2008年10月29日

裏板のセンターシーム2


裏板の接ぎが固定されたので、クロスバーと裏板の間の剥がれを補修した。

応急的な処置とは言え、余分なゴミや、ホコリが入らないように、まずは周辺の掃除からである。政治家も「まずは雑巾がけから・・・」等と言う。

f穴からのクリーニングでは、クロスバーの下を完全に綺麗にする事は難しく、100%の接着力が得られない事も有る。今回は、補強としてリネンパッチを使う。左側の黄色いテープはパッチではない。リネンパッチにももちろん長所短所がある。リネンは乾燥するにつれて縮むので、接着面を引きつける効果も多少はあるだろうと思う。次のオープンリペアまでもって欲しいと願うばかりだ。

2008年10月26日

裏板のセンターシーム


裏板の中央の接ぎ面が剥がれる事がある。

しかし、その場合でもノイズが出ないと、気づかれない事も有る。剥がれが徐々に進んだ場合は特にそうかもしれない。写真の楽器は、裏板のセンターにインレイが入っていて、その部分から剥がれが起こっていた。

センターのインレイは、裏板の縮んだ分を補うために入れられる。このケースでは、裏板自体に破損が無く、接ぎが剥がれている所とインレイに亀裂が入っている所が混在している状態だった。裏板に破損が無かったのは、とても良かった。インレイの材質は紫檀の様だが、将来の破損をインレイ内で起こさせるような配慮がされていた可能性はあるだろうか。だとしたら凄い事だが、インレイ内側のパッチのヘビーさから見ると、そうでもないようにも見える。

内部のクロスバーの中央部分との間にも剥がれがあり、裏板の接ぎも含めて本当に直そうと思えばオープンリペアになるのかもしれない。しかし、その他の部分のコンディションは悪くないようなので、応急的な外からの処置で様子を見る事にした。簡単に言えば、ニカワで着けるということになる。まずは、開いた部分を出来るだけクリーニングし、ニカワで固定する。写真では、締め付けて継ぎ目を合わせているように見えるが、実際は、継ぎ目に段差が出ない様にクサビを押さえているだけである。

2008年10月15日

サドルのベッド


コントラバスの場合、サドル周辺は楽器の下側に来るので、問題があっても目に付かないことがある。

サドルが浮いて、駒側に倒れてきているような場合は、表板を傷つける可能性がある。写真の楽器では、サドルに浮きは無かったので、サドル自体には問題無いものと考えていたが、リブとブロック間に剥がれがあり、サドルを一旦外す事にした。

この楽器では、サドルの下のリブが掘りこまれ、黒檀のスペーサ―が入っていた。以前サドルが、めり込む様なトラブルが有って補修されたのではなかろうか。このスペーサ―が有ったために、サドルの入る切り欠きは階段状になっている。しかし、この階段部分がデコボコで、サドルやスペーサ―が密着していない。ニカワが隙間を埋めているようではあまり良い状態とは言えない。古いニカワなどを掃除して、階段部分を整形し、スペーサ―を作りなおした。階段部分はエンドブロックなので手を加えたが、リブや表板は、現状があまり綺麗でなくても削らず、綺麗に洗うだけで、サドルやスーペーサーの方を削って合わせる。スペーサ―を削り合わせた後、ブロックのデコボコを埋めて、サドルをフィットした。

ところで、表板の断面に見える黒い部分は、以前のオープンリペアの時のピンの穴の跡のようにも見える。もしそうだとすると、以前のサドルはもっと小さかったのかもしれない。今のサドルのの大きさは通常の大きさに近いから、ピンの跡が本当だとすると、最初のサドルは、かなり小さかったことになる。例えばパフリングのあたりまでのサドルなら、見た目もすっきりしてとてもお洒落だっただろう。しかし、サドルが小さ過ぎれば、ブロックにかかる力が集中し、トラブルにつながる可能性もある。ひょっとすると、ガット弦の時代にはそれで十分に耐える構造だったのかもしれない。

2008年10月12日

駒の時間


楽器自体も大変なものだが、駒一つとっても、なんと贅沢なものだろうかと思う。

柾目に木取された駒は放射組織も美しく、年輪の一つ一つに積み重なった時間を思うと、しばし時を忘れる。右側の駒は、年輪の間隔が大きい方だが、この駒の中でさえ60本からの年輪がある。左の方は倍以上の密度がある。木材の芯に近い部分は使われないから、もとの木の樹齢は目に見える年輪の数よりもっと大きい。駒を加工する時、緊張を覚えるのも自然な事だ。200年生ともなれば木としても大変なものである。メープルではないが、以前、訪れたブナの森ではひっそりと水が流れ、畏敬の念が湧きあがってくるのを抑える事が出来なかった。

広葉樹でも環穴材は、年輪の間隔が狭いものほど密度は小さくなるが、メープルのような散穴材ではまた事情が違うようである。放射組織は、年輪と直交するので、駒の上下を繋ぐように走っている。木だった頃は、栄養分を運んでいた組織が、駒になってからは音を運ぶために利用されているという事だろうか。

2008年10月3日

セットアップは少しずつ?

以前にセットアップさせて頂いた楽器を、点検と言う事で時間を置いて拝見するとき、状態が少し悪くなっていると感じる事がある。もちろん良い状態を保っている楽器もある。

楽器の変化が少しずつだと、頻繁に楽器を弾いている本人は、かえって変化に気づきにくいという事は考えられないだろうか。自分自身について考えてみれば、確かに、自分の楽器はあまり状態が変わっていない様に思える。しかし、直したい所を何箇所も放置したままなので、多分そんな事はないはずだ。少しの変化は気づきにくいばかりか、演奏によって無意識にカバーされてしまうのかもしれない。