2011年8月21日

Slant? Round?

E線の下だけ平らになった指板がある。

低音側の弦の方が振幅が大きいために、平らにしてあるということのようである。現代の弦は、4本のテンションは相当程度揃って来ているために、コントラバスにおいても、平らになった指板の必要性は少なくなってきているかもしれない。もちろん、使用する弦や弦高などのセットアップにもよるし、演奏家の好みもある。
ただ、もし丸い指板に問題があるなら、「E線だけががノイズになるんだよね」というケースがもっと沢山無ければならないように思う。

この楽器の指板には十分な厚みがあり、ラウンド指板に削り直した。演奏家の方は、今まで平らな指板でも問題は無かったとのことであったが、キャンバーの調整のため指板は削り直す事になっていたので、ついでにラウンドにする事になった。

指板は黒檀でできているので、削りくずや粉も黒い。道具や手も黒くなってしまう。健康のためには、マスクをしたりエアフィルターを動かしたりして、なるべく粉塵を吸わない事が重要である。しかし、削っている時の木の匂いは良いものだ。その魅力の故に、意識して注意する必要がある。

2011年8月12日

駒のメンテナンス

駒のメンテナンスは、楽器の能力を維持するために決定的に重要である。日々チューニングを重ねるにつれて駒は指板側に倒れてくることが多い。これを修正するのはプレーヤの仕事である。

動画があり、危険性の少ない方法なので紹介したい。この動画では、弦長を基準に駒の位置を合わせているが、これには駒が正しい位置にあるという前提がある。また、正確な弦長は、専門家に教えてもらうか、セットアップしてもらった時に自分で記録しておく必要があると思う。
ビデオ中では作業台の上で行っているが、下に何かを敷いて床の上で行ってもよいし、ベッドの上でもできる。


どのような修正方法をとるにしても、力を入れすぎてしまったときに駒が倒れてしまわないよう、何らかのロックを作って操作することがポイントである。この動画の場合は、片方の手で駒を押し、もう片方の手で駒が行きすぎないためのロックを作っている。

この方法で簡単に駒が動かないようなら、駒の溝がきついか弦の巻線が緩んで駒に食い込んでいる可能性がある。その場合は無理に押さず、弦を少し緩めてから行う必要がある。

2011年8月11日

粘着テープ

 弦楽器にとって、剥がれは安全弁のような働きもある。特に表板は割れやすいので、薄いニカワでつけてある事が多い。

剥がれたら、すぐに楽器屋に行ってつけ直してもらうのが最も無難である。つけ直せば剥がれは無かった事になる。ただ、事情によっては、どうしても必要に迫られることがあるようで、この楽器は持ち込まれた時、梱包用のテープが貼られていた。

色々なパターンの最悪の事態が頭をよぎる。剥がすときに、ニスがテープ側についてしまっても、粘着剤がニスの側に残るにしても、良い結果にならない。さらに、楽器自体はとても良いものである。こんな時には、「テープの粘着力は、ファンデルワールス力によるものだ」などと言われても、あまり心は動かない。
このタイプのテープは、テープ自体に強度があるので、上手くはがせるかもしれないと思い、専用のヘラを併用しながら、ほんの少しずつ端から剥がしていった。非常に時間はかかったが、今回は、上手くいった。シールの神様に感謝したい。殆ど無傷と言っていいと思う。が、それでも「殆ど」はつけなければならない。上手くいった理由のひとつには、持ち主の方が、早めに持ってきて下さったからだと思う。張ってから時間が経つとより剥がしにくくなる。

修理する側としては、粘着テープを張ることはお勧めできない。しかし、楽器が突然剥がれてしまったが、一応弾けそうで、他に変わりが無く、ノイズを抑えたいために、どうしてもテープを貼りたい時もあるかもしれない。そんな時には、せめて、マスキングテープやドラフティングテープのような粘着力を弱めたテープを使う方がダメージを小さくできるのではないだろうか。いずれにしても、出来るだけすぐに楽器店に持ち込む必要はある。

この楽器は新作だったのも幸いしたが、マスキングテープを使っても、ニスを剥がす可能性はある。マスキングテープの粘着力はいろいろなものがあり、クオリティも様々で、中には張って時間が経つと剥がせなくなるものもある。
日ごろの作業では大変お世話になり、大いなる味方となってくれる粘着テープも、ひとたび楽器上に現れると手強い相手となってしまう。