2009年4月24日

サドル


サドルは重要なパーツの割には、普段は目にとまりにくい。

比較的新しいイタリアンのセットアップをご依頼いただいた。新しいとは言っても30年くらいは経っている楽器である。状態をチェックしてみると、サドルクラックが入っていた。サドルの左右には、一見クリアランスがあるように見えるが、奥の方ではすでにきつくなっていた。また、サドル自体の密着度ももう一息というところで、浮いている部分もあり、フィットをやり直すことにした。サドルのフィットは、往々にして適当であることが多い。何故か、高価な楽器かどうかにはあまり相関がないような気がする。

本当なら、本体側の面が直線で平面であるのが理想で、そうすればサドルの面も正確に平面にするだけだから、フィットはとても簡単である。残念ながら現実には、本体側は凸凹の事が多い。例によって楽器の本体をモディファイしないというコンセプトなので、サドルを削って本体の形に合わせて行く。サドルは弦のテンションを一手に引き受け、表板に伝える役目を担っている。サドルのフィットが悪ければ、このテンションが、偏って表板に伝わることになりはしないだろうか。 フィットが終われば、形を整え表面を仕上げて接着する。このサドルには、強度には問題ないものの、少し割れが入っていたので、それもついでに樹脂で埋めて補修した。

サドルは目が届きにくい位置にあるが、テンションに耐えている。けなげ組に入れても良いくらいだと思う。浮いている事も珍しくないので、時にはチェックしてみてはどうだろうか。

2009年4月18日

エフ


細くて引き締まったf孔もとても良いものだ。しかし、f孔を介した作業の能率は悪くなる。

魂柱は、エフの下の端の穴から魂柱立ての先とは別に入れなくてはならないし、鏡を動かすにも気をつかう。この楽器もとてもきれいなf孔をしているが、細い。細いと、楽器の中でmechanical finger(マジックハンド?)を動かせる範囲が狭くなるので、外から行える修理も限られてしまう。ただ、この楽器の場合は、エフの左右で段差ができていて、幾分自由度はあったのは助かった。

2009年4月12日

テールピースのサイズ


ところで、今回の楽器は弦長が長く、また楽器自体も大きさがある。

テールピースの共振ピッチを高くするため、テールガットの長さを少し短くしたいが、弦長が長いため弦の長さが足りず、ナットに弦の巻き線の部分がかかってしまう。テールピースは、自由に振動できる状態にしておいた方が良いので、テールガットにはある程度の長さが必要だが、長ければよい訳ではない。

今回はテールピースと特定の開放弦の干渉を回避したいので、どうしてもテールピースのピッチを変えたい。仕方がないので、サドル上のテールガットの間隔を広げることでピッチを調整する事にした。黒檀でスペーサを作って、テールガットの間に挟む。スペーサの長さを調整すれば、テールガットの間隔を調整でき、気に入らなければ外すだけである。この楽器のテールガットは合成繊維?のテールガットなので、滑りがよくサドルに傷がつきにくいのも、有利に働いた。これだけ広げてしまうと、本来適正とされている間隔を大きく超えてしまうが、サドルからテールピースまでの距離が長いので、問題にならないのではないかと思う。あとはオーナーの方の評価を待つだけだ。
コントラバスの場合、テールピース自体に手を加えるケースはあまり見ないが、楽器のサイズに適したテールピースを選択し、削るなどの加工を加えて、重さの調整なども行っていく事を考えても良いのではなかろうか。

2009年4月6日

育てる

楽器の事を、演奏の面でもっともよく知っているのは、何と言ってもオーナーの方である。だから、セットアップの押し付けを恐れる。

事前に相談し、調整で良い場所を探って、一定の線まで持って行っても、必ずしもオーナーのスタイルや音の好みにぴったり合うとは限らない。体格や演奏の仕方も違えば、要求される音もそれぞれだ。セットアップを変えれば、演奏のフィーリングも変わるから、以前は良かった部分にも変更が必要になることもある。弦高の好みや、弦の間の音のバランスなどは、最終的には弾いてもらって確かめ、良いところを探していく作業が必要になるのではなかろうか。

「私の調整はスタンダードなんです。」と言うと、誤解を受けることもあるが、これは調整が素晴らしいと言っている訳ではなくて、少なくとも最初はできるだけ標準的な状態にセットアップしているということである。音色や、音量のバランスを中庸にすると、楽器の個性も分かりやすい。つまり、最初の調整は、スタート地点という事になる。どんなリペアラーでも同じだと思うが、フィードバックを返して、音の調整の方向を相談することで、継続的に付き合う利点が出てくるのではなかろうか。

同じ楽器でも、答えが一つとは限らないと思うので、あくまで楽器の個性の範囲内という条件はつくが、好みに応じてセットアップを選択できる可能性もあるように思う。もちろん、調整にはトレードオフがあるから、すべての条件を満たす解が得られないこともあるし、ギリギリまで追い込んでこれ以上は無理という場合や、楽器の特性上どうにもならないような特殊な状況もあるかもしれないが、フィードバックを返すことは、セットアップを育てることなのではなかろうか。

2009年4月2日

魂柱の周り


フラットバックの場合、魂柱は裏板に貼られたクロスバーの上に位置する。

多くの場合、クロスバーの魂柱周辺には傷がある。魂柱に押されてできた凹みもあるが、写真のような傷も多い。魂柱を調整するときに、魂柱立てをテコのように使った痕のようである。表板にも同様の傷が見られることもあり、ひょっとすると、ある程度弦のテンションをかけた状態で調整したいという要望があるのかもしれない。

傷が全く関係ないところにあればよいが、自分が魂柱を立てたい場所と重なっていると、魂柱を密着させるのには良くない。あまりにも正直にフィットすると、調整で動かした時にかえって合わなくなるので、小さいくぼみや傷なら跨ぐように合わせるが、繊維がささくれていたりすると、修正してからでないと、フィットの感覚はつかみづらい。傷が多ければ、調整もやりにくい場合がある。ちょっとした出っ張りでも、魂柱が回ってしまったりしてしまう。