2013年1月4日

ウルフ

コントラバスの場合、多くのウルフトーンは、表板の振動モードとの共振で起こるようである。

他の弦楽器は分からないが、経験上は、表板のタップトーンを測る事でウルフトーンの音程の予測がつく事が多い。

ウルフトーンの原因は、その他のマイナーな共振モードに起因するものもあるが、最もメジャーなものは上記の表板のモードではないか。そうであるならば、他にも言われている通り、ウルフトーンは楽器の一部であって、その個性の一部だ。

ウルフがちょうど邪魔にならない所に合って、しかも例えば開放弦に近い時、その開放弦が良く鳴って気持ち良いという事は良くある。このようなケースでは、ウルフは意識されず、単にその開放が良く鳴って気持い良い楽器だと認識されてしまうように思う。この場合は、ウルフには助けられていると言えるのではないか。

そんな事を言われても、現実問題としてウルフが邪魔になる楽器には何の助けにもならない。 表板の振動モードである以上、ウルフを移動するには表板に手を加えるしかない。それは、オリジナルを改変する事につながる。大がかりである上、上手く移動するのは難しい。そんな事が簡単にできるなら、とっくの昔に行われメソッドが確立されているはずだ。

最も現実的な解はウルフキラーを使う事だ。しかし、多くの場合、単に取り付けるだけでは満足は得られない。押し込められたようなウルフで、鳴らないのに抵抗だけがとても大きいような楽器では、ウルフキラーを使うとウルフキラーの効いているピッチでは、音自体の魅力が殆どなくなってしまう。ウルフを低減できても、弾いていてつまらなければ意味が無くなってしまう。

このような場合には、楽器のセットアップを全面的にやり直して、楽器をよりフリーな状態にし、反応を軽くし、テンションを緩める事を徹底的に行う。これにより、ウルフを開放し言わば「暴れ馬」みたいにさせる。ウルフが突出して鳴るように持っていく。他の音程と比べて、音量や音色は突出していても、ウルフ自体の抵抗してくる感じを減らしていく。その上で比較的狭い音程にピンポイントに効くウルフキラーを、突出したバランスを調整するように使う。このようにして初めてウルフキラーが有効に使用できるのではないか。

他の音程に対するウルフキラーの影響を、全くのゼロにする事は難しいかもしれない。また、全てのケースで通用する訳ではないと思う。それでも、全体に音量と音色のバランスを保ちながら、ウルフの演奏に対する影響を低減する方法の一つとして、「狼」を「暴れ馬」にする事に有効性があるように思う。

4 件のコメント:

Y/京都 さんのコメント...

旧年中は大変お世話になりました。
本年もよろしくお願いいたします。

ウルフに対するその考えはとても共感します。
このような場合には…以降のセットアップについてはまさに目から鱗が落ちるようでした。

おかげ様で、とても気持ちよく弾けるようになりました。しばらくは毛替え依頼はないかと思いますが、またよろしくお願いします!

yamaguchi さんのコメント...

Y/京都さん、コメントありがとうございます。お元気でいらっしゃいますか。こちらこそ大変お世話になりました。色々至らぬ所があるかと思いますが、こちらこそ今年も宜しくお願いいたします。

ウルフの話は定性的な内容ですが、実際には量の問題が出てきます。どの位突出させられるか、どの位ウルフキラーが効くか、悩んでばかりです。

毛替えのクオリティも少しでも向上するよう努力していますので、宜しければまたお試し下さい。
コメントありがとうございました!

三河屋 さんのコメント...

 まいど三河屋です。巳年の正月明けに狼の話題とは、頼もしい限りです。「ウルフは非常に範囲が広く、珍しいケースではないかと思います」とのコメントをいただいた楽器のオーナーとしては、ついつい首を突っ込んでしまいます。
 一般には最初から狼を閉じこめてしまおうとする中にあって、狼を野に放ち、しかる後に狼を手なずける、その方向性においてコントラバスへの愛を感じます。昨年夏の楽器返却時にいただいた詳細な「作業内容について」を再読しましたが、今回の文章はウルフに対する取り組み方がより分かりやすく表現されており、「我らのウルフを生き延びる道を教えよ」との問いに対する明確な回答になっていると思います。
 しかしながら、そのことによってもなおウルフの悲しみが消えるわけではなく、できうれば「バス弾きの異常な愛情──または私は如何にして心配するのを止めて狼の遠吠えを愛するようになったか」と豪語する境地に早くなりたいものです。

 付記:昨年夏、楽器のセットアップをしていただき、ありがとうございました。楽器到着と前後して、家人が月山で足を滑らせ、全治三ヶ月の足首骨折を負いました。以後、小生の生活から音楽(楽器)が消えてしまい、お返事を差し上げる機会を逸してしまいました。とりあえずのご挨拶をこの場を借りて申し上げるしだいです。いずれあらためてメールいたしますので、よろしくお願いいたします。

yamaguchi さんのコメント...

三河屋さん、コメントありがとうございます。こちらこそ昨年はありがとうございました。

大変なお怪我で、お見舞い申し上げます。色々な活動も、ご家族の健康あっての事だと思います。くれぐれもお大事になさってください。

ウルフトーンをどのように解決するかは、一筋縄ではいかないもので、苦労します。実際、できる事は非常に限られていると言っても良いと思います。三河屋さんの楽器は、反応も良いし、ボウクリックも良く出ていて、良く鳴る楽器ではないかと思いました。ウルフの影響を完全になくすのは難しいかもしれませんが、恐らくは、強い弓であれば、あまり気にならなくなるレベルになってきているのではないかと思います。

前にも書いたかもしれません、私の師匠のウルフに対する言葉は次のようなものでした。

「共に生きよ」