2013年11月18日

コントラバスハードケースの使用法

コントラバスをハードケースに入れる時、衝撃に耐えるためのポイントがある。
Robertson & Sons Violin Shopのサイトで動画を使って解説されている。


 How to Pack a Bass for Shipping
http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=xhwn21MHuEo

楽器をあおむけにしたとき、

  • 裏板
  • ネックヒール(ボタン部分)
  • スクロールの後頭部

が均等に支えられるようにウレタンフォームなどを追加して調整する。追加のウレタンなしでは、ネックのヒール部分は浮いていることがある。追加ウレタンなしでも無事なことが多いが、均等に支えられるようにウレタンを追加することで、衝撃を受けた時に楽器が破損する確率を減らせる。
これらは、スティーブンソンのハードケースの説明書でも触れられており、正しく使用すれば、かなりの衝撃にも耐えられると書いてある。

動画中でのベルトの締め加減も参考になる。

Robertson & Sons Violin Shop, Incorporated
http://robertsonviolins.com/

2013年11月8日

友人

簡単に言うと、初めて拝見する楽器は、どんな楽器でも初めて会う人のようだ。

従って、筆者の場合は、最初にすべてを見切り、すべての場所について一度に解決することは難しい。何度も拝見して、付き合いを重ねるうちに分かってくる事も多い。

全く初めは見えなかったものが、少し見えるようになる。コントラバスは大きな木の箱に過ぎないけれど、広い宇宙のようにも思える。知るには時間がかかる。

大体最初はいつもゆっくりで、 次もやっぱりゆっくりだ。ゆっくりでも、でももうその他大勢のきつねではなくなっている。楽器の作者に対する尊敬や、楽器と材料の木そのものに対する畏敬の念はある一方で、知り合いになった事そのものが、親しみのような、特別な存在になったようなそんな感じを与えてくれる。

事あるごとに師匠とお呼びするのは気が引けるが、師匠とセットアップした楽器達はFriendsなんだという。Friendsなんて、少し気安い感じもすると誤解していた。患者に対する医者のような、作曲家に対する演奏家のような、もっと重々しい関係がふさわしいような気がしていた。しかし、そんなことは当然のことだ。

友人とは、多くの教えをもたらす偉大な楽器であっても、気難しいじゃじゃ馬でも、この広い世界で知り合うことでができた喜びを表す言葉だ。

2013年6月21日

Frog Mortice

フロッグのプラグを入れる穴には、作者のスタイルがある。

毛替えの時は、この穴の形が問題になる。形や角度によっては、クサビが作りにくい事がある。

だからと言って、フロッグを削ってしまう事は問題のように思う。何故か角度が殆どないために、どうしても必要な場合もあるとは思うが、その場合でも形などのスタイルは踏襲するのが良いように思う。また、弓の持ち主には通常は見えない場所である事も、慎重を要する理由ではなかろうか。

写真のフロッグは、作者と全く別のスタイルの形に掘り足されていて、削り方も荒っぽいものであった。削った屑もそのまま中に残っていた。
良い弓では、フロッグ内部も毛替えしやすいように考えられていて、プラグの穴も、プラグを削って合わせやすいように配慮されている。このフロッグでは、それが無視されたため、プラグを合わせるのがやりにくくなってしまった。この弓の場合は、何故掘り足す必要があったのかも分からない。

もちろん、こうなってしまっても毛替えは可能で、恐らく削った方にはやりやすくなったのだと思う。しかしオリジナルの綺麗な穴は失われてしまった。元に戻すような補修ができるどうかは、その状態による。フロッグ内部は、寸法の取り合いが厳しいため、埋めて掘り直すより、そのままにして置く方が良い事が多い。

2013年4月21日

ネック

一見しっかりついているようで、弦を外すと緩んでいるネックがある。
一見しっかりついているようで、弦を外してもしっかりついているようで、全く問題無いように見えても、実際は問題のあるネックというのもあった。

以前から拝見している楽器で、弾いてみると決して悪くないが、どこか不満のある鳴り方であった。楽器の作りやクオリティに見合う感じがしない。

セットアップは一通り拝見しているのに、どうしても解決しない。楽器の能力的には必ずあるはずなので、やっぱりネックしかないと決めて、少し長めにお預かり出来た機会に、テンションを開放し、しかるべく状態にしてから、時間をかけて様子を見た。

ネックは一見しっかりついていて、少し力を入れたくらいでは問題無いようだった。タップした音も良さそうだった。しかし、しばらく寝かせているとネックと表板の間が少し開いてきたので、問題はネックであると分かった。10キロ位の力の世界では見えないが、100キロ位の力の世界では問題になるようなつきかただったのかもしれない。

補修してセットアップしてみると、まさに望んでいた状態になり、ようやく本来のスタート地点に立てたように思う。偉そうなことは言えないが、楽器を寝かせて置いておく時間は、無為に過ごしているようでいて、大変重要なプロセスではなかろうか。

2013年2月4日

アンダースライド

フロッグのアンダースライドが変形して破損している弓を拝見する事がある。後ろ側だけでなく、前側の事もある。アンダースライドの変形に伴い、黒檀部分も割れているのが普通だ。何故このような破損が起こるのか全く分からなかった。

Paoloさんのブログでその原因の一例が紹介されていた。リンク先記事の一番下の写真がそれを表している。毛替えでフロッグにプラグを入れる時、フロッグを直接台の上に置いて行うと 、アンダースライドに力がかかり、このような変形を起こしてしまうという。

Paolo Sarri
http://www.atelierdarcheterie.com/blog/blog_eng/Articoli/Dangerousreahairings.html

フロッグはスティックからはずすと、アンダースライドのエッジが露出してしまう。アンダースライドは薄い金属で、その下の黒檀は端に向けてさらに薄い。
フロッグからはアイレットが突き出ているので、平坦な面に安定して置くことはできない。一般には、スティックの一部を模した台の上に載せるなどして、アンダースライドのエッジに力がかからないようにして作業を行う。
このような配慮なしに毛替えをするのは想像を超えていた。

2013年1月4日

ウルフ

コントラバスの場合、多くのウルフトーンは、表板の振動モードとの共振で起こるようである。

他の弦楽器は分からないが、経験上は、表板のタップトーンを測る事でウルフトーンの音程の予測がつく事が多い。

ウルフトーンの原因は、その他のマイナーな共振モードに起因するものもあるが、最もメジャーなものは上記の表板のモードではないか。そうであるならば、他にも言われている通り、ウルフトーンは楽器の一部であって、その個性の一部だ。

ウルフがちょうど邪魔にならない所に合って、しかも例えば開放弦に近い時、その開放弦が良く鳴って気持ち良いという事は良くある。このようなケースでは、ウルフは意識されず、単にその開放が良く鳴って気持い良い楽器だと認識されてしまうように思う。この場合は、ウルフには助けられていると言えるのではないか。

そんな事を言われても、現実問題としてウルフが邪魔になる楽器には何の助けにもならない。 表板の振動モードである以上、ウルフを移動するには表板に手を加えるしかない。それは、オリジナルを改変する事につながる。大がかりである上、上手く移動するのは難しい。そんな事が簡単にできるなら、とっくの昔に行われメソッドが確立されているはずだ。

最も現実的な解はウルフキラーを使う事だ。しかし、多くの場合、単に取り付けるだけでは満足は得られない。押し込められたようなウルフで、鳴らないのに抵抗だけがとても大きいような楽器では、ウルフキラーを使うとウルフキラーの効いているピッチでは、音自体の魅力が殆どなくなってしまう。ウルフを低減できても、弾いていてつまらなければ意味が無くなってしまう。

このような場合には、楽器のセットアップを全面的にやり直して、楽器をよりフリーな状態にし、反応を軽くし、テンションを緩める事を徹底的に行う。これにより、ウルフを開放し言わば「暴れ馬」みたいにさせる。ウルフが突出して鳴るように持っていく。他の音程と比べて、音量や音色は突出していても、ウルフ自体の抵抗してくる感じを減らしていく。その上で比較的狭い音程にピンポイントに効くウルフキラーを、突出したバランスを調整するように使う。このようにして初めてウルフキラーが有効に使用できるのではないか。

他の音程に対するウルフキラーの影響を、全くのゼロにする事は難しいかもしれない。また、全てのケースで通用する訳ではないと思う。それでも、全体に音量と音色のバランスを保ちながら、ウルフの演奏に対する影響を低減する方法の一つとして、「狼」を「暴れ馬」にする事に有効性があるように思う。