
エクステンションを作る時は、基本的な設計のコンセプトに加えて、個別の事情を設計に反映する必要がある。
ペグボックスの形による制約や奏者の要望によって、形や固定方法が変化する。
この楽器はペグボックスの全長が短く、エクステンションの全長を最小限にすることがまず必要であった。弦の取り回し方法を新たに設計した。
それに伴い、全体のデザインを一新した。サムレストを拡大し、手で触るだけで音程が分かるような工夫を入れつつ、エクステンション上でのシフトもスムーズに行われるよう変更を加え、合わせてカポも新たにデザインた。

以前からの方法を踏襲しつつ、細かい部分で耐久性を高めるマイナーチェンジを行った。またメンテナンス性を高める工夫も入れた。

音程については、カポの位置を調整できるようなエクステンションもあるが、弦長が固定されていれば、基本的には不要と考えて、調整機構はつけていない。単純で効果的な調整機構が出来れば組み入れてもよいとは思うが、実用上はほとんど必要ないのではないか。エクステンションは、弦長が長い側での操作なので、計算と実際の音程はかなり良く合う。構造が単純になることは、トラブルを減らす効果もある。
もっとも、大前提の弦長が固定されるためには、駒周辺のセットアップが固まっている必要がある。今回は、エクステンションの製作に先立って、合わせて駒周りのセットアップをさせて頂いた。
チューニングマシンまではモディファイできないが、奏者が手を痛めないような工夫は必要である。手の当たる部分の形や指の入るスペースを検討する。結果的にサムレストは薄くなったが、必要な空間を確保できたのではないか。
このタイプのエクステンションで左手をどのように使うかは奏者によって異なる。もともと演奏するはずのない部分に演奏範囲を広げる訳だから、多かれ少なかれ不自然さはある。このエクステンションでは、通常のポジションからエクステンションに移る時、左手親指は、ネックの裏からナットのG線側の端に出てきて、その後エクステンションのサムレストに移動するというイメージで各部分の配置を決めている。