2010年11月18日

コンテムポラリー・イタリアン5

今回の作業の基本的な考え方は、手を加えつつも、良かった時のセットアップを再現するという事である。
どのようなコンセプトで調整が行われたのか、何故それが劣化してしまったのか、楽器に身をゆだねて学ぶ事は多い。一方で、分からない事もあり、自身の未熟さを思い知らされる。分からない所は触れないから、その部分に関しては現状維持と言う事になってしまう。

この楽器のセットアップで特徴的な事は、ハイサドルで表板へのダウンスラストを減らしている一方で、テールガットが極端に短く、テールピースをかなり強く拘束している事である。テールピースは、エボニーでなくハードウッドを黒塗りしたものが使われていて、これは恐らくテールピースを重くしたくないのが理由のように思われた。テールピースを強く拘束することは時折行われ、ハイサドルのように楽器をよりフリーにする操作とは方向性が違うような気もするが、この楽器に関しては、ウルフに対する操作だったのではないかと思われた。

問題は、テールガットがテールピースに喰い込んで、テールガットが長くなったのと同じ状態になっていた事であった。テールガットの長さが短い時には、テールピースの共振ピッチはテールガットの長さに非常に敏感になる。試奏しながら、適切な位置を探って長さを決めた。この長さは、元のテールガットと同じになったので、今回の推測は当たらずとも遠からずという事ではないかと思う。

駒と魂柱の位置については、元の位置は標準的な位置であったので、逆に、あちこちテストした。結局は、元の位置に近くにセットした。近いけれども、ちょっとの移動に良く反応する楽器であったので、元の位置とは言えないかもしれない。魂柱自体の素材は少し重く、表板と裏板へのフィットは悪くなかったが、成形はいまひとつで、円柱の円が、あまり円でない感じである。もっとも、魂柱の断面が真円に近い事にどれほど意味があるのかと言われると困る。疑問はあったが、これは現状維持と言う事にした。一度、オープンリペアがなされているので、必要な魂柱の長さが変わり、その時に作りなおしたのかもしれない。

まだまだ残った課題はあるが、今回出来る範囲の事は全てした。後はまた別な話である。

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