2009年12月26日

リセットの後

裏板のボタンは、ネック周りの修理のたびに少しずつ小さくなるので、古い楽器には黒檀のクラウンがついている事がある。

クラウンの目的は、小さくなったボタンを補う事で、場合によってはボタンの位置を調整するために用いられることもある。この楽器では、以前にネックリセットされた時に、ボタンは削りなおされており、今回のネックリセットと形が合わないので、クラウンを作った。ネックの脇を埋めている部分も、新しく製作した。


作業前にあったネックと表板の間の隙間もネックリセットによって密着した。この部分とサドルに挟まれて、表板は弦のテンションによって、上下から押さえられる。逆に言えば、ネックは表板によって押し返され、支えられているのだから、直接触れ合っていた方が良いのではないだろうか。

指板を新しくして、ドレッシングを行った。私の場合は、指板のG側の角の面を少し大きめにする。G側は指が触れるので、指板の側面の形も少し変えていて、触った感じの方を優先している。E側は・・・見た目優先である。家人の反応は薄い。

2009年12月22日

チューニングマシンを見ながら


ギアが大きいチューニングマシンは立派で見栄えがする。

しかし、今回のチューニングマシンのように比較的ギアが小ぶりなものも雰囲気があって良いと思う。どことなく古風な感じがして好感を持った。写真は、上がクリーニング後のものである。

今回の物は、ギア比が約20:1で、つまりペグを20回回すと軸が一回転する。以前に取り上げたIrving Sloaneは50:1である。ギア比が大きければ、ペグ一回転あたりの軸の回転が小さくなるので、微妙な調整がしやすいという理屈である。ただ、実際にはナット部分の調整や、チューニングマシンの動作の状態によって、大きくフィーリングは変わる。また、実用上は20:1でも十分であるように思う。実際今回のマシンで、微妙な調整も可能で、ペグを回す力も十分に軽くて済み快適であった。


考えてみれば、ガット弦のようなタイプの弦は、スチール弦に比べてたくさん巻かなくてはならない。チューニングマシンと弦との関係で言えば、ギア比が小さい方がバランスが良かったのかもしれない。ひょっとするとスチール弦の出現が、大きなギア比への指向を生んだのかもしれないなどと想像しながら、今回のマシンをしばし観賞させていただいた。

2009年12月15日

勝手

チューニングマシンを外す時、ついていた場所をマークする。

同じように見えても、鋳物であればパーツの大きさなどにばらつきがある。また、元は同じだったとしても、長年弦のテンションを受けて擦り減ったり、変形している可能性がある。それぞれの場所に戻さなければ、動作が固くなる事もありうる。勝手があるということだ。

今回のチューニングマシンは、汚れてもいるし動きが良くないため、外して調整する。作業にあたってついていた場所をマークした。各部を綺麗にするのは例によって一仕事である。掃除をする過程で改めてよく見ると、以前に付けられたマークに気付いた。

マークは、上の写真で分かるように、真鍮パーツの裏側に引っ掻いて付けられていた。マジックのは今回付けたマークである。(もちろん元に戻す時に消す。)基本を押さえた人がつけたマークなら、字だけでなく字の向きにも意味があるのが普通だ。もとのマークに従って並べ替えてみたところ、D線以外は相互に入れ替わっていた。パーツによっては、ひっくり返ったものもある。この配置がおそらくオリジナルの配置で、過去に修理で外された時に混ざって取り付けられてしまったのではないだろうか。

はたして、オリジナルの配置に戻ったマシンは調子を取り戻した。汚れなどを落とし、各部の修正を行った事もあり、期待した通りの軽快な動きだ。

2009年12月11日

エンドピンのネジ


ネジで止めるタイプのエンドピンでは、エンドピンを止めるネジを無くした時、他のネジで代用されている事がある。

しかるべく作られているネジなら、エンドピンの材質より軟らかい材質で作られているのではないかと思う。クロムメッキされるなどして一見分からなくとも、エンドピンを傷つけないための配慮である。ネジは真鍮製であることが多い。スチールのエンドピンをスチールのネジで止めるのと、真鍮のネジで止めるのとでは感触も止まり方も違うように思う。

スチールのネジの場合は、エンドピンとネジが当たった瞬間にガチっと止まってしまい、それ以上の締め付けが効きにくい。力を入れて締めても、何かの拍子でエンドピンとの位置関係がずれると、止める力が小さくなってずれてしまう事もある。真鍮のネジは、エンドピンに当たっても、ぐっと締まる感じがある。ネジの方が柔らかいので、すこし変形しつつ締まるような感覚である。緩みにくいのではないだろうか。

代用されるネジは、手近なスチールものであることが多い。何でも純正部品、という考えには与しないが、材質など配慮されている物については、使う理由があると思う。

2009年12月4日

ネックリセット


ネックの接合部分は、楽器の中では唯一と言っていい位、仕口らしい仕口である。言えば締まり勾配のついた蟻ホゾという所か。強度のある仕口にするには、物理的な形による接合強度もあるが、膠で接着するわけだから、互いに密着していなければならない。コントラバスの場合、ネックの強度におけるボタンの寄与は、ヴァイオリンで言われるほどは大きくないとも言われている。本当かどうかは分からないが、仕口全体の接着面積に占めるボタンの割合によるだろう。いずれにしても、仕口部分が精度良く作られ、接着が良く効いていることが前提である。

ネックをリセットする時には、先に述べたOverstandを変えるかどうか検討する。今回、overstandは標準的な寸法の範囲である。オーナーの方はオーケストラ中心に使用されているという事であり、最初に試奏させていただいた感じから、overstandは変えない事にした。もっとも、指板を新しくする事で、指板の厚みが増える分overstandを増やすのと同じ効果を期待したためでもある。Overstandを大きく取り過ぎると、楽器の厚みが増えたのと同じになって、ネックが体から遠くなってしまう恐れもあると思う。特にこの楽器はアッパーバウツの幅が大きいため、普通の音域での負荷とハイポジションでの負荷のバランスをとる事が必要ではないかと思う。

ネックリセットは、ネックのセンターを楽器のセンターに合わせ直すチャンスでもある。表板のネックbuttの中心、f孔間の中心、センターシーム、楽器の巾の中心と測るところはいくらでもある。また、裏板のボタンや裏板のセンターシームとの整合も取る必要がある。これらは全て一致するわけではなく、事前に着地点を検討する必要がある。全ての値を希望する値にしつつ、ネックとブロックが仕口として正確に合うように削っていく。コントラバスは、その大きさもあり、取り付けては測り、外して削り、また取り付けて測るという繰り返しは大仕事だ。レーザーで基準を決めておけば、仕事は幾分楽になる。