2008年12月25日

今年の虫?


楽器に虫穴を発見した時、古い虫穴の詰め物が取れたのか、新しく虫がついたのか分からない事が有る。

古くても、表面だけ詰め物をしてあった場合、新しい穴のように木の粉が入ったままだ。念のために駆除するとなると、一つ一つにスプレーして薬剤を入れて行くか、燻蒸するかである。スプレーは効果が直接的で効き目も強いが、見えている穴にしか使えない。壁づけの家具のように、見えなくなる面があれば、穴の中だけでなく表面にもスプレーして効果を高める事が出来るが、楽器では無理である。

今回は、プラスチックの袋に楽器と揮発性の有る薬剤を封入して様子を見る事にした。この方法は間接的だが全体に効果がある。虫穴が古く、すでに虫がいない可能性も有るから、いきなり強力な薬剤を使うのではなく、比較的安全性の高いものを入れる事にした。このように密閉された空間なら、効果が期待できると思う。

この楽器の場合には、クロスバーの剥がれがあったので、ついでに乾燥剤と湿度計も封入して、接着前の湿度のコントロールも同時に行った。

2008年12月20日

卵の殻


コントラバスの側板は薄く、場所にもよるが2~3ミリの厚さしかない。

ヴァイオリンの側板より厚いかもしれないが、楽器の大きさの比率から言えば、相対的には薄いと言う事になるようだ。この楽器には古い虫穴が多数あり、ロウの様な補修材で埋められていた。家具や床などの補修に使われるものに似ていて、これでは強度が無いので、埋めなおす必要がある。埋められたものを少しずつ取り除き、虫穴を一つ一つ掃除して行く。

虫穴が飛び飛びのところはまだしも、虫穴の密度が高くて互いに繋がっているような所は単純に埋めるだけでは強度が不足するかもしれないため、穴の部分を削ってパッチを当てる事にした。オープンリペアであれば内側から作業出来るので、パッチの見える面積を減らす事ができる。今回は外からの作業である。接着面積が稼げるようにパッチとの境界を斜めにしてすり鉢状にし、フィットする埋め木を作る。この埋め木の形からegg shellと呼ばれるようだ。側板のRは一方向の曲げだから、厳密には卵の殻とは少し違うかもしれない。接着面の精度が悪ければ、斜めにして接着面積を稼ぐ意味が半減してしまうが、全ての面をskarf jointにするというコンセプトだから、作業を丁寧に行えば継ぎ目も目立ちにくい。

オリジナルの木は年月を経ているため、埋め木のエイジングもやった方が良いのかもしれないが、このケースではニスの色が濃いので、下地を塗る段階で周辺と色合わせする事にした。薄いニスを回数重ねる方が時間はかかるが周辺とのなじみは良いように思うので筆者は好きだ。最終的にニスが周辺と同じ高さになったら、キズをつけて周辺との風合いを合わせても良い。今回の補修個所は、エイジングは行わなかったので艶があがっている。楽器を置く時に床に当る部分でもあり、少しキズが多いので、逆に周辺のニスを綺麗にして行く方向で、今後の補修を計画して行く方が良いのでは無いかと思う。

2008年12月16日

クロスバー


フラットバックの楽器では、クロスバーの端が剥がれる事がある。

ラウンドバックの楽器では、そもそもクロスバーが無いからこの手のトラブルとは無縁である。クロスバーには裏板の伸び縮みによるストレスがかかっているために剥がれやすい。クロスバーが剥がれると、ノイズを出したりするが、音の点でも少なからず影響があるようだ。

クロスバーは極力乾燥した状態の時に付けた方が良いとされていて、これは裏板の動きによらず圧縮方向の力だけがかかるようにするためのようである。通常の使用状況で最も乾燥した状態よりさらに乾燥させた状態で接着するのが望ましいと言う事になる。このケースでは剥がれは端の方だけであったので、あまり意味が無いかもしれないが、一応の乾燥は行った。

以前f孔から入れて中で組みたてるタイプの圧締具を紹介した事があるけれども、今回は表板との間に棒を突っ張って圧締した。シンプルではあるが、棒の長さの調整が多少手間かもしれない。この方法では外側からの固定も併用した方が良いように思う。写真にはリネンパッチでの補強も写っている。

2008年12月11日

またまたペグの軸


表題がパイプのけむり風だ。このペグの軸にも問題があって、どう言う訳か軸の長さが短かく、軸が弦のテンションで斜めに傾き、マシンの部分に無理な力がかかっていた。

ペグ穴は止め穴で、穴の中の様子は外からは分からない。チューニングマシンを外してみると、止め穴の底から軸の延長部分が出てきた。軸の製作時に長さが足りなかったので、足りない分を接着して足したようである。木口同士の接着では強度が期待できない上、常に力のかかる部分なので外れてしまったようだ。楽器自体はとても良い物の様なので、少々理解に苦しむ処理である。知り合いの家具職人の木村さんなら「こいつはいただけないねえ」というはずである。

軸の装飾は特徴的なので保存し、軸のみを新しくした。今回は切り離すついでに四角いホゾを作ってから切り離した。切り離した装飾部分は新しく作った軸のホゾ穴に入れる。この部分はダボや雇い核でも良いと思うが、仕口を四角くすると捻る力に対して強くなり、回って外れてしまうような事が避けられるのではなかろうか。この辺の仕口はあまり本質ではないので、しっかりついて軸の強度を損なわないやり方であれば、他にもやり方はあるのではないかと思う。

2008年12月4日

ペグの軸


チューニングマシンが滑らかに動くには、可動部分に適切な遊びが必要なのではなかろうか。

しかし、時としてこの遊びがノイズの原因になる事がある。これを防いでいるのが弦のテンションである、と思う。弦のテンションによって可動部分の遊びが片方に寄せられ、ノイズを出さないない様に固定されていると考えれば改善の方向が見えるのではなかろうか。

写真のペグの軸は後から交換されたもののようで、ペグ穴に対して少し細すぎるようである。チューニングマシンの軸のセンターは変わらないから、径が細い事によって、弦のテンションによって軸が斜めに引っ張られ、軸の動きが渋くなっている。軸の動きが渋いと、チューニングを下げた時に、弦のテンションがそこで止められてしまい、遊びが開放されて、ノイズを出してしまうと言うのがノイズの原因のようであった。軸の角度を正しく保つためには、正しい太さの軸に交換するのが良いが、今回はペグボックスに当っている先端部分だけを薄い板を巻いて太くした。軸を交換しなくて済むのでコストパフォーマンスはなかなか良いのではなかろうか。

もともとの材料はビーチのようで、黒く着色することにより黒檀を模している。巻いた薄板も同じ材料を使い、硬いニスで着色した。