2007年7月31日

アジャスターの調整1

駒の高さを変えるアジャスターは、コントラバス特有のものの一つで、簡単に弦高を好みの高さに調整できる。

アジャスターは、駒の足の長さを、それぞれ独立に変えられる。それぞれ独立に変えられるのであるが、本来の意図としては、左右同じ量だけ動かす事が想定されていると思う。アジャスター取付に際しては、左右のアジャスターの上面に接する面が左右で同一の平面上になるように留意するからである。ここが正確に作業されていないと、アジャスターを出した時と、引っ込めた時で駒足の間隔が変わるというおかしな事になってしまう。

アジャスターの軸は、この面に垂直になるように製作されている。左右のアジャスターの出が違うと、この軸が先の平面と直角で無くなろうとする力が働いて、無理がかかる。

ただし、アジャスターの足側(脚側でなく)のネジ部分には若干の余裕があるので、ある程度までは左右の違いを吸収する事ができる。この余裕の範囲を超えて、あまり極端に変えるとアジャスターのネジ部分の負荷が高まる。だから、本来は、左右同じ量だけ動かす事が推奨されるわけだけれども、少しは左右の出を変えても良いわけである。

この軸の傾斜を許容するようなアジャスターもある。筆者はまだ使った事が無いので、現時点では何も書く事が無いが、アジャスターの左右の出を変えた時の弦高の挙動については、次回(予告するほどたいした事ではないが)整理したい。

2007年7月28日

エンドゴム

以前、エンドゴムの替えについての疑問を書いたが、純正品かどうかは別にして、ちゃんとしたものが手に入るようで、例えば、東京の山本弦楽器や、高崎弦楽器などでも扱いがあるようだ。過去は遠くなりにけりである。

ネジ式のものもあって一安心だが、ネジ部分は使えるのだから、ゴム部分だけ欲しい気もしてくる。問い合わせれば、有るのかもしれない。

先日楽器を見せて頂いたプロの方は、「ずれるかもしれないという可能性がある事自体がイヤだから、可能な限り刺す」とおっしゃっていた。換言すれば、エンドピンが動かない事がそれほど重要なのだ。ましてや、刺せないタイプのエンドピンに、エンドゴムは重要保安部品である。それ無しでは運転できないのである。

それなのに、中学生や高校生の使っている楽器はどうだろう。勿論正しい知識を持った学生は大勢いる。しかし、現実は厳しい。グラハム・ベルはルピナスの種をポケットに入れ、行く先々で蒔いたというが、エンドゴムをポケットに入れ、行く先々で配る偉人の登場を待たねばならないのだろうか。

2007年7月25日

クオリティ

先日、Robertsonでセットアップされた楽器を拝見する機会に恵まれた。

ソロ用に使われている楽器だが、所有者の方の厚意で、自由に計測させて頂いた。この場を借りて感謝したい。「どうだった?」と聞かれて、思わず「何も特別な事はされていないようです」と答えてしまった。感じた事を上手く言えなかったのだが、何も特別でないけれども、それが特別なような気がした。

指板のキャンバー、駒の位置、魂柱の位置全てが標準的とも言える配置であったのに、全てが手際良く、有るべきところに納まっていると言えば良いだろうか。クオリティとはこう言う事なのであろう。

駒はRobertsonの焼印があり、オリジナルのようだった。面取り等は最小限に抑えられていたが、完璧にフィットされていて、足の形などは、実に美しかった。

2007年7月19日

カビ

梅雨時は湿度も高く、楽器には辛い季節である。
2週間も降り続き、湿度が80%の日が続くとカビのリスクが高まる。

それでも、毎日楽器を弾き、綺麗な布で拭いてからケースにしまえば、カビが問題となる事は少ない。だから、毎日楽器を弾くのが最も有効なカビ対策である。しかし、演奏を本業としていなければ、たまには3日くらい弾かない時だってある。

もしカビが生えてしまったら、とにかく早めに楽器店に持ち込むのが最も安全と思うが、そうも行かない場合には、自分で拭くしかない。しかし、楽器に塩素系のカビ取り剤の使用は危険である。漂白力が強いため、取り返しのつかないことになるかもしれない。

エタノールなどのアルコール類も、注意が必要だ。アルコールがニスに付くとニスを溶かす恐れがある。ただ溶けるだけでなく、湿度が高い状態では、再び固まる時に白化する危険性がある。また、アルコールが、ニカワで接着されている部分に染み込むと、ニカワを脆くし接着強度を失わせる可能性がある。

自分でカビを拭き取る場合には(くれぐれも慎重に行っていただきたいが)水にぬらして固く絞った布でそっと拭きとり、直ぐに乾いた布で乾拭きする位ではなかろうか。この時の固く絞った布の水分は、勿論、楽器表面を濡らすのが目的ではなく、カビを分散させないよう吸着するための最小限の水分である。塗り広げないよう、そっと拭き取ってほしい。

指板の表面など、ニスの無い部分であっても、アルコールを使う場合には注意する必要がある。誤ってアルコールを垂らしたりしないよう、布にアルコールを染み込ませる場合には、楽器の上以外の所で行い、アルコールを染み込ませたら、一旦別の布に押しつけて余分なアルコールを取り除いてから、指板を拭く方が安全である。もし、指板が黒檀製で無く塗り指板の場合には、アルコールは避けた方が無難だと思う。

幸いな事に、カビは楽器の木材ではなく、楽器表面についた手垢などの汚れに、最初に生えるので対処が早ければ、楽器本体を傷めずに済む。裏を返せば、綺麗に維持されている楽器には、カビは生えにくいということでもある。

2007年7月16日

またサドル


サドルの両脇には、クリアランスをとる事になっている。

木の繊維方向と繊維に直行する方向では、湿度の変化に対する伸縮率が違うからで、通常は繊維方向の伸縮は無視できるくらいだが、繊維に直行する方向は1%くらい伸縮がある。

写真のサドルは85mmあるので、表板はその1%の0.85mmは縮む可能性があると考えなくてはならない。サドルをピッタリに入れてしまうと、表板が縮もうとするのを妨げるので、表板が割れる危険性がある。

筆者はヴァイオリンを扱った事が無いので、ヴァイオリンくらい小さくてシーズニングを充分に行えば、ピッタリでも許容されるのかも知れないと勝手に想像していたが、ヴァイオリンでも事情は同じようである。

ちなみに、同じ繊維に直交する方向の伸縮率でも、柾目と板目では伸縮率に差がある。板目の方が伸縮率は大きい。木材は、湿度による伸び縮みを繰り返しながら、年月が経つにつれて動きが少なくなり、内部応力も少なくなって行く。小僧のカンナ台より親方の台の方が、安定しているのである。

2007年7月12日

サドル


サドルには、テールガットを通すための溝が掘ってあるものと、そうでないものがある。この溝の機能は何であろうか。

溝があるものでは、テールガットを納める時に位置が決まるため何となくすっきりする。ズレにくいのも確かだろう。しかし、溝の無いタイプで、テールガットの位置がずれたという話は聞いたことが無い。筆者が聞いたことがないだけかもしれない。ただ、やろうとした方ならご存知だと思うが、弦を張った状態でサドル上のテールガットの位置をずらすにはよっぽどの力を加えなければ出来る事ではない。位置決めの機能としての必要性は薄いように思う。

モード・チューニングの観点からは、溝が掘っていないものの方がやりやすい。サドル上のテールガットの間隔を変えると、テールピースの共振ピッチを変えられるからである。テールガットの長さ調整だけでは、望みのピッチが得られない場合、サドルの溝が無ければテールガットの間隔で調整できる場合があるからだ。もちろん溝があってもこの操作は可能だが、溝が無い方が自由度は高い。

2007年7月10日

指板の延長


4弦のコントラバスの音域を低い方に広げるのが、low-C extensionだ。先日、指板を駒側に延ばすと言う依頼を受けた。指板の延長は、音域の高い方へのextensionいうことになるかもしれない。

一般的に、木材を繊維方向に繋いで使う事は、できれば避けたい事の一つとされている(但、建築では普通に行われる)。木口同士の接合は強度が出にくいからだ。指板を延長する場合、何百キロの重さがかかるわけではないから、接着のみでまず問題無いとは思っても、作る方としては、何らかの手段で補強した方が安心である。スチールの棒を入れる場合もあるようだし、どのような構造かは分からないが、ボルトで補強する例もあるそうだ。とにかく、補強が入っていれば、少なくともいきなり取れて落下する事は避けられると思う。補強部分が粘るから、完全に取れる前に何らかの前触れがあるはずだからである。

筆者の場合は黒檀のダボを自作して補強材とした。「”ダボ接ぎ”って、やってはいけない例のような響きがする」としきりに妻は言っていたが、それは誤解だ。語感で判断しないでもらいたいものである。木質のダボの強度は、スチールやボルトほどは無いかもしれないが、必要な強度は備えており、サビの心配が無い上に、同質のものの接着はやりやすく、将来もし又短くしたくなった場合にはそのまま加工できるという利点が有る。
もちろん延長部分のキャンバー(指板の反り)はオリジナル部分に倣ってつけなくてはならない。もう一つ言えば、指板を伸ばすには、指板全体を長いものに取りかえる方法もある。

2007年7月5日

ニス


ニス、ワニス、ヴァーニシュ・・・どれも意味は同じのようだ。
varnish→ヴァーニシュ→ワニス→ニス
と変化したと言う説も聞いたが、真偽は分からない。

ヴァイオリン族の塗装には、家具等の塗装とは違った側面がある。塗装の耐久性を考えれば、固いニスの方が耐磨耗性で有利だ。しかし、固いニスを塗り重ねると音響に影響があるのだろう。楽器には少し柔らかめのものが用いられるようだ。

筆者は、シェラックをベースにしたアルコールニスを、修理やタッチアップに用いている。特別なこだわりがあるわけではないので、それほど特殊なレシピではないと思うが、数種類の天然樹脂を組み合わせて使う。その都度調合するのは不合理なようだが、アルコールに溶解したシェラックは、半年以上置くと古くなって乾燥に問題が生じる可能性が有る。筆者の所は使う量もそれほどではないし、樹脂のまま保存しておいて、必要な時に溶かして使う方が便利なのである。

これら天然の樹脂のかけらを見ていると、不思議なものだと思う。化石化したもの、半化石化したもの、全く化石化してないもの、強い匂いの有るもの、無臭のもの・・・先人達が探し出した様々な天然の樹脂を溶媒に溶かして塗るのだ。木材を加工している時もそうだが、この様な樹脂を取り扱う時も、積み重なった時間に敬意のようなものを感じるのである。

ニスについては、もっと詳しく語られているサイトも有るので、興味のある方はそちらもごらんになってはいかがだろうか。

ヴァーニッシュと天然樹脂 http://www010.upp.so-net.ne.jp/varnish/