2007年10月25日

レイズド・テールピース(続きの続き)

果たして、テールピースにスペーサ―を入れることによって、本当にダウンスラストは減らせるのだろうか。

ハイ・サドルで、ダウンスラストが減るのは間違いない。テールガットが固定される一方の端(サドル)の高さを高くしているからである。しかし、テールピース+スペーサでは、そうは言えないのではないか。先に実験したところでは、確かに楽器の調子は良いし、音の変化はハイ・サドルによってもたらされる変化と同じ傾向の様に思えた。そこで、その時には、ダウンスラストが減ったものと考えていた。しかし、本当にダウンスラストは減ったのだろうか。

スペーサでダウンスラストが減るかどうかという問いは、図のaとbで、弦と駒のなす角が変わるのかどうかという事のように思う。こうしてみると、どんな高さのスペーサを入れてもテールピースのサドル側が飛び出てくるだけで、弦と駒のなす角は変わらないように思える。Bollbach氏の考案に関して筆者の理解が浅いのかもしれないし、何かやり方が違うのかもしれない。

他の作業や楽器を使う都合もあり、直ぐにはもとに戻して確認できないが、音に対する影響はともかく、スペーサのダウンスラストへの寄与については疑問がある。

2007年10月23日

コントラバスを送る

筆者は九州在住なので、コントラバスを送るにしても送って頂くにしても、一筋縄ではいかない。同様の悩みをお持ちの方も多いと思う。これは、筆者が楽器のセットアップ等を手がけるようになった一因でもある。

「楽器運送」を謳っているところでも、そうでないところでも、ハードケース無しではまず引き受けてくれない。たとえ「コントラバス」が何かを説明するのに成功し、幸運にもハードケースが借りられたとしても、一律に決められている宅配便の料金とは異なり、コントラバスのような特殊な荷物の輸送費は、どうもすっきりしないのである。ハードケースに入れた状態を前提に関東圏までの見積もりを聞いてみたら、Y社の楽器輸送は発地によって違うと念を押され7万以上(復路は別な見積もりが必要)、S社は営業が来てくれたものの、楽器を見て長々としゃべった挙句、見積もりをすると言ったきり二度と現れなかった。数年前に利用したN社は、3万強だったと記憶する。当時の復路はS社で1万程度だったので期待していたが、約束を守れないような会社では頼む気になれない。どなたか、良い方法をご存知の方がおられたら、そっと教えて頂けないだろうか。

航空会社は、コントラバス用のハードケースを持っていると言う事は知られているが、筆者もちょっと調べてみた。ちょっと前の情報なので、現在の正確な状況は会社にお問い合わせ頂きたい。専用のハードケースを予約しておいて、ソフトケースごと入れて預ける方法である。残念ながらこの方法では、楽器だけを送ると言うわけにはいかない。しかし、ハードケースを自前で用意する必要も無いし、これほどコントラバスに理解のある業界は他にはなかなか無いのではないだろうか。「コントラバス」が通じるのである。予約もフリーダイヤルで電話代すらかからない。筆者の最寄空港―羽田間の割引航空券は、1.5万円位からある。ちなみに以下は国内線利用の場合である。

JAL 15kgまで無料(ソフトケース込み持込状態の重量) 
2日以上前要予約
貸与されるハードケースを除いて重量計算してくれるので、
大抵の場合追加料金は不要
オーバーした分は、500円/kg

ANA 貸与されるハードケースを含む重量で計算
(概算で+15000円追加料金が必要)要予約
一人15kgの無料枠を超える分に料金が必要のため
3人以上で乗れば(15x3=45kg)おそらく無料

各航空会社のグループには、荷物の輸送を専門とするロジスティック部門があり、いずれにしてもそこが実際には荷物輸送を行うのであろうから、試しにそこに持ちこんで空港止めで運んでもらえないか調べてみたが、上記の航空券を買って運ぶ場合より費用がかかってしまうということであった。

(注)現在では、運送業者との契約により、この投稿時点より安価に楽器をお送りいただく事が可能となっています。詳しくはお尋ねください。(2009年12月10日追記)

2007年10月18日

レイズド・テールピース?(続き)


テールピース下のスペーサは、その後問題無く快調である。正面からなら見えないし、自分の楽器なのでこのままでも良いかと思いはじめている。こんな小さなスペーサで、かなりの変化がある。ダウンスラストのコントロールの重要性を認識した。

弦の張力に耐えるスペーサの形状や素材を考慮しなくてはならないが、この方法は、ハイ・サドルに比べれば圧倒的に簡易であるし、元に戻すのも簡単である。もちろん、取付時に全てのテンションを解除してしまうので、魂柱や駒のセットアップは必要である。

未知の問題点としては、モード・チューニングにも関わることで、レイズド・テールピースの振動の仕方が、ノーマルの場合と少し違う様に思われることである。これが、問題なのかどうかは今は分からない。

喜んでいたら妻がやってきて、「パチ・サイ・ハドルだ」と言った。これはサドルではないから、パチもの扱いは不当だし、少なくとも、サイ・ハドルでなく、ハイ・サドルである。

2007年10月17日

弦高と移弦のマージン

弦高は、通常、指板の駒側の端で、指板からの距離で表される。
弦高の値は、人によってさまざまだ。筆者の場合、特に高くしたいという希望が無ければ、G線から6,7,8,9(又は8)mmとして、そこから好みや指板のキャンバーを考慮して調整している。ハイポジションを多用する場合には、G線が6mmでは少し高い感じなので、4mm位にする場合もある、といった具合だ。

しかし、実際には、指板からの距離だけでなく、弦どうしの位置関係も重要なのである。指板のRは楽器によって様々だから、弦高の値だけを信じて調整すると、弾きにくくなる場合がある。例えば、平らな指板の場合には、D,A線を高めにしないと、隣の弦も一緒に弾いてしまいがちなセットアップになってしまう。逆に、極端に丸い指板だったとしたら、移弦が遠くなってしまい、楽器本体のCバウツと弓が干渉しやくなる。

奏者によっても、このマージンが少ない方を好む人もいれば、逆の人もいる。
測り方は色々あるだろうが、この相対的な位置関係を数値にしておくと、奏者の好みも分かるし、セットアップの参考になる。筆者の値は(勝手に)移弦マージンと呼んでいる。場合によっては、先の”標準的”な弦高より、こちらのマージンの方を優先した方が良い場合もあるようだ。

2007年10月13日

レイズド・テールピース?

ハイ・サドルは駒が表板を押さえるダウンスラストを減らす方法の一つである。もちろんダウンスラストを減らした方が良いかどうかは、その楽器とプレーヤの好みによる。

Jeff Bollbach※のサイトで触れられている、ハイ・サドルによらずにダウンスラストを減らす方法について、ずっと気になっていた。ようやく時間が取れたので、自分の楽器で試してみた。未知の試みなので、ひとの楽器で試す訳には行かないからである。

今回の方法は、サドルはそのままにして、テールピース側にスペーサ―を入れる方法である。写真を見れば一目瞭然だ。形や、テールガットの取り回しには改良の必要があると思うが、機能としては充分であるように感じた。実際にやってみた結果、この方法でもダウンスラストは減らす事が出来ると言える。

機能的にはハイ・サドルと比べて遜色無い様に思える。問題は見た目である。現状は今一つ麗しくない。また、hillスタイルのテールピースには付かない。しかし、この方法は、テールガットを長いものと交換する以外は、楽器に一切手を加えないという利点がある。最終的にはハイ・サドルがベストの方法だったとしても、試しにダウンスラストを減らして、ハイ・サドルの導入が良いのか悪いのか、さらにはどのくらいの高さが良いのか、試してみるには格好の方法ではなかろうか。

筆者の楽器では、ダウンスラストを減らした方が良い様なので、このままで問題が生じないか、しばらく様子を見ることにする。

※Jeff Bollbach Luthier, Inc.: http://www.jeffbollbach.com/


2007年10月12日

ノイズ

剥がれかかったクロスバー、パッチ、表板や裏板の割れや剥がれ、あらゆるものがノイズの原因となりうる。

特定の音程にだけ反応するものも、そうでないものも楽器を弾いている本人にはとても気になるものだ。一見して場所を特定し、即座に対策をうつ・・・ことができれば良いのだが、意外にやっかいな代物である。気候によって、出たり出なかったりというのも難しいが、これは家電の故障でも良くある事だし、いずれにしても、出るまでは何もできないので、これはそれほど疲れない。

確かにノイズは出ているのに、半日かかっても場所が特定できないというようなケースは、本当に疲れる。探す場所は楽器の中だから、かかる時間も知れているようなものだが、筆者にはなかなか難しい場合がある。やっと見つけた割れを補修した後、何事も無かったかのようにノイズが出つづけたりすると泣けてくる。ミューミュー言うのである。

パッチが張られているような割れには、ついつい、疑いの目を向けてしまうが、一見しっかりついているようなクロスバーや、手で押したくらいでは動かないような割れが原因の事もある。先のケースでは、明らかに割れている大きな割れの横にあった、しっかりと補修されて密着しているように見える割れが原因であった。試しに、膠を流してみるまでは、肉眼では動いている事が分からなかったのである。

2007年10月5日

駒の高さを増やす

駒は調整して行くうちに、低くなって行く。
削って調整するのだから、低くなるしかないのである。新しい駒に交換する以外にも、駒が気に入っていれば、何らかの材料を足して使い続けるという選択肢もある。良質の材料を使った駒は高価だということもある。

以前紹介した、駒の足裏に材料を足す方法はその一例である。この場合は、表板へのフィットが必要になる。表板のフィットが悪く、削り代が足りない時は、この方法しかない。足の部分の厚みが少ないと強度が落ち、足裏の面積が減るのと同じ事が起きてしまう。

アジャスターのついていない駒の場合には、あらたにアジャスターを付けることで、駒の高さを稼ぐ事が出来る。これはアジャスターを延ばして高くすると言う事ではなく、アジャスターの厚み分駒の高さが増えるためである。

アジャスターのついた駒の場合には、アジャスター部分に材料を足す事ができるので、表板へのフィットにも影響がない。この場合には、アジャスターのネジ側を増やすか、反対側を増やすか2通りの選択肢がある。いずれにしても、アジャスターの軸の平行を保つための精度が求められる。

これらの方法を用いて駒の高さをあげる場合には、左右の脚の長さを変えられるという利点がある。しかるべき注意をはらって作業すれば、表板上の駒の位置を理想的な位置に保ちながら、指板に対する弦の位置を調整できる。