線側の高さを上げる事にした。これは左右のバランスを無視して行うわけではなく、現状ではE線側が低くなっていたので、これを正常な位置に戻すという事になるので、非常に都合が良かったのである。

また、コントラバスでは良く見られるが、この楽器でも指板が楽器のセンターからずれていた。今までは、駒は楽器のセンターずれた位置に置かれていたが、これでは理想的な状態ではない。駒の左右の足の長さを変える事によっても指板のズレに対応できるが、左右の脚の長さの違いが大きすぎると良くない。今回は、指板をつけ直すので、指板の取り付け方向を変えて修正する事にした。元の指板を再使用するので、指板のナット側を詰めて指板の巾を稼ぎ、指板を正しい方向に取付ける。この時シムが入っているとネックとの段差をならしやすくなるのである。この方法では、指板が短くなるのでハイポジションに不満が残るが、将来必要に応じて指板を延長すると言う事で了解していただいた。駒の脚の長さや、駒の高さ、駒の左右の位置を適正な範囲に保つ事の方が重要であると判断していただいた訳である。この判断は結果としては大正解であった。

2009年1月22日

ネックの補修


スクロールチークの補修が終わり、特に問題が無ければ、指板のドレッシングを行う予定だった。

しかし、どうもネックを持った感じが良くない。剛性感が不足している感じで、指板とネックの合わせ目が直線ではないし、ナットの位置がペグボックス端からずれているのも気になる。指板はしっかりついているように見えるものの、部分的には怪しいところもあるようだ。

状況としては大変疑わしいけれども、あからさまに指板が剥がれてはいないし、機能としては使える状態である。現にオーナーのかたは使ってこられた訳だから、補修は必要無いと思われるかもしれない。こういう状況では、人の信頼が本当に身に染みる。これこれの訳で指板を付け直したほうが良いのではないかとお伝えすると、快く了解して下さった。

指板は思ったよりもしっかりついていて、自分の見立てが間違っていたのではないかと思ったが、外してみると、ネックの内部に沢山の割れが入っていた。中心の割れには以前補修した跡があり、流し込んだ補修材料が黄変している。ここからは推測になるが、こういう干割れのような割れは、ネックを製作する材料の段階では既に入っていたのではなかろうか。割れの部分は落ちると踏んで製作したが、割れが残ってしまったかのようである。見えるところに達している割れが少ないので、補修して使おうとしたのではなかろうか。先日のナット下のペグボックスチークの割れも、結局これと同種の割れのようである。

割れは多数あり、一つずつ補修して行く事にした。同時に、ネックの反りの矯正も進める。かなり時間が経っているようなので、反りは十分に戻らないかもしれない。最も根本的な修理方法は継ぎネックということになると思うが、費用がかさむ。この次にネック周辺に補修が必要になったら、その時は継ぎネックという事になるのではないかと思う。

2009年1月17日

ペグボックス


特に構造的には問題が無いという事でお預かりしても、作業を行ううちに色々と問題が出てきて、仕上がりが長引くケースがつづいている。

こうなると、オーナーの方も不安になるのでは無いかと思うし、作業を行う側としても出口がどんどん遠のいて行って辛い事になってしまうが、一旦泳ぎ始めたら、岸に着くまで泳ぎきるかしかない。こんな時でも、オーナーの方々が信頼して待ってくださっている事には本当に感謝している。

肩の補修が終わり、ナットを外してみると、スクロールチークに割れが入っていた。以前にも書いたが、この部分には弦のテンションの全てがかかっているので、見なかったことには出来ない。仮に割れが今以上に進行しないとしても、この部分の強度が不足すると、楽器の効率は落ちるのではないかという気がする。師匠は良く楽器を車に例えるが、剛性感がない感じになるような感じがする。割れをクリーニングして膠を入れたが、今回は上手くつかなかった。恐らく割れ自体が古く、割れた面が酸化して脆くなっている上、割れた面同士を密着させようとすると、内部に応力が残ってしまうのでは無いかと思われた。

割れの部分を取り除き、新たな埋め木を入れて接着の強度を出す事にした。接着面のクリープを防ぐためのピンも入れた。この楽器のチューニングマシンはチロリアンタイプなので、プレートでピンが隠れる場所を選んだが、プレートを止めるネジ穴との兼ね合いで、スペースはかなり厳しかった。

2009年1月11日


楽器の肩の部分は手や腕が触れるので、傷み易いところである。

この楽器の表板と側板の間は、見た目はついているようでも、ナイフを入れるとゆっくりと入っていく状態だった。汚れや膠やホコリなどが混ざったようなもので塞がれていたようである。接着面を綺麗にしてから、膠を入れたが、圧締の途中で、外ライニングも浮いている事が分かり、急遽やりなおしである。

コントラバスの場合は内側だけでなく外側にライニングがついているものが有る。今回は内側は問題無かったが、外ライニングと側板の間は剥がれていて、汚れで塞がっていた。ライニングの表板側は少し変形があり、表板には密着しないので、隙間には埋め木が入れられていた。最初は表板のダブリングかと思ったが、ライニング側のものであった。

この楽器のライニングは、側板だけでなく表板の歪みに添って複雑に曲がっているので、出来るだけ表板に密着するように努力して、残った隙間は元の通り木で埋める事にした。元の埋め木は表板に合わせて木口埋めだったが、ライニングの問題なので今回は木端埋めにした。上側の写真で見えるように、埋め木を入れた後に表板の汚れを取ると白く木地が出てきた。ニスの様に見えていた表板の色は大部分が汚れで、実際にはこの部分の表板のニスは殆ど残っていなかったようである。埋め木の色を合わせ、硬めのニスを塗り、周辺のニスも少しリタッチした。写真の右下の方には、いつ頃のものか大きな補修跡も見えるが、この部分には剥がれや緩みは無いようであった。

2009年1月5日

Get up!


側板の補修をした後、補強の為に内側からリネンパッチをすることが有る。
f穴からの作業ではただでさえ制約があるから、楽器の向きを重力を利用できる方向にすると作業がやりやすい。

エンドブロックの脇の側板の割れで、f穴から届くギリギリの所であったため、楽器を立てないと上手くリネンパッチを貼れ無いように思われた。楽器を立てて作業したところ、うまく収まった。側板の割れは、弦のテンションを取り去ってからでないと、正確につけるのは難しい事がある。大きさはそれほどでもなかったが、この楽器の場合には、割れの周辺に大きなパッチがあったりして、何らかの補強は必要な感じがした。

新年の縁起物だからこの写真で行こうと思うと、妻に話したら、「茶柱か。」
J.B.ならぬD.B.のGet upなんだと説明しても、「そんな事考えている時間があるんだ・・・まあ、うるおいも必要なんだな・・・」と妙な同情をうけた。