2010年5月28日

black bass 8

少し駒の高さを上げるため、指板下のシムで角度を調整した。
駒を作り、弦を張って楽器らしくなった。

指板の形は、持主の方のスタイルを少し反映したものにした。通常弦高は、指板の表面が基準になるから、指板のG-E方向(と筆者は呼んでいる)のRの大きさは、弦の並びに影響がある。
Rが大きいと、弦は平面に近く並ぶ事になって、弓で弾く場合に隣の弦とのクリアランスが小さくなる。これが極端になると、実用上差し支えるので、平らな指板では、D線とA線の弦高を高くして、クリアランスを稼ぐ事がある。

ヴァイオリンシェイプの楽器では、Cバウツのコーナーがアクセントになるので、ここが欠けると、とたんに寂しい感じになる。少しだけなら、ニスでカモフラージュされている事もある。この角は、補修した。
色が濃い楽器でも、ニスが擦れてくると木目が現れてくるはずだから、年輪の幅や方向を一致させておくにこしたことは無い。

ニスを塗り重ねられた楽器であっても、全体にニスを新たにかけて、綺麗にしてしまうのが良いかどうかは難しい所だ。
このケースでなくても、ピカピカにしてしまいたい誘惑は常にある。高価な歴史的価値の高い特別な楽器でなくても、何らかの合理的な理由がいるのではないだろうか。

持主の方に試奏して頂きながら、最終的に弦が決まった。
出来あがってみれば、しっかりした箱で、今まで直して使われてきた理由が分かるように思った。残響のない工房の中でも、ホールのような響きがしていた。
今回の補修は、全ての問題を完全に解決したわけではないが、弾いて頂きながら、必要に応じて少しずつ進めていけば良いのではないだろうか。

2 件のコメント:

necobass さんのコメント...

necobass@持ち主です。

毎度難しい修理になってしまい申し訳ありません<(_ _)>
お蔭様でBossもBlackも元気にしてます。
こちらで2台の修理経過を読む度に、どれだけ愛情が注がれて帰ってきたかを知り感慨無量です。

Blackはシッカリ弾き込んで…と思っていましたが、ふと経過観察(放置)の方が良いことに気付き、最近ようやく弾き込み始めました。
馴染むのをジックリ待って正解でした。
柔らかでありながら明瞭な音がしています。
そして何より弾きやすい!!
あのボロボロだった楽器が…ねぇ(T_T)

来月中旬の本番がBlackのデビューになります。
今からとても楽しみです。

本当に有難うございました。
来週お会い出来るのを楽しみにしてます♪

yamaguchi さんのコメント...

necobass さんコメントありがとうございます。

こちらこそ、いつもありがとうございます。
月並みですが、望んで簡単に得られるものでないだけに、やはり楽器とのめぐり合わせは不思議ですね。修理する立場ですから手間をかけるのは当然と言えば当然ですが、それも持主の方の愛情が無ければ虚しいものになってしまうのではないでしょうか。

愛情というと漠然としますが、思い入れのようなものは、修理やセットアップに影響を与える事があるように思います。演奏のスタイルだけでなく、楽器や音に対する思い入れは、リペアの途中の選択肢に無意識に影響を与える事があるように思います。
具体的な事例や根拠があって言っている訳ではありませんが、持主の方の望みや思いが強ければ、作業する者に影響を与え、望みをかなえる力になるという事もあるのではないでしょうか。

あたかも互いに惹かれあうような出会いの様子を伺って本当に不思議です。さらに、その出会いが演奏となって、聞き手の耳を喜ばせる訳ですから、世の中本当に不思議です。

Black君のデビューおめでとうございます!