2010年9月26日

マジーニモデル10

表板を戻す。

補修の漏れがないか確認し、少し剥がれかかっていたラベルを貼り直して、表板を戻す。

横板は、いかようにでも変形するので、もともとついていた場所に可能な限り正確に戻す必要がある。表板を外す前に表板と横板の関係を測定しておいたのがここで役立つ。100パーセント正確に同じ位置に戻すのは難しいかもしれないが、最大限努力はすべきであろう。

いかように変形すると言っても、横板の周長は一定なので、ある部分を押し込みすぎれば、別な部分が出っ張ってくるといった具合だから、全体としてつじつまを合わせなくてはならない。さらには、ネックの角度にも影響があるから、元の角度になるよう位置を調整する必要がある。もし、ネックの角度を変えたければ、これを利用して、横板と表板の関係が許す限りは変える事が可能である。

表板が戻り、箱になって初めて、弦のテンションに耐える事ができる。「君たちがいて僕がいる」感じである。みんなで担いでいれば耐えられるが、誰かが抜けると途端に辛くなる様なものだろうか。

2010年9月23日

コントラバスで

コントラバスのリサイタルやCDで、チェロやヴァイオリンなど他の楽器のために書かれた曲が弾かれる事がある。
演奏家の方からすれば、弾きたい曲というのは、コントラバスのオリジナルか否かに関わらず選んでおられるのではないかと思う。

聞き手としてはどうか。「オリジナルの楽器で弾けばいいし、聞けばいいのでは?」という疑問を投げかけられた時、反論したい気持ちはあっても、根拠はあいまいであった。もちろん、オリジナルの楽器で弾かれたCDも持っているし、好きである。「弾いてもいいじゃないですか」では、なぜわざわざコントラバスで聞きたいかの説明にはならない。もっと言えば、そもそもコントラバスでソロを聞く意味は何なのかと言う事にもなるかもしれない。

作曲家が楽器を選んで曲を書いているからには、選ばれた楽器で最も効果があがるように書かれていて当然である。普遍性のある音楽であれば、音楽としては楽器を選ばないという事はあるだろう。現実には、楽器の制約はあるので、コントラバスで演奏する場合には困難が伴う事が多いし、超絶技巧なり編曲なり何なりが必要になる。コントラバスのオリジナルの曲であれば、効果的に書かれていると思うが、やはり同じような難しさはあるのではないだろうか。演奏家の方には、聴衆が居る居ないに関わらず、演奏する必然があると想像するが、問題は聞き手の必然性である。

先に音の魅力について書いてから、今更お恥ずかしい次第だが、答えに気付いた。コントラバスの音の魅力である。ヴァイオリンでもチェロでも無いコントラバスの音の良さである。これらが聞き手である自分にとっての必然だと。演奏家の方には、大変な苦労を強いているのかもしれないが、オリジナルだろうが編曲ものだろうが、その効果は他の楽器では得られない。どんな楽器に対しても同じ事が言えるだろう。だからこそコントラバスの場合にも言える事なのではないか。
コントラバスの音で聴きたいのである。

2010年9月12日

マジーニモデル9

表板を戻す前に、ライニングを修正する。

元々ライニングが平面でなく、表板はライニングのなりに、多少無理して押しつける感じで接着れていた。表板を平らに修正しているので、対応する部分は修正しないと合わない。

ライニング自体の接着も良くないので、ライニングを交換する事にした。この楽器のライニングは、薄いものが2重に貼られていたので、オリジナルと同じ寸法で、2枚のライニングを作って貼る。

ライニングは薄いとは言え、形に曲げてから接着する。この時点で正確に合っていないと長さも切れないし、接着の時に手間取って収拾がつかなくなる。
「木工家は十分な数のクランプを持つことはできない」と言われたりする。確かに足りないと感じる事は多い。こんなに挟まなくても良い感じもするかもしれない。しかし、接着には接着面が一定の強さで圧締されていることが重要である。

一枚貼って、ニカワが乾いてから、同じ作業を繰り返し、最後に表板との接着面を削りだして出来あがりである。
ライニングの幅も音に影響を与える。と言われている。箱の強度に影響があるからである。良い悪いの問題でなく、ブロックの大きさの違いなどと同様に、個性の違いとなって現れるということのようである。

2010年9月9日

マジーニモデル8

表板を外すと、本体はへなへなになってしまう。

表板が戻すまでに、本体の形がなるべく変わらないように、配慮が必要である。

表板を開けた以上、本体の内部についても、できる事はしておいた方が良い。先送りされた修理がたまっている場合もある。今回は、バスバーの剥がれによるオープンリペアなので、それほど故障がたまっている訳ではない。
第一に、中を綺麗に掃除する。中の掃除は、とても重要である。コントラバスの中は、例外なく汚れている。表板を開けた時は、これらの汚れを取り除く大チャンスである。いざ、中を掃除する事になると、コントラバスの大きさを思い知らされる。

本体の内部に何らかの問題があれば、全てやっておく必要がある。緩みのあるパッチを外し、新しいものに取りかえる。横板の内側に割れがあったので、これも修理した。製作者が横板を曲げた時に出来た小さな割れが、少しずつ開いてきたのかもしれない。これは外からは分からなかった。
また、ネックブロックや、コーナーブロック周辺にも多少補強の必要があった。

エンドブロックにも問題があった。裏板とエンドブロックの間に隙間がある。この部分は、主に引っ張られる力が働くと思うので、接着に強度が必要である。つけ直して、補強を追加した。

2010年9月2日

マジーニモデル7

表板を吊るす。

吊るすのは、タップして、音を聞きながら削るからである。音を聞きながら削る方法ばかりではないが、今回はそうする。

バーの位置には、どれだけ外側に出したくても、fの内側でなければならないという制約がある。バーがはみ出して、fから見えてしまうからだ。f孔の内側のeyeの間隔が駒のサイズと関係があると言われている理由はこの辺にある。


バスバーを削る。音の変化を聞きながら削るのは楽しい。バスバーとは大体こんな形という先入観を捨て去ることはできないが、音に従って削れば、一応それは音の形である。目に見えないものによって形が決まっていくのが面白い訳である。


バーの基本的な形が決まったら、側面を落としたり面を取ったりして仕上げていく。断面の形が、自分なりのルールに沿うように仕上げる。この楽器では、内側は何も塗らないので、木地の仕上がりがそのまま最終的な仕上がりになる。

バスバーの端は、大きく面を取る。表板の表面に向かって、なだらかになるよう面を取るのは、修理の時に貼られるパッチも同じである。これは貼り付けられたものの端の部分に力が集中するのを防ぐためである。一番上の写真で、表板の剥ぎ面に貼られたパッチが其々少しずつずらされているのも、基本的には同様の理由である。単に適当なだけの場合もあるが。

バスバーが仕上がったら、家人が「何故、何かをのみ込んだヘビみたいな形をしているのか?」と聞いてきた。「それをいうなら、星の王子様のウワバミじゃないのか?」とはぐらかしてみたものの、答えを知っているのは筆者ではなくて音である。