2010年7月30日

マジーニモデル4


表板はなかなか問題である。

ニカワ以外の接着剤が、何箇所かに使われていて、ダブリングを施すことにした。接着剤を削らなくてはならないのもあるが、全体にリブやライニングと表板の密着が悪いので、この際それも修正することにした。リブと表板の密着が悪いと、薄い膠でつける事は難しくなる。
ネックの入る溝は埋め直されていて、表板にも木が足されていた。この部分も一緒にダブリングする。

コントラバスに限らず、表板は何度も開け閉めされると、どうしても接合部が痛むので、表板を薄く削り、削った部分に新しい木が足されている事がある。ダブリングされた楽器では、表板を横から見て厚みの半分位の所に線が入っている。古い楽器には時々見られる。
今回は、ダブリングと言っても全体に行う訳ではないので、ダブリング様のパッチと言うべきかもしれない。

新しく足す木は、極力元の木と近いものを選ぶ必要がある。出来る事なら、年代も近い方が良いが、なかなか難しい。コントラバスの場合、元の材料も大きいために、修理に用いる材料も、大きな材料が必要になる。

コーナーの欠けは、ダブリングのついでに足す方法で補修する。新しく足す木の一部に厚みを残し、コーナーを切り出す。

バスバー側の陥没については、さらに放っておく事にした。

2010年7月20日

サイン

楽器には製作者自身によるサインや裏書き以外にも、何か書いてある事がある。


修理した人の名前であったり、修理の日付であったり、誰かの名前であったりする訳である。 中には、メモ程度の役割の物もあるかもしれない。

書かれる場所も、バスバー、指板の裏、魂柱、テールピースの裏、駒の裏などバリエーションは豊かである。
ただ、これらの場所は遅かれ早かれ消耗して交換される場所である。さすがに楽器の箱本体に書かれている事は少ない。表板に書くのは勇気が要るだろう。

楽器の内側に、本来のラベル以外に修理者のラベルが貼られている事はある。鑑定に関して権威ある修理者のラベルなら、楽器の真贋の判断の一助となる可能性はある。

こういう何らかの印がされるのは、大抵は大きな修理の時だから、次に修理される(サインが発見される)時までかなり時間が経っていてもおかしくない。20年とか30年位とすれば、修理した工房が無くなっている場合もあるし、残っていたとしても代が変わっている可能性もある。

其々の楽器には、持主と同時に、修理してきた人の時間も積み重なっていると実感する。

修理者の中にはサインを書かない人も当然いて、それらの人々の名前は分からない場合が多い。ただ、修理そのものは残る。名前は分からなくとも時の試練を受け、後の修理者に評価される事になるだろう。

2010年7月10日

マジーニモデル3

バスバーは駒の付近まで剥がれていた。

割合に綺麗にはがれているので、その点は不幸中の幸いだった。残りの部分を大まかに取り除いて、残りがグル―ラインだけになるまで薄く削り落とし、最後にスチームで綺麗に掃除する・・・はずだった。
使われているグル―は、スチームでは取り除けなかった。これが今回の殆どの修理に常に付きまとう問題となった。

極端に厳しい条件で使われたり作られたりするコントラバスには、このようなグル―が使われる事があるようだ。どこから極端に厳しい条件と言うのかあいまいだが、要は高温多湿に耐えるように作られているという事である。

もちろん通常のニカワも使われていて、場所によって使い分けられているようである。楽器自体の作りは悪い訳ではなく、作られた国の環境によるものであろうか。日本も高温多湿の国ではあるので、適性としては合っているのかもしれないが、修理する場合には面倒な事になる。

製作者は使ったグル―が何か当然知っているだろうし、適切な溶剤もあるのかもしれないが、筆者には分からない。何を使ったか書いておいて欲しい位である。見て分からない自分の問題かもしれない。ニカワなら、共通の認識なので、書かれていなくても問題無い。共通の認識と言えば、楽器の構造には、木を組み合わせるような複雑な仕口が無いのは、こういう事かも知れない。外見から中の構造が推し量れないような仕口は、将来の修理に禍根を残すという面があるのではなかろうか。
とにかく、溶かしてきれいにできなければ、物理的に取り除くしかない。こうなると、根気と時間の問題である。

古いBarを取り除いて、またしばらく置く事にした。