2014年12月25日

ハイ-サドル

ハイサドルは演奏のフィーリングを改善したり、音をオープンにするのに効果がある場合が少なくないと感じる。これはあくまでも筆者の感覚や調整の方向性から感じることで、好みによっては異なる意見もあることは承知しているし、必要性を感じない楽器もある。

ここでは、ハイサドルと呼んでいるが、高さの高いサドルは、Raymond Elgarの著書"Introduction To The Double Bass"にも記述があって、そこでは"extension"と呼ばれていたりする。この本によれば、そもそもサドルの高さを上げる必要がでてきたのは、スチール弦の出現によるものだということだ。ガット弦よりスチール弦の方がテンションが高いために、表板へのストレスを減らし損傷を防ぐため、サドルを高くする必要があるという。

この本の初版は1960年だが、今日サドルを高くしている楽器の割合はそれほど多くないように感じる。新作の楽器では、最初からテンションの高い弦を前提として製作されているのかもしれないし、古い楽器でも、テンションの高い弦に対応するための強化が行われてきたためかもしれない。
ハイサドルのついていた痕跡のある楽器も時折見るので、一旦はハイサドルが付けられたものの、後の奏者の好みなどによって、外されているケースもあるようだ。今では、テンションの高い弦が当たり前になっていて元の必要性があまり意識されなくなっているのかもしれない。

これを言うと元も子もないが、もう少しいうと、楽器の形やネックの角度、スタンドハイトとも関係があるので、必要性は一概には言えないという面もある。

テンションの低いモダンの弦があれば良いような気がするが、テンションが低すぎることが演奏性に影響して、現代の用途に向かないのかもしれない。テンションの強い弦でハイサドルをつけることと、テンションの弱い弦を張ることは同じではない可能性もある。

と、そんなことをサンタクロースを追跡しながら考えていた。

2014年11月3日

C-エクステンション


 エクステンション単体をお作りするというより、全体のセットアップがあったうえでエクステンションをお考え頂くようにおすすめしている。

カポを固定してしまうので、弦長が確定していないと音程が正確でなくなってしまう。弦長をどのように確定させるかは、単純なようで難しい。その他にも、弾きやすさやエクステンションのためのスペースをどのように確保するかということも、他のセットアップが確定していないと決められないことがある。従って、エクステンションの製作をご依頼頂いた場合でも、セットアップが固まっていなければ、セットアップを先に行うようおすすめすることになる。

この楽器では、エクステンション内部にスクロールを迂回するだけのスペースが取れないため、スクロールに穴をあけて弦を通している。弦の取り回しは、チューニングのやりやすさに影響があると同時にノイズが発生しないような配慮も必要になる。
エクステンション内部に弦を通さないと、設計上の余裕が生まれるので、 その分全体をスリムにした。

追記
この度、当方のエクステンションが意匠登録されました。登録されたという事は、デザインのオリジナリティを認められたという事なので、とても嬉しい事です。出願にあたりソシデア知的財産事務所さんに大変お世話になりました。お礼申し上げます。




2014年7月14日

The Realistの可能性

以前、ピックアップのThe Realistには問題があることを書いた。

銅のフォイルに挟まれたピエゾの形に表板が凹んでしまう。修理は不可能ではないが、あまり現実的ではない。
加えて、ピエゾ部分の厚みは1㎜以上あるので、駒の足の表板へのフィットの程度が悪化する。ピックアップを入れる側(E線側)の足は当然悪化するうえ、片側の足だけ長くなったのと同じ状態なので、反対側の足も悪くなる。ピックアップを通さない状態の音に悪影響がある。

しかし一方で、The Realistはピックアップ自体の音には人気がある。アンプを通した時の音はピックアップによるところが大きく、このピックアップを好まれる方は多い。
一度でもThe Realistを入れてしまったら、表板は凹んでしまい、自然には元に戻らない。どのみち凹んでしまったなら、使い続ける選択肢も合理的と思う。ただ、その場合でも2番目の、ピックアップを通さない状態の音の問題は残るので、これを解決できないかと考えていた。

そのような楽器でも駒をThe Realistを前提にして作ることで、アンプを通さない音を相当程度改善できるケースがある。駒の足の長さをピックアップの厚みを計算に入れて作り、ピックアップ側の足を、ピックアップの凹凸に合わせてフィットする。ピックアップなしの駒との比較はしていないが、感触としては、ピックアップがあることのマイナスをほとんど感じない。既にThe Realistをお使いで、その音を愛する方には、一つの可能性となるように思う。

2014年7月7日

黒檀のミュート

黒檀のミュートを買ったら、そのまま使っていた。

商品を買ってそのまま使うのは、当たり前ではある。このようなものだと疑うことはなかったが、最近ミュートの製作をした時に、はたと気づいた。黒檀に限らず、木製のミュートは個々の楽器に合わせて調整して、初めて完成するのではないか。

コントラバスに限らないかもしれないが、駒の製作のコンセプトにはいろいろある。駒の先端の厚みも、いろいろで、1~2㎜の差は当たり前にある。たまたま上手く合う場合もあるかもしれないが、黒檀のような硬い木がでできたものが、すべての駒にフィットするとは考えにくい。

鑿や鉋のような道具は、買ってから自分で仕込むのが普通だ。「直ぐ使い」と謳われていても、少しは調整の余地が残してある場合が多い。使う人の好みや作業によって都合があるから、最初から仕上げてしまってあると逆に困る。

同じように黒檀のミュートも、「直ぐ使い」ではなく、もともとは楽器店で削ってもらって購入するものだったのかもしれない。自信があればDIYも良いと思うが、専門店で自分の駒に合うように削り合わせてもらう価値はあると思う。

2014年6月12日

5弦にエクステンション?

5弦にエクステンションをつけたいとのご依頼であった。

詳しくお話を伺うと、ウィーン調弦の5弦にエクステンションをつけたいとのお話で、ウィーン調弦では第5弦をF~Dで調弦することが多く、エクステンションを追加することによって、Cまで出せるようにしたいという趣旨であった。

色々と相談させて(教えて)頂いた結果、半音三つ分で、半音ごとにカポ(ゲート)をつけることにし、かつ、Long-Eを使わず、普通の長さの弦を使うという仕様で製作させていただくことになった。

 半音三つ分は、F~Dで調弦した時の最低音の範囲と、通常の弦の長さの制約から決定していただいた。

すべての半音にカポをつけるというのは当方の提案で、運動性に劣るこのタイプのエクステンションでは、カポの助けが必須で、開放弦の音を簡単に変えられることがメリットであると説明させていただいた。
極力シンプルになさりたいとのご希望で、サムレストは省略し、本体の幅も細くした。

 Long-Eでなく、通常の弦を使いたいという強い要望を頂き、ペグの位置にはこだわらないと言っていただいたので、エクステンションのナットに最も近いペグにエクステンションの弦が入るようにした。通常の5弦で言うところのAに入れた。これも、できてみると、下4つのペグが通常の4弦と同じと見れば、一番遠いペグがエクステンション用の特別なペグと考えることができて、合理的な配置にも思えた。5弦であることが幸いしたのではないか。

もちろんこれだけでは、弦の長さは足りないので、テールピース側を少し加工して、”チューニング用のアジャスター”を使い、弦長を稼いでいる。それでも、弦の巻糸部分がナットにかかっている。今回使用した弦では、巻糸部分と通常使われる範囲の間は、金属巻ではあるものの、表面の研磨状態が荒くなっており、カポを減らしてしまう可能性があったので、表面を整える必要があった。

エクステンションのカポの位置は、計算した位置で経験上まず間違いない。弦長が長い側のせいか、実際と計算は非常によく合う。しかし、今回のように、いわば”無理な”弦の使い方をすると、計算から少しずれが生じるようだ。カポで閉じた音程はかなり正確に合うが、すべてのカポを解放した時の音には少しずれがあった。巻糸の影響が出ているのではないだろうか。実用上は耐える範囲のずれと判断し、弦のブランドにも依存すると思うため、一応今回は、ナット位置は計算上の位置とした。この辺は、少し使っていただいて、必要なら、ナットの音程を調整する。

今回エクステンションを製作し、テールピース側にはアジャスターを追加したが、音の面でも、問題ないようにセットアップできたと思う。

2014年5月23日

J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第4番、第5番 (コントラバス版)

石川滋さんの新譜が入荷しました。2500円 + 消費税で2700円となります。
申し訳ありませんが、今回サイン入りはございません。

 ---
“世界のSHIGERU“ バッハを弾く。
2年前発売後、衝撃をもたらした、コントラバスによる、
バッハ無伴奏チェロ組曲の第2弾、ついに発売決定!



■タイトル:J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第4番、第5番(コントラバス版)
■品番:IMGN-6002 (イマジン・ベストコレクション)
■JANコード:4560294850423
■演奏者:石川滋(コントラバス)
■価格:2500円 + 消費税
■発売日:2014/3/27(木)

■収録曲:
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 第5番 BWV1010 ハ短調
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 第4番 BWV1011変ホ長調
鈴木鎮一:前奏曲と名古屋の子守歌
P.カザルス:鳥の歌

2014年4月12日

Cエクステンション



エクステンションを作る時は、基本的な設計のコンセプトに加えて、個別の事情を設計に反映する必要がある。

ペグボックスの形による制約や奏者の要望によって、形や固定方法が変化する。

この楽器はペグボックスの全長が短く、エクステンションの全長を最小限にすることがまず必要であった。弦の取り回し方法を新たに設計した。

それに伴い、全体のデザインを一新した。サムレストを拡大し、手で触るだけで音程が分かるような工夫を入れつつ、エクステンション上でのシフトもスムーズに行われるよう変更を加え、合わせてカポも新たにデザインた。

楽器に付属するものだから、質感が見劣りするようでは楽器のクオリティを損なうし、実用上の理由でつけるものだから使いやすさと同時に、耐久性も確保しなくてはならない。
以前からの方法を踏襲しつつ、細かい部分で耐久性を高めるマイナーチェンジを行った。またメンテナンス性を高める工夫も入れた。

音程については、カポの位置を調整できるようなエクステンションもあるが、弦長が固定されていれば、基本的には不要と考えて、調整機構はつけていない。単純で効果的な調整機構が出来れば組み入れてもよいとは思うが、実用上はほとんど必要ないのではないか。エクステンションは、弦長が長い側での操作なので、計算と実際の音程はかなり良く合う。構造が単純になることは、トラブルを減らす効果もある。
もっとも、大前提の弦長が固定されるためには、駒周辺のセットアップが固まっている必要がある。今回は、エクステンションの製作に先立って、合わせて駒周りのセットアップをさせて頂いた。

チューニングマシンまではモディファイできないが、奏者が手を痛めないような工夫は必要である。手の当たる部分の形や指の入るスペースを検討する。結果的にサムレストは薄くなったが、必要な空間を確保できたのではないか。

このタイプのエクステンションで左手をどのように使うかは奏者によって異なる。もともと演奏するはずのない部分に演奏範囲を広げる訳だから、多かれ少なかれ不自然さはある。このエクステンションでは、通常のポジションからエクステンションに移る時、左手親指は、ネックの裏からナットのG線側の端に出てきて、その後エクステンションのサムレストに移動するというイメージで各部分の配置を決めている。


2014年4月1日

お見積り

小さなドアをくぐって楽器の中に入った。

楽器の持ち主である演奏家を招き入れ、一緒に中をチェックする。

木肌は濃い色に変わっていて、修理の跡だけが妙に明るい。

埃っぽい空気を吸いながら進む。

足音が妙に響く。

フラットバックの楽器は歩きやすいが、クロスバーを越えるのが大変だ。

古い楽器だから修理も多い。

緩んだパッチには印をつける。

ネックブロックまで進んだら、E線側を歩いて戻る。

切れた弓の毛や、埃の玉もついでに拾っておこう。

最後に、エンドピンシャンクのコルクを調べる。

演奏家は、中に入るのは初めてらしい。

一緒に中を見るから、修理の必要性も納得である。

 楽器から出て、演奏家と別れた。

2014年3月26日

新譜 J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第4番、第5番 (コントラバス版)

石川滋さんの新譜が3月27日リリースになります。当方でも取り扱い予定ですが、入荷日は未定です。

 ---
“世界のSHIGERU“ バッハを弾く。
2年前発売後、衝撃をもたらした、コントラバスによる、
バッハ無伴奏チェロ組曲の第2弾、ついに発売決定!



■タイトル:J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第4番、第5番(コントラバス版)
■品番:IMGN-6002 (イマジン・ベストコレクション)
■JANコード:4560294850423
■演奏者:石川滋(コントラバス)
■価格:2500円 + 消費税
■発売日:2014/3/27(木)

■収録曲:
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 第5番 BWV1010 ハ短調
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 第4番 BWV1011変ホ長調
鈴木鎮一:前奏曲と名古屋の子守歌
P.カザルス:鳥の歌

2014年2月8日

フロッグ製作


フロッグと弓が接する部分は正確に合っている必要がある。

弓を新たに作るときには、フロッグを先に作り、それに合わせてスティックを削ることができる。しかし、既存の弓に新しいフロッグを作るときは、スティックに合わせてフロッグを作らなくてはならない。

一般的な形で作られているアンダースライドが合うとは限らないので、まず銀の板からアンダースライドをスティックに合わせて作り、出来たアンダースライドに合わせてフロッグの木部を作る。

この部分が正確に合えば、フロッグの動きは滑らかになり、がたつくこともない。正確に作られた弓では、ボタンの回転は不必要に重くならない。ただ、使われてきた弓の場合には、摩耗などで弓側の面が正確でなくなっていることがあり、何を重視するか判断を迫られる。

弓の機能上重要なのは、チップとフロッグの関係が正確であることだ。アンダースライド部分を適当に作ると、フロッグがチップに対してねじれた関係でついてしまうことになる。この正確さを守りながら、アンダースライドに合わせてフロッグを作っていくのは手間がかかる。

アンダースライドがついたら、弓のスティックの太さに合わせてスライドの幅を削っていく。新作の弓なら、フロッグをスティックにつけたまま削っていくこともできるが、既存のスティックに合わせる場合は、着けて様子を見、外しては削ることを繰り返す。ジャーマンボウのフロッグの場合は、グリップによっては、指先がフロッグとスティックの境界部分を触るので、面が触っても分からないくらいに一致していた方が、持った感じは良いと思う。

フロッグの幅が決まったら、それに基づいて全体を成形する。外形寸法はプレッチナーモデルを踏襲し、その他は当方の感じで仕上げさせて頂いた。この段階では、見た目もだが重さが重要だ。
最後の方になればなるほど、それまでの作業の積み重ねがあるから、プレッシャーもかかる。

2014年2月5日

the Strad

今月号(February 2014 VOL. 125 NO.1486)のthe Stradはコントラバス特集である。

Trade secretsのコーナーでは、Robertson & SonsのDavid Briggsさんがエクステンション製作の一端を見せてくれている。


2014年1月27日

エンドピンスクリューの手入れ

エンドピンのスクリューが真鍮製がである理由については以前書いた。

エンドピンのネジの材質が、エンドピン自体よりも柔らかいことが重要で、ネジを締めた時にネジの先端がわずかにつぶれ、ずれにくくなるのではないかと思う。もちろん、エンドピンがスチールの場合の話だ。

真鍮ネジの先端は使用につれてつぶれてくるので、時折外してドーム状に成形すると調子が良いようだ。真鍮ネジでも先がつぶれて平らになると、締めた感触が悪くなってくると感じる。そんな時は、ドーム状かコーン状に成形してメンテナンスしたほうが良いように思う。そうなると、エンドピンのネジは消耗品の一つと考えてよいのではないか。

ただし、先のつぶれたネジは、外そうとしても途中で固くなって抜けなくなるものもある。 そんな時は無理に外さない方が吉だ。ネジ先端のつぶれがネジ山にかかり、抜けなくなっているのだ。無理に外そうとすると、真鍮のネジはあっさりと折れてしまう。そうなると中に残ったネジを取り去るのは容易ではない。