2010年10月20日

コンテムポラリー・イタリアン2

 誰しも、何となく習慣にしている事があるのではなかろうか。
大抵の場合、ペグボックス周辺の修理は、修理の初めの段階で行う事が多い。

チューニングマシンの調子が今一つ良くないので、分解して一通り対策をする事になった。
この楽器のチューニングマシンの軸は金属製だけれども、ギアを固定するネジが木製の飾りネジになっている。色々お話を伺っていると、「木の飾りネジを外した方が音が良くなる」という現象が起こるらしい。しかし、この飾りネジは、ギアを固定する役割があるので、外してしまう訳にはいかなかったとおっしゃっていた。

木の飾りネジには重さがあるから、その影響もあるかもしれないが、あまり重たいものではないので、メジャーな理由ではないと思う。調べてみると、ペグの軸とスクロールに開けられた穴の位置関係が良くない。飾りネジを締めると、ペグの軸の先が穴の中で浮いてしまうのである。カンチレバーのような状態である。建物探訪風に言えば、キャンティレバーか。飾りネジを外すと、軸はペグボックスの穴に密着し、弦のテンションをしっかり受けられるようになるので、音が良くなったのではなかろうか。

このチューニングマシンを使い続けるという前提であれば、ブッシングして穴を開けなおすのがベストである。今回は、将来交換する可能性もあるという前提で作業した。歯車と軸の接合部分を少し加工した上で飾りネジを交換し、軸に自由度を持たせて、穴の中で浮かないようにした。木の飾りネジは、ご本人はあまりお好きでなかったので、別に保存して頂いた。必要なら、いつでもオリジナルの状態に戻すことができる。。
 
ちなみに、この楽器ではE線の軸より、G線の軸の方がナット寄りになるようチューニングマシンが配置されている。細い弦の方が曲げやすいから、G線がナットに近い事には合理性があるように思える。音にも影響はあるだろうか。あるかもしれない。

4 件のコメント:

Bass爺 さんのコメント...

山口さん、美しいスクロールですな。渦巻きの曲線と木目とが相まって、じっと見つめていても見飽きることがありません。「製作精度は、写真の渦巻きを見ていただければ、分かっていただけると思います」というドイツ・ヴァイオリン制作マイスターS氏の(自信に満ちあふれた)言葉が思い浮かびました。

ところで「E線の軸より、G線の軸の方がナット寄りになるようチューニングマシンが配置されている」楽器がこの世にあることを知らなかった頃、某氏のコントラバスリサイタルのチラシに、ライオンヘッドがクローズアップされてデザインされているのを目にしました。よく見るとチューニングマシンの位置が一般のものとは逆になっていたので、これはてっきりデザインの都合(ライオンの顔の向き)でポジ写真を裏返して使ったんだ、それともコントラバスのことを知らないデザイナーが間違えてレイアウトしてしまったんだ、と思い込んでしまったことがありました(冷汗)。

私も「細い弦の方が曲げやすいから、G線がナットに近い事には合理性がある」と思います。ペルマンの楽器にはこの逆位置のものが多いですが、やはりドイツ流合理精神の発露というべきではないでしょうか(すみません、イタリアンから離れてしまいました)。

yamaguchi さんのコメント...

Bass爺 さんコメントありがとうございます。お久しぶりです。

マイスターのようにしかるべき教育を受けた実力のある方がいらっしゃると言う事は本当に有り難いことだと思います。著書やインターネット等を通じ、日本語で情報発信されている事の恩恵を多くの方が受けているのではないでしょうか。

スクロール美しいと思います。全く同感で、おっしゃる通りだと思います。この楽器の場合は、製作精度というよりは、美的な感性からアプローチが強いように思います。美しく仕上げるには技術が必要なので、当然高いレベルの技術はあるという前提です。しかし、写真には現れていませんが、よくよく見ると、少しいびつだったり、曲線に不連続な所があるなどしているのです。それにも関わらず、バランスが取れ美しい。ちょっと見ただけではそういう問題があるとは思えない所が凄いと思います。多くの場合、そういう場所は、まず目につきやすいからです。
良い目と卓越した美的感覚を持って製作されているのではないかと推測します。

チューニングマシンの配置がどの位影響があるかはっきりしたことは分かりません。E線の方が太いという事からは、合理性が伺えるようにも思えるのですが、(ブログに書いておいて何ですが)一概に、通常(E線の軸がナット寄り)の配置が悪いとは言えないとも思います。もしそうなら、名だたるヴァイオリンの名器も、そうなっていておかしくないように思います。
他に考えられる理由には、製作上の都合や、チューニングしやすさなど、意外に現実的なものがあるかもしれません。

チラシでは拝見した事が無いですが、実際、CDに使われている写真には裏返しの物があるので、ライオンヘッドのエピソードにも合理性があると思います。手元にあるGary KarrのBachのCDは左右反対です。これも、実は鏡に映ったGary Karr先生なのかもしれません。

いつもブログを読んで頂いてありがとうございます。

モリ@ベース さんのコメント...

失礼します。
何時も根気よく丁寧で精巧なお仕事ぶりには感服しています。
近くなら入り浸っているかも知れません?

E弦の糸巻き取付位置は弦のテンションの関係ではないかと愚考致します。
正規にチューニングした際のテンションが四弦中一番弱いのがE弦のようですから。
強い曲がり角度を付けてテンションを稼ぐ為かも知れません。

反対に一番強いのがD弦の模様。
・・・D'Addarioの公表データより

あと、一部のエレベの五弦ものではlowBの五弦を一番遠くの糸巻きに取付る仕様のモノが有ります。
パッと見はちょっと違和感も無くは無いですが、
こちらは五弦の鳴りと反応とテンション感を上の四弦と差違のないようにする為の工夫との由。

コントラバスに於けるE弦の糸巻き取付位置の差違はここら辺の工夫なのかも?(テールピースの位置による様々な違いのヘッドに応用版?)

yamaguchi さんのコメント...

モリ@ベース さんコメントありがとうございます。

以前の物と変わってきているのかもしれませんが、D'Addarioの弦については、E線は最もテンションが高いようです。
http://www.jdaddario.com/resources/JDCBOW/BOPK_Tension_Chart_Bass.pdf
しかし、メーカーによっては逆に、おっしゃる通りE線が最もテンションが低い弦もあるようです。巻き線が使われる前は、きっと
E線が最もテンションが低い弦だったのだろうと思います。これは想像ですが、弦の太さには限界がありますから、裸ガット弦のような弦であれば、G線とE線の線密度の差がつきにくく、低い音程を得るためにテンションを低くせざるを得ないということはあり得ると思います。

話がそれましたが、おっしゃるように、ナット上での角度は音に影響するかもしれないですね。前に書いたかもしれませんが、実は、これは色々試されていて、通常の配置のペグでも、E線をDのペグに入れ、以下A線はAペグ、D線はGペグ、G線をEペグに入れる事で、E線から順に遠い配置にしている方もいらっしゃるようです。これは何の改造も必要ないので簡単に試す事は出来ると思いますが、チューニングはややこしくなりそうです。