2009年6月28日

C-extension (4)


成形加工が終わったら、仮付けして、実際のセットアップをつめる。

エクステンション上の小さなナットをつくり、他の弦との位置関係も確かめる。カポなしで試奏しながら指板を含めて調整する。まだ仕上げていないため、黒檀の表面は少し白っぽく見える。エクステンション部分の指板の調整は、エクステンションの善し悪しを左右する重要な要素の一つである。エクステンションの名が示す通り、基本的には、元の指板の延長で、さらに弦高や指板の反りの量を加減しながら、修正を加える。

今回はサムレストの形状を多少変えて、ペグボックスへの開口を増やした。この楽器は、過去にペグボックスの付け根部分に修理が行われていて、ナットの下のスペースに余裕が無かった。本体の固定をナット下で行う事はできず、スクロールチークへネジ止めしている。やはり、楽器は一つ一つ状態が違うので、取付方法ひとつとっても、楽器によってより良い選択が異なるということではなかろうか。

弦の取り回しの都合上、本体の長さが若干長くなっているが、通常のケースに問題無く収納できる範囲である。弦の取り回しは、なかなか難しい問題で、特に弦をスクロールの中を通さずにEのペグに入れるには、配慮が必要である。スクロールに穴を開けて、Aのペグに入れる場合に比べ、取り回しの距離が長く、途中の抵抗も大きくなる。弦を急角度で曲げないためには、ある程度の長さが必要になるが、長すぎるのも良くない。使用される弦の種類も多少は考えに入れる。これもやはり楽器に応じて個別に判断するしかないように思う。

2009年6月25日

C-extension (3)


エクステンション本体を楽器に合わせて削って合わせる。

どのようなやり方でエクステンションを固定するか、方法は他にあるにしても、多くのエクステンションでは、弦を張ったとき、弦のテンションで、エクステンション自体がスクロールに引き寄せられる力を利用していると思う。正確に削り合わせれば、エクステンションは安定し、弦の力だけで、十分強固に固定される。このような状態にしてからネジ止めすることによって、ネジに対する負荷が減り、より安定した取り付けになるのではなかろうか。

フィットの後 成形していく。指板部分の形や高さもこの時点で決まり、最終的なExt. E線の弦高も決まってしまう。サムレストを削りだしたり、ネジの穴を開けたり、プレートの入る穴を開けたり、先端の滑車のための加工をしたり、まだまだ仕事は多い。

今回も、滑車で折り返したExt. E線は、エクステンション本体の内部を通って、スクロールの上を通過し、Eのペグに入る構造である。弦が、スクロール部分を避けながら、ネジ止めの穴やカポのステーと干渉しないようにしつつ、Eペグの軸に向かうよう長い穴を開ける。

2009年6月18日

C-extension (2)



黒檀も木なので、木目がある。

エクステンションの材料としては、木取りの方向を出来るだけ完成したときに強度の出るような方向にしたい。また、木には反り易い方向がある。万一反ってきた時に、その反りが機能に影響を与えにくい方向になるようにしたい。さらに構造の問題だけでなく、仕上がった時、指板になる面に、より良い木目が現れるようにしたい。

表面の保護ワックスを取り除き、木目を見やすいようにして作業する。一度切ってしまえば、やり直しが効かない。一番最初に行う作業が、最後の仕上がりを決めてしまうというのに、材料を読み取るのはとても難しい。

適当に切ってしまっても、気づかれないかもしれない。しかし、出来あがったときの品質には、人は敏感に反応するものだ。どこがどうだと具体的に指摘できなくても、感覚的に分かってしまう。もし、そういう理由が無かったとしても、最低でも、材料の傷や問題を見ておかなければ、やり直しとなって、もう少し現実的な問題になる。やり直せれば良いが、条件が厳しければ、予備の材料がとれない事もある。いつでも木取りは難しく、迷いの多い作業である。

(エクステンションの製作作業の紹介をしていますが、自作をすすめている訳ではありません。)

2009年6月14日

C-extension


エクステンション製作のご依頼を頂いた。

いきなり完成しているが、途中の写真も少し撮ったので、これから紹介していきたい。

今回製作したエクステンションは、細かい部分の変更はあるが、基本的な考え方は以前から変わっていない。 カポのデザインが、少し変わったが、純粋に意匠の問題である。本体もサムレストの形状などが多少変化している。これは、以前のエクステンションのオーナーの方からの助言もあってできたことである。上の写真では、カポをすべて閉じているが、実際の使用上では、こういう状態になることは少ないのではないかと思う。

エクステンションで気になるのは、エクステンション自体の出来もさることながら、コントラ音域の鳴りである。テンションが変わるのであまり正確なテストではないが、E線をDにしたりして反応をみたりする。結論から言えば、今回の楽器はコントラの音も良く響いて、エクステンションを付けるというオーナーの方の判断は正解だったのではないかと思う。

2009年6月10日

アジャスター(Fishman Full Circle)


今回のアジャスターは、FishimanのFull Circleだが、以前拝見した物と世代が違うようで、ピエゾの入っている側がネジ止めに変わっていた。

オーナーの方の話では、アジャスターのケーブルの付け根が切れやすいのだそうで、ネジ止めにすることによって、修理が容易にできるようにしたのではないかということであった。たまたま見た分解写真では、中には小さな素子が4つ四角く並んでいた。アジャスターは第一義的には弦高を変えるのが役目だが、ピックアップとして動作する時には、アジャスター1/8回転の範囲で回すことによって、4つのピエゾの駒の脚の断面に対する位置関係を変え、音色の調整ができるということである。

アジャスターが音に与える影響については、色々言われている。一つの材料から切り出されている駒を、途中で切って異質の材料を介して再び繋ぐ訳だから、直感的には音が変わって当然と思える。しかし、少なくとも筆者の取り付けた範囲では、ほとんど影響が無いと言えるのではないかと思う。アジャスターをつける場合には、つける前後で必ず同じセットアップにして比較するので、それほど的外れではないと思う。駒を新しく作る時も、必ずアジャスターなしでフィットし、駒を仕上げて試奏した後にアジャスターを入れている。
もちろん、客観的な実験を行ったわけではないので、影響が全くのゼロであると断定することはできないが、ブラインドで弾き比べた時に聞き分けられるかどうかは難しいのではなかろうか。
このことは当然のことながら、アジャスターが正しく取り付けられているという前提の話である。軸の方向や、アジャスターの上面と駒の密着度などは、細かいけれども本質的なことで、通常の駒にとってもそうだが、今回のような内蔵されたピエゾにとっても重要な役割を果たすようである。

2009年6月5日

False Nut

FalseにNutとは、散々な言われよう・・・という訳ではなく、コントラバスの場合には時折使われる手法のようである。

False nutの目的は弦長を短くする事で、指板のスクロール側を短くし、その分ナットを長くして補う。弦長を短くする方にしか調整はできないが、駒の位置を動かさないので、駒の位置を適正に保って、ネックの操作無しに、弦長を調整できる訳である。

このイタリアンは、弦長を短くした度合いは大きくないが、スクロールチークの角の位置を見れば、写真でも指板が詰められているのが分かると思う。今回は、新たに指板を詰める事はせず、もともとついていたFalse nutを、弦間隔を適正にするために新しく作りなおした。

チューニングマシンの話に関連して、スクロール全体の写真も追加した。ナットが着いていない状態なのでFalse Nutで短くされた指板の様子も見える。きゃっつさんご覧ください。