2008年8月21日

ハイ・サドル

古いハイ・サドルに問題があり、取り外して、掘りこまれたエンドブロックを埋め直し、新たにハイ・サドルを製作した。

今回は、周辺の補修個所が多く、サドルの両脇の表板も補修しなくてはならなかった。外観上の問題で、古いハイ・サドルの痕を新しいハイ・サドルでカバーする必要があったため、ワイヤ・スリーブはハイサドル上に位置している。

ハイ・サドル(high saddle, raised saddle)は、表板へのダウンスラストを減らす手段のひとつである。筆者のものは、Robertsonのものを参考にしているが、構造には、別のメソッドも取り入れている。

ダウンスラストを減らすには、ネックの角度を変えて駒の高さを減らす方法もある。ただし、ネックの角度を変えてダウンスラストを減らすと駒の高さが低くなる。駒の高さを適切に保つ事は、音の面からだけでなく演奏上の面からも必要である。駒が低くなりすぎれば、G線やE線が弾きにくくなってしまう。ハイ・サドルは駒の高さを変えずにダウンスラストを調整する手段と言えそうである。

通常のサドルは、表板の切り込みとエンドブロックの夫々の木口に接して、テールガットからの力を伝えている。ハイ・サドルであっても、可能な限りオリジナルのサドルと同じ様に力を伝えるのが良いのではないかと思う。当然といえば当然で、もともとそのように作られているのだから、そうでなければどこかに無理が生じるのではなかろうか。

とは言っても、サドルの高さを高くしている以上、ハイ・サドルには常に駒側へ倒れこもうとする力がかかる。もし、ハイ・サドルが駒側に倒れてしまうと、表板を傷つけてしまう。筆者の場合は、木ネジを併用して、この力に耐えている。当然木ネジも、テールガットからのテンションを受けているが、ハイサドルが倒れこまないための補助であって、テールガットからの力を受けるのが主目的ではない。写真のハイ・サドルは、古いハイサドルを取り除いて付けなおした関係上、ネジは2本用いている。

テールガットのテンションだけで、この力に耐えるコンセプトのハイサドルもあるが、この場合には、エンドピンのシャンクを抜こうとする力に耐える構造が必要になる。いずれの場合でも、結局は、弦のテンションは、可能な限りオリジナルのサドルと同様に伝えられる事が必要なのではなかろうか。

2008年8月11日

オリジナリティ


駒の最後の仕上げの段階で、製作者は自分の面取りを施す。

特にこうしなければならないという決まりがある訳ではないようで、「オリジナリティを発揮しろ」とか何とかそういう言われようである。駒の不要な部分を取り除く作業と違い、音の面では、面取りの前後で、はっきりそれと分かるような違いは筆者には分からなかった。

ただ、最後の仕上げだから、これが良くないと、他のクオリティまで低いような気がしてしまう。見かけだけなんて言うのは論外だが、どんなに良い仕事がしてあっても、仕上が良くないと価値も半減である。面はちょっとした事だけれども、非常にシビアにセンスが問われるところだと感じる。今回は、Robertsonの駒を鑑賞させてもらう事にしよう。

2008年8月7日

パテ?


リブのエンドブロックの合わせ目の所が浮いていた。

ちょっと見は分からないが、裏板との間も剥がれていた。浮いた個所を綺麗に掃除して、付け直せば良いのだが、どうもリブの合わせ目が変である。後から塗られたニスを少し削ってみると、その下は白いパテ?で埋められていた。パテ?は、市販されている家具製作などに使われる(筆者は使わないが)ものに似ていて、膠のように温水で綺麗にはならない。パテには水性のものもあるが、大抵は乾燥すると水には溶けないからである。

こうなると、少しずつ物理的に取り除くしかない。数秒で埋めたのだろうが、取り除くのは数時間である。しかも、この楽器は、リブの合わせ目が直線でなく、隙間が均一でない。これがオリジナルの状態とは考えにくいし、裏板とリブの接着の状態から推測すると、以前の修理で裏板を外した時に、リブの周長を短くするような操作が行われ、その時に不均一になったのかもしれない。この楽器はラウンドバックで、センターにインレイを入れるのが難しいから考えられる事だ・・・と想像は膨らむが、パテ?は、物理的に取り除くしかない。パテ?は隙間を埋めているだけでなく、周辺のリブの表面にもついていて、その上にニスが塗られたりもしている。均一でない隙間に合わせて何種類か真鍮板をカットして、少しずつ取り除いた。右の写真は一通り綺麗になった所である。

リブをニカワでつけた後、ニスのレタッチをしたが、残った隙間はそのままにした。状態から見て、次のオープンリペアの時に、エンドブロックは交換されるだろうから、その時に間をつめる方が得策なのではなかろうか。

2008年8月1日

駒を選ぶ


駒を新しく作る時には、楽器にあったサイズのものを選ぶ必要がある。

とは言うものの、コントラバスの大きさはさまざまなので、駒も色々なサイズが必要になる。困った事に、自由自在に入手できない事もある。足の巾、駒のタイプ、アーチの高さ、グレードなどと条件をつけていくと、ストックが無かったりする訳である。無いと言ってくれればまだ良い方で、こちらの注文を、グレードの低いものや違う型番のものに、”ストックが無いので近いものを送りました”と言って、勝手に変えて送られて来た事もあった。

本来なら、サイズの合わない駒を使うのは宜しくないと思うけれども、現実には、サイズの合わない駒が載っている楽器も散見する。単なる不注意のもあるかもしれないが、駒自体が良いものだったりすると、サイズのものが手に入らなくて、やむを得ず使ったのかもしれないと思う事もある。良い楽器なら駒のクオリティの違いは如実に出るから、良い駒を使いたいという欲求も決して小さくない。気持ちは分かるような気がする。

中にはサイズは合っていないと思っても音の面からは遜色無い感じの楽器もあったりする。しかし、弦間の音量のバランスなどの調整が必要になって、結局はどこかでつじつまを合わせなくてはならないので、サイズが合っている駒の方がヘルシーと言えば言えそうである。

もっとも、サイズの合う合わないも、どこまで許容範囲とするかで話は全く変わってしまう。バスバーが駒のlegでなくfootの中に入っていれば良いとする考え方もひょっとしたら有るのかもしれない。まあそうなると、殆どの場合は合っている事になってしまう。