2010年3月29日

black bass

黒い楽器のセットアップをご依頼いただいた。

確かに予感のする音である。しかし、しばらく使われていなかった楽器で、とるものもとりあえず駒が立ててあるという事だった。表板や裏板には剥がれがあり、内側の状態もあまり良いとは言えない。Topを開けるか迷うところだったが、表板や裏板の接着面の状態からみると、開けた場合にはダブリングや、魂柱パッチのやり直しなども必要になる可能性が高く、費用がかさみそうである。ここは、ともかく楽器の性質を見極めるためにも、開けずにセットアップする事になった。

楽器は過去に少なくとも2度は開けられていて、時間の経った修理とそれほど時間の経っていない修理が混在している。表板や裏板と側との接合面の状態も宜しくない。剥がれている部分も多く、ついている部分もニカワが噛んでいる状態である。魂柱は、魂柱パッチを傷つけている。指板やナットは黒檀製ではなく、交換する事になった。チューニングマシンもあまり良くないので、こちらも交換する。

古い方の修理には、リペアしたお店のラベルが貼られていた。アメリカのお店のようで、今は無いようである。

チューニングマシンを外すと、スクロールチークには、元のニスの雰囲気が残っていた。最初はそれほど黒くなかったのかもしれない。修理され、ニスが塗り重ねられて色が濃くなったのであろうか。満身創痍で、不遇の時を過ごしたのかもしれないが、今度の持主は必ず大切にしてくれる方である。

2010年3月28日

The Realist

The Realistに関して、気になることがある。筆者はピックアップには、あまり詳しくないが、無知を承知で少し書きたい。

ともかくリアリストは、駒の足の下に挟んで使うタイプのtransducerで、銅箔の間にピックアップ部分(ピエゾ?)が2か所に挟んである。この部分は周辺に比べて厚みがあり、気になるのは、写真のように、駒に押されて表板が凹んだ事例である。ちなみに、このリアリストは、ピックアップ部分が銅箔のものである。

写真のケースでは、リアリストを一旦表裏逆に挟み、次にひっくり返して挟んだようである。表裏逆にしてしまった右上左下の跡はクッキリと、正規の状態で挟んだ左上右下の跡はぼんやりと凹んでいる。もちろん、この程度の凹みは問題ないという考え方もあると思う。割り切ってこのピックアップを使うという選択に、異論を唱えるつもりはない。

ただ、表板にこのような凹みが残れば、次に駒を合わせる時に影響があると思う。局所的に凹んだ跡よりは、広範囲に広く凹んだ跡の方が影響は大きいのではなかろうか。今回のケースは特殊なケースかもしれないが、このような可能性を考えに入れたうえで、使用を判断した方が良いのではないかと感じた。

リアリストには、ピックアップ部分が銅箔でなく薄い木でできたタイプの物が、新しく出されているようである。厚みは少し増えているようで、ひょっとすると表板が凹まないよう配慮されているのかもしれない。

2010年3月14日

駒の角度

楽器の状態を維持するため、何に気をつければよいだろうか。

もし一つだけ選ぶとすれば、駒の角度を維持することが最も効果的で必要な事のように思われる。
調弦などの操作によって、駒はどうしても指板側に少しずつ倒れてきてしまう。これを、日々気をつけ、ずれていれば元の位置に戻す。

良く言われている事で、ご承知の方には釈迦に説法ではある。しかし、それでも駒が倒れてきている楽器は良く見かける。念のために書くと、写真の駒は反ってしまった駒である。

駒の角度を維持する事は、以下の点で非常に重要である。

1)鳴りが維持される
2)弦高が維持される
3)駒が反らなく(あるいは反りにくく)なる
4)表板を傷つけない(あるいは傷つけにくい)

1)駒が倒れてくると、多くの場合楽器の反応は窮屈になり、フリーな感じが失われてしまう。倒れてきた駒を元に戻すだけで、演奏のフィーリングが改善することが多い。駒は徐々に倒れてくるので、音の変化はわずかずつである。従って、皮肉な事に演奏頻度が高い人ほど変化に気付きにくくなってしまう。

2)弦高は、演奏の感覚に直接影響がある。指板よりに倒れると、通常は弦高が高くなる。

3)駒が反ってしまい、元に戻す事が出来なければ、最終的には交換するしかなくなる。
良い駒は安価ではないし、表板に合わせる作業も手間がかかる。正確にフィットされた良い駒を手に入れたら、大事にすべきだ。その楽器に合う駒は、世界にそれしかない。

4)駒が倒れてくると、足の一部分に弦のテンションがかかることになり、表板に傷をつけてしまう恐れがある。

これらすべての事は、日々駒に対して「何もしない」事で起こる。筆者の考えでは、アジャスターの有無は関係ない。

正しい駒の状態は、一般には、駒のテールピース側の面を楽器の表板に垂直にした状態と言われている。ただ、少し厳密にいえば、其々の駒には、駒を表板に合わせた時の角度がある。つまり、垂直に合わせられた駒ばかりではない(と思う)。垂直に合わせられていない駒を無理に垂直にするのは、表板に無理がかかり、駒が倒れてきたのと同じ効果をもたらす。もし、この辺が不明確ならば、一度専門家を訪れ、状態を確認してもらうのが良いと思う。

駒を動かす時に、弦が駒に食い込んでいて動かないようであれば、無理に動かさず、調弦を少し緩めてから駒を操作する事をお勧めしたい。

2010年3月7日

ガット弦

今回のガット弦は、A線までが巻き線なしのガットで、E線とH線は巻き線になっている。この事から、A線の方がE線より太いという逆転の現象が起こっている。

そのため駒側に関しては、指板からの距離としての弦高を厳密に決めるよりは、弦の太さを勘案し、弓で弾く場合の隣の弦とのマージンを重視した。ナット側に対しては、弦を押さえなくてはならないので、指板からの弦までの距離を優先した。

駒と弦との接触面積を比較的大きめにし、弦を傷つけにくいよう配慮した。溝の中を少しだけ強化したが、巻き線の弦については、丸線の巻きという事もあり、多少の食い込みは避けられないかもしれない。

今回の楽器については、チューニングマシンの穴を広げる必要もなく、ペグボックス内の納まりも問題無かった。

 テールガットに枕をつけたテールピースは動きの自由度が高く、素材をメープルにした事で、かなり軽くなった。淡色のテールピースも、バロック風(?)で、ガットのセットアップには合うように感じた。ハイサドルを導入し、さらに、テールピースに枕が付いたことから、サドル付近の楽器の厚みはかなり増える事になった。

実は最後に、ケースに入れる段になって、サドル付近のケースの寸法を考えていなかった事に気付いた。音を優先して必要な事をするのは本来の姿勢だとは思うが、何とか入ったので良かった。