2012年2月28日

セットアップは劣化する

楽器のセットアップはやはり徐々に劣化すると思う。
定期的に楽器店を訪れるのが良いと思う。

本当に良い状態を保つためには、2年に一度位は一旦セットアップを解除して状態を調べられれば理想ではないか。プロの方にとっては、楽器のダウンタイムが死活問題になる時もあると思うが、しばしば、オーナーの方の耳は徐々に変化する楽器の状態に慣れてしまい、それを無意識に補いつつ演奏されている場合もあると思う。
加えて、弾き込みの効果を最大に引き出すためにも有効ではないだろうか。

ソフトケースに入っていても、駒を何かにドンと当てるだけで駒の状態は変化する場合がある。駒の脚は、弦のテンションに押されて広がろうとしている力と、摩擦力と材料の強度がバランスをとった状態で立っている。この状態が外力によって少し変化してしまう。
また、駒が指板側に倒れてくるのを修正する時、駒の足が動く場合もある。表板のアーチとの関係で駒が「歩く」楽器では仕方ない場合もある。

楽器から全てのテンションを取り除き、しばらく置いてから再度チェックすると、変化が生じている事もある。楽器のあらゆる場所が、弦からのテンションに対して変形しバランスを保っている。セットアップを大きく変更した後などは、楽器の表板が受ける力が変化したりして、そのバランスが変わる。駒のフィットが変化している場合もある。
周囲の環境の変化による影響もある。湿度に応じ特定の方向に収縮する材質を素材とする以上、何らかの変化が生じる事は避けられないのではなかろうか。

楽器も車のように人の手によって作られた道具である。消耗や劣化を定期的に調べることで良い状態を保てるのではないか。 さらに、劣化や故障を回復する以上に、定期的にチェックする事には重要なメリットがある。過去に行われたセットアップに基づいて、その上になにがしかを積み上げられる可能性が高い。前回の状態と現在の状態を比べる事で、その楽器に対する理解が進むし、その間弾き込まれた事による変化を感じられれば、「あの頃」よりも状態を良く出来る可能性もあるように思う。

2012年2月16日

細部と全体の間

セットアップには細かな作業が沢山ある。シンプルな造形に見えて、それぞれのパーツには、それぞれの細かな作業がついてまわる。

細かい作業は枝葉なのかと言われれば、必ずしもそう言えないのではないか。楽器全体をどうしたいかという考えがあって初めてディティールを詰めることができる。楽器のセットアップは、個々の作業の効果を足し算して行ける作業だと思うので、個々の方向性がバラバラでは、足した結果が大きくならない。細かい事でも本質なのではないか。シンプルに見える造形が単純なものとは限らない。

セットアップは、楽器の能力を発揮させ、快適に弾ける状態にする事で、主に消耗する部分が対象になる。駒、魂柱から、指板、ナット、サドル、ネック等、また、テールピースやチューニングマシンも対象になるかもしれない。
チューニングマシンの手入れは、セットアップとは呼べないかもしれない。しかし、「壊れている訳ではないが、調子が悪い」チューニングマシンは非常に多い。チューニングマシンの調子が悪いと、調弦が快適に出来ない。調弦が快適にできることは演奏と演奏生活のクオリティに対して大きく貢献すると思う。

「何となく調子が悪い」セットアップと、「何となく調子が良い」セットアップの間には、深くて暗い川・・・ではなく、数多くの細かな作業が横たわっている。 この二つは決して近くないと思う。

2012年2月5日

アジャスターの操作について

駒の高さを調整するアジャスターの使用については、誤解が有るような気がする。

特殊なアジャスターを除いて、アジャスターは左右の出を同じにして使う必要がある。
最初に取り付けられた時の状態にもよるが、正確に付けられていれば、アジャスターのディスク部分より下に出ているネジの長さが同じになっていなくてはならない。片側だけを操作する使用方法は、基本的に間違いと思って良いと思う。もちろんやむを得ない場合は有るかもしれない。

アジャスターの基本的なコンセプトは、駒の高さを変えることであって、各弦は一緒に平行に動くような構造になっている。もともと通常のアジャスターには、G側とE側の弦高の相対的なバランスを調整する機能は無い。全ての弦をそのままの配置で、上げたり下げたりするのがアジャスターの機能と考えて良いと思う。
例えば、「E線側の弦高を高くしたい」と思う事が有っても、E線側のアジャスターだけを上げるのは間違いである。

仮に、E線の弦高を高くする目的で、E側の足のアジャスターを上げたとする。この時、駒はG側の脚の接地面を中心として、G側に傾くように動く。この時、図の矢印の方向に弦は移動する(図は指板と弦の断面を書いた)。従って、E線はは指板から離れる(?)とともに、G側に移動する。E線は指板の山の方に移動するので、指板からの高さは高くなるかもしれないし、あまり高くならないかもしれない。これは、駒のサイズや高さ、指板のRに依存する。ともかく、アジャスターを上げたほどには指板からの高さは増えない。
一方で、G線は、指板の山から離れる方向に移動するので、指板からの高さは高くなってしまう可能性が有る。

さらに、片側だけを上げたり下げたりすると、両方の駒足のG線側かE線側かのどちらかに余計に荷重がかかる事になり、音にも良くないし駒足のフィットも悪化する。場合によっては表板に良くない影響が有る。つまり、アジャスターを片側だけ動かすことは、弦と指板の位置関係を変えるだけでなく、音や楽器に良くない影響が有る。
弦相互の関係を変えるには、通常の駒と同様、駒自体を調整して行う必要がある。