2007年8月31日

ハイ・サドル(続き)

ハイ・サドルは、本来のサドルより高さが高いため、弦の張力に負けて駒の方に倒れてしまうことがある。この時ハイ・サドルの一部が表板に当っていると、その部分を押しこんで表板を傷つけてしまう。

ハイ・サドルが倒れるのを防止する方法としては、サドルをエンドピンに向けて延長し、サドルとエンドピンの間のテールガットの張力を利用する方法や、エンドピン方向に延長した部分をネジで固定する方法等があるようだ。

テールガットの張力を利用する場合、テールガットの張力はエンドピンに対してほぼ直角になってしまう。通常のサドルを使用している場合には、テールガットの張力は、エンドピンソケットをエンドブロックに引き込むような方向にもかかっている。しかし、ハイ・サドルでは、この引き込む力が無くなってしまう上、サドルが駒側に倒れると、テールガットを介してエンドピンソケットを引き抜く方向に力がかかることになる。ハイ・サドルの導入にとっても、エンドピンソケットの嵌め合いは重要なのである。

Jeff Bollbachは、自身のホームページで、ハイ・サドルによって傷つけられた楽器を多く見ていると書いている。そして、ハイ・サドルに代わって、ダウンスラストを減らす方法の提案もしている。

2007年8月27日

ハイ・サドル

依頼を頂いて、ハイ・サドルの製作と取付をさせて頂いた。

ハイ・サドルは、high saddleとかraised saddleと呼ばれていて、文字通り高さの高いサドルの事である。筆者は言いやすいので、ハイ・サドルと言っている。サドルを高くしても、調弦が一緒なら演奏する部分の弦のテンションは代わらないが、駒が表板を押さえ付ける力(ダウンスラスト)を減らす事ができる。この様なコンセプトのサドルが、他の弦楽器にあるのかどうかは知らないが、コントラバスでは良く見かける。

ハイ・サドルの導入は、E線側とG線側の音量バランスが悪く、他に手段がない場合に有効ということだが、それ以外にも楽器によっては、表板の変形を防ぐ効果がある。しかし、全ての楽器にハイ・サドルが有効な訳ではなく、ダウンスラストを減らす意味があるかどうかを判断した上で使うことが必要のようだ。

ハイ・サドルの高さには、特に決まりがあるわけではない。良い高さをを求めるには、色々やってみるしかなく、時間のかかる作業である。形や取り付け方法も様々で、表板を傷めるリスクもある。もちろん、ハイ・サドルの場合でも、両脇に表板とのクリアランスが必要だ。

2007年8月21日

チューニングと鉛筆

上ナットの溝の調整が不充分だと、チューニングの時に「カキ」という音と共に、音程が段階的に変化してしまう事が有る。チューニングが量子化されてしまうのである。

弦が古くなって表面の巻きが緩んでいる場合には、この巻きのエッジがナットに食い込んでいる事がある。

弦に問題がないのに、これが起きるのは、上ナットでの摩擦が大きく、ナットとペグの間にテンションが残ってしまうからである。これを解消するには、ナットの溝を適切に成形するのが最も重要だ。同じ弦の通る溝でも、駒の方は、量子化とは関係ない。しかし、駒の倒れを修正する場合には事情は同じで、溝の形状が適切でないと、弦を緩めない限りテコでも動かないのである。

ナットも駒も、鉛筆で溝を塗ると、滑りを良くするのに効果がある。黒鉛を潤滑材として使うわけである。筆者は特に問題を感じないが、鉛筆の使用は賛否があるかも知れない。塗りすぎると周りが汚れるし、はみ出すとみっともないので、そこは丁寧に作業する。

ちょっと気になったので調べてみたら、鉛筆の芯は、黒鉛と粘土と油(動物性)が原料で、いずれも天然素材のようだ。この油も滑りを良くするのに一役買うのだろう。鉛筆で書いた字の周りが油っぽくなるような事は無いから、ごく微量か常温では固体の油なのではないかと思う。

黒鉛と粘土の割合は、HBで7:3位だということで、最も黒鉛の比率が高いのは6B。筆者は6Bは他の用途で使うが、ナットや駒の潤滑には4Bを使うことが多い。6Bでは芯が太く柔らかすぎて作業性が良くない様に思えるためだ。妻は「・・・どう違うんだよ。」と冷たい。

2007年8月17日

アジャスターの材質

以前少し書いたように、アジャスターの材質としては、アルミ、真鍮、木材(黒檀、ツゲ(boxwood)等)が使われている。


最近では、木材と人工素材のコンポジットのものや、強度の有る合成樹脂素材も使われるようである。合成樹脂としては、Delrin(tm)というのがあるらしい。デルリンって何?である。ポリアミドか何かだと思うが・・・。


おおまかな傾向で言うと、アジャスターの材質に強度があるものは使用されるネジの径が細く、アルミや真鍮では1/4"-20やM6などである。これが黒檀やBoxwoodとなると、7/16"-14やM10と大きいのが普通である。木質材料では、リグナムバイタも使われるようだ。これらの木材は、比重が1より大きいので水に沈む。

駒の厚みからすると、M10は少し大きめである。実際に使われているから、しかるべき配慮が払われていれば、実用になるのだろう。Robertsonのものは、7/16"のようだから、M10よりさらに大きくなるわけである。木工の感覚としては、貫通穴の径が材の1/3を超えると強度上の注意が必要になるように思う。筆者の個人的な感覚では、M8ぐらいの穴が理想に近い様に思えるのだが、オネジ側が木質の場合には、オネジ側の強度の方が低くなりやすいので、可能な限り大きくしているのかも知れない。


実際、オネジ側の強度が問題にならないアルミ素材のアジャスターではM8のもの(どこの製品かわからなかったが)もある。金属素材のアジャスターならM8の方がメネジ側に安心材料となる。木質材料には、ピッチがある程度粗い方が良いような気がするからである。

何故か世の中の金属製アジャスターの多くは1/4"-20やM6が多い。アジャスターの重量の問題かもしれない。

2007年8月13日

アジャスターの取り付け方向

いまさらながら、ヴァイオリン等でアジャスターと言えば、テールピースにつけるチューニング用のハードウェアの事なので、検索などでコントラバスの駒のアジャスターと混同されることもある。いや、どちらかと言えばコントラバスの駒のアジャスターの方がマイノリティだろう。

コントラバスの場合は、最初からチューニングマシンがついているので、チューニングを微調整するアジャスターには直接縁が無い。アジャスターと言えば、駒の高さを変えるアジャスター以外には無いのである。英語でも、"adjuster"だったり、"bridge height adjuster"だったりする。もちろんここでは、アジャスターと言えば、"bridge height adjuster"である。

アジャスターのネジ部分が、足側にくるのと脚側にくるのとではどう違うだろうか。筆者の場合は、特に必要が無ければネジ部分を足側にしている。ネジ部分の方が回転に対する抵抗が少ないような気がするので、足側が回ってしまうのを防げるように思う。調べた事が無いので、これは「と思っている」だけだ。
アジャスターの円盤部分が駒に接する面積を減らした、フリクションの少ないタイプのアジャスターも市販されている。このようなタイプでは、脚側にネジ部分を持ってきても良いのかもしれない。

木材をネジの形に加工するのはあまり強度の有る話では無いが、駒の木繊維の方向はネジ加工に有利な方向を向いている。もちろん、アジャスターの為に考えられた木取ではないと思うけれども、これが90°違っていて、木口にネジ加工をしなければならないとしたら、木部を加工したメネジではもたなかったのではないだろうか。とはいえ、駒の高さを上げる場合には、木のメネジに負荷がかかるから、駒の木部を可動部にするのではなく、軸と円盤部分の間を可動部にするコンセプトのアジャスターも有るようだ。

図を入れたい思う事が有るけれども、どうも手軽にいかない。あまり時間をかけずに、手書き感覚で簡単に図が書けないだろうか。

2007年8月5日

アジャスターの調整2

アジャスターを調整する場合、両方のアジャスターを同量回すのが基本的な使い方だが、片方だけ回すとどうなるだろうか。もちろん、あまり沢山は回せないので、あくまで微調整という前提である。

例えば、E線側を固定しG線側だけを高くする場合、G線の指板に対する高さは増す様に思われる。本当にそうだろうか。

G線側のアジャスターだけを高く操作する場合、G線は高くなるように動くと言うよりは、動かさなかったE線側のアジャスターのネジ部を中心として回転する様に動くはずである。このため、G線は指板に対する高さが変わるだけでなく、E線側に移動する。この回転の半径と指板のRとの兼ね合いによって、弦高が高くなるかどうかが決まるように思われる。また、G線側のアジャスターだけを動かす場合でも、全ての弦が動くため、先の場合には、E線もE線側のアジャスターのネジ部を中心として回転し、結果的にE線の弦高も高くなるように思われる。
もちろんこれらは、定性的な話であって、それぞれの変化量は楽器による。駒の高さや指板のR等が様々だからである。

通常のタイプのアジャスターでは、左右の出を極端に変えると、駒のネジ部分、ひいては駒足を介して表板に無理がかかるので注意が必要だが、許容される範囲で、上記の特性を上手く利用すれば、指板と弦の関係を好みの状態に微調整できる可能性が有る。

ただし、単にG線の弦高を変えるだけならば、G線側だけを動かしても効率が悪く、結局E線の弦高も変化するのであるから、G線側のアジャスターだけを操作するのではなく、両方のアジャスター操作する方が確実性があるし、アジャスターを回す量も少なくて済むのではないだろうか。