2011年8月11日

粘着テープ

 弦楽器にとって、剥がれは安全弁のような働きもある。特に表板は割れやすいので、薄いニカワでつけてある事が多い。

剥がれたら、すぐに楽器屋に行ってつけ直してもらうのが最も無難である。つけ直せば剥がれは無かった事になる。ただ、事情によっては、どうしても必要に迫られることがあるようで、この楽器は持ち込まれた時、梱包用のテープが貼られていた。

色々なパターンの最悪の事態が頭をよぎる。剥がすときに、ニスがテープ側についてしまっても、粘着剤がニスの側に残るにしても、良い結果にならない。さらに、楽器自体はとても良いものである。こんな時には、「テープの粘着力は、ファンデルワールス力によるものだ」などと言われても、あまり心は動かない。
このタイプのテープは、テープ自体に強度があるので、上手くはがせるかもしれないと思い、専用のヘラを併用しながら、ほんの少しずつ端から剥がしていった。非常に時間はかかったが、今回は、上手くいった。シールの神様に感謝したい。殆ど無傷と言っていいと思う。が、それでも「殆ど」はつけなければならない。上手くいった理由のひとつには、持ち主の方が、早めに持ってきて下さったからだと思う。張ってから時間が経つとより剥がしにくくなる。

修理する側としては、粘着テープを張ることはお勧めできない。しかし、楽器が突然剥がれてしまったが、一応弾けそうで、他に変わりが無く、ノイズを抑えたいために、どうしてもテープを貼りたい時もあるかもしれない。そんな時には、せめて、マスキングテープやドラフティングテープのような粘着力を弱めたテープを使う方がダメージを小さくできるのではないだろうか。いずれにしても、出来るだけすぐに楽器店に持ち込む必要はある。

この楽器は新作だったのも幸いしたが、マスキングテープを使っても、ニスを剥がす可能性はある。マスキングテープの粘着力はいろいろなものがあり、クオリティも様々で、中には張って時間が経つと剥がせなくなるものもある。
日ごろの作業では大変お世話になり、大いなる味方となってくれる粘着テープも、ひとたび楽器上に現れると手強い相手となってしまう。

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