2011年1月19日

アメリカから来たベース3

この楽器は、セルフバスバーの楽器で、板の感じ等から、ハイサドルにする可能性が高い。

最終的にどうするかは、一度セットアップしてからでないと決められないが、以前にハイサドルが付いていた形跡もあった。3つのネジ穴が、おそらくハイサドルの痕跡だと思う。どの時点で、普通のサドルに戻されたのかは分からない。ただ、ネジ穴を埋めるところまではケアされなかったようである。

セルフバスバーは、削りだしのバスバーで、表板を削るときに、バスバーの部分だけ残して作られたバスバーである。セルフバスバーの利点は、表板にバスバーを削り合わせる必要がないことである。その代り、バスバーにテンションをかけて接着するということはできない。また、バスバーの高さにも制約がある。セルフバーの表板は、バスバーに沿って割れが入っていることが多いようだが、この楽器は割れていなかった。

外回りのクリーニングが終わったところで、構造の強化とエッジの補修を進めることにした。
構造の強化といっても、問題のあるところをやり直すということになる。ハイサドルを付ける予定なので、サドルを外し、ノッチ部分をきれいにした。ハイサドルをつけるつもりがなくても、サドルは外すことは多い。サドルの両脇にクリアランスが無く、サドルがきつくはまってしまっていると、サドルクラックの原因となると言われているからである。この楽器はすでにサドルクラックが入っている。

表板とブロック間の密着度は今一つで、その理由は、以前のオープンリペアの時の処理にある。しかし、表板の方は、剥がして貼りなおすところまでは必要ないと判断した。ただ、表板の一部にはブロックから剥がれるように割れがあり、それは補修しなくてはならなかった。

サドルのノッチのセンターと、横板の突き合わせの線と、表板や裏板のセンターシームが一致しないことはよくある。もっと言えばエンドピンの穴のセンターとも一致していないこともある。これらが一致していればどんなに気持ちがいいかと想像するが、一致していない方が良いこともあるかもしれない。
裏板とエンドブロックの間の接着には、かなり問題がありそうなので、やり直しである。一部剥がれているし、裏板のセンターシームも、一部切れていた。行うことは・・・やはりクリーニングである。

2011年1月16日

プレーヤとセットアップ2 「弦高」

結局は、リペアラの視点で書くことしかできないとは思うが、続けてみる。

プレーヤとして最初に気になるのは、弦高ではなかろうか。弦高とは、指板から弦までの距離のことである。

注意しなくてはならないのは、弦高を決めるということは、指板からの距離を決めるだけでなく、弦相互の位置関係も決めているということである。言い換えれば、弓で弾く時に隣の弦を一緒に弾かないためのクリアランス(以降「ボウイングクリアランス」と呼ぶが正しい呼び方かどうかは分からない)も同時に決めていることになる。pizzのみのスタイルのプレーヤにも、より弾きやすい位置関係はあるので、それも含めてここではボウイングクリアランスと単純に呼ぶ。
このクリアランスは、駒上での弦の間隔にも依存するので、弦高を決めるにあたっては、駒上の弦の間隔の好みや、ボウイングクリアランスの好みを知る必要がある。

これらは、楽器が許す限り、プレーヤの好みに近づけることができる。楽器が許す限りというのは、楽器の形による制限があるからである。例えば、ボウイングクリアランスは、いくらでも大きくできるわけではなく、大きくしていくにつれて、E線が弾きにくくなったり、G線を弾くときに弓が楽器のCバウツに当たるということが起こる。大きくするのが良いかどうかは別にして、どのくらい大きくできるかは、楽器の形による。
駒上の弦間隔も、指板の幅による制約があるし、狭くする方も、その奏者が使う最大音量で弾いたときに弦が隣の弦に当たらないところまでである。

これらをまとめると、「弦高」を好みに調整したいと思うとき、

1)駒上の弦間隔
2)ボウイングクリアランス
3)弦と指板の距離

を考える必要がある。他にもあるのかもしれない。基本的には、今の状態を基準として、どの方向に変えたいか考えるとよいのではないか。
しかし、もうお気づきと思うが、弦間隔やボウイングクリアランスを好みの状態に保ったまま、弦高を好みの値にするためには、指板の形がそのセットアップに適した形でなければならない。指板の形が適正でない状態では、弦高を優先するかボウイングクリアランスを優先するかどちらかを選ばなくてはならない。

つまり、弦高を適正に調整するためには、それにふさわしく指板が調整されていることが必要である。

2011年1月10日

プレーヤとセットアップ1

真にプレーヤの立場には立つことは難しいけれども、プレーヤから見たセットアップを考えてみたい。今まで書いてきた事の繰り返しや、また違うことを書くかも知れない。ご意見があれば是非お寄せ下さい。

プレーヤとして、セットアップに関して知っておいた方が良いことは何だろうか。
単純化して言えば、楽器がより良く鳴るためのセットアップに関しては主にリペアラの領分であるように思われる。加工や調整などは結果が分かればいいのであって、具体的なやり方についてプレーヤが詳しく知っても悪くはないが、直接的に必要なことではない。それらは、いわばリペアラの内部事情である。乱暴に言ってしまえば、楽器の鳴りに関するセットアップは、リペアラと楽器の関係の中で行われるように思う。プレーヤが如何なる音を望もうとも、もともと持つ楽器の特性は変えられないからである。

一方で、セットアップには、プレーヤのスタイルや好みが強く反映される内容がある。弦高や指板の形など主に演奏のしやすさに関する事である。当然、全てのセットアップは音に影響がある。演奏のしやすさは、楽器の鳴りに大きく影響される。しかし、合理的なセットアップが許す範囲で、楽器の鳴りからある程度切り離して決められる部分については、リペアラは楽器との関係だけなく、プレーヤの好みやスタイルを知らなければ詰められない。プレーヤにとって重要なのは、コントラバスのセットアップにおいて、プレーヤのスタイルや好みが重要なのはどの部分なのかを知っておくことではないだろうか。

個別の話に入る前に、重要な前提として何よりもまずお勧めしたいのは、「標準的なセットアップを試す」ことである。リペアラによって、何が標準か差があると思うが、大体において常識的な線というものは存在すると思う。
どのレベルのプレーヤにとっても、まず最初に「標準」に近いセットアップからスタートすることは、楽器の個性をわかりやすくし、遠回りなようでも、目的のセットアップに近づく王道ではないかと思う。