2014年4月12日

Cエクステンション



エクステンションを作る時は、基本的な設計のコンセプトに加えて、個別の事情を設計に反映する必要がある。

ペグボックスの形による制約や奏者の要望によって、形や固定方法が変化する。

この楽器はペグボックスの全長が短く、エクステンションの全長を最小限にすることがまず必要であった。弦の取り回し方法を新たに設計した。

それに伴い、全体のデザインを一新した。サムレストを拡大し、手で触るだけで音程が分かるような工夫を入れつつ、エクステンション上でのシフトもスムーズに行われるよう変更を加え、合わせてカポも新たにデザインた。

楽器に付属するものだから、質感が見劣りするようでは楽器のクオリティを損なうし、実用上の理由でつけるものだから使いやすさと同時に、耐久性も確保しなくてはならない。
以前からの方法を踏襲しつつ、細かい部分で耐久性を高めるマイナーチェンジを行った。またメンテナンス性を高める工夫も入れた。

音程については、カポの位置を調整できるようなエクステンションもあるが、弦長が固定されていれば、基本的には不要と考えて、調整機構はつけていない。単純で効果的な調整機構が出来れば組み入れてもよいとは思うが、実用上はほとんど必要ないのではないか。エクステンションは、弦長が長い側での操作なので、計算と実際の音程はかなり良く合う。構造が単純になることは、トラブルを減らす効果もある。
もっとも、大前提の弦長が固定されるためには、駒周辺のセットアップが固まっている必要がある。今回は、エクステンションの製作に先立って、合わせて駒周りのセットアップをさせて頂いた。

チューニングマシンまではモディファイできないが、奏者が手を痛めないような工夫は必要である。手の当たる部分の形や指の入るスペースを検討する。結果的にサムレストは薄くなったが、必要な空間を確保できたのではないか。

このタイプのエクステンションで左手をどのように使うかは奏者によって異なる。もともと演奏するはずのない部分に演奏範囲を広げる訳だから、多かれ少なかれ不自然さはある。このエクステンションでは、通常のポジションからエクステンションに移る時、左手親指は、ネックの裏からナットのG線側の端に出てきて、その後エクステンションのサムレストに移動するというイメージで各部分の配置を決めている。


2014年4月1日

お見積り

小さなドアをくぐって楽器の中に入った。

楽器の持ち主である演奏家を招き入れ、一緒に中をチェックする。

木肌は濃い色に変わっていて、修理の跡だけが妙に明るい。

埃っぽい空気を吸いながら進む。

足音が妙に響く。

フラットバックの楽器は歩きやすいが、クロスバーを越えるのが大変だ。

古い楽器だから修理も多い。

緩んだパッチには印をつける。

ネックブロックまで進んだら、E線側を歩いて戻る。

切れた弓の毛や、埃の玉もついでに拾っておこう。

最後に、エンドピンシャンクのコルクを調べる。

演奏家は、中に入るのは初めてらしい。

一緒に中を見るから、修理の必要性も納得である。

 楽器から出て、演奏家と別れた。