2008年6月15日

フィットすることの感覚的な意味


何故フィットさせなくてはならないのだろうか。使命だからなのか?

駒の足にしても、魂柱にしても、エンドピンシャンクにしても、フィットされて密着していなくてはならないとされている。しかし、別に無理してそこまで密着していなくても、ほどほどで良いのではという疑問もごく自然なことだ。

駒の足の裏は、セットアップされてしまうと見えないけれども、そのフィットのクオリティは様々だ。写真右側程度にやってあれば、良心的な方かもしれない。左は、さらにフィットを進めた状態である。疑問は、果たして、これをやる事に意味があるのだろうかというところにある。右側の程度にやってあれば、駒を立てた時に、隙間が見えるという事は無いから、外見からは左右の違いは分からない。しかし、作業を行っている時、互いに合わせてみた時の手応えには、差があるように思われる。以下はあくまでも筆者の主観的で感覚的な話である。

楽器のネックの接合にも用いられている木工の仕口に、蟻(dovetail)がある。詳しい事は省くが、断面が三角形の溝に、同型のホゾを差しこんで、主に摩擦力によって互いを緊結する仕口だ。溝の両壁を平行に作るとホゾを差しこめないので、通常は勾配をつけて、奥に行く程溝は狭く作られる。差しこんで行くにつれ、しっかりと接合される訳である。無垢材で作られたテーブルなら、反りを止めるために同じような形で桟が入っている事がある。

この仕口のポイントは、ホゾと溝の壁が密着する事にある。つまり両者がフィットしている必要がある。フィットの精度が低い場合は、奥までホゾを差しこんで、ホゾと溝がぶつかった時、手応えは柔らかい。フィットの精度が高くなるにつれ、差しこんだ時の手応えは硬くなり、突然硬いものに当って止まったかの様に変化する。これは、精度が高いと、互いに接触した瞬間に、フィットすべき全ての面が一度に当るために、その手応えは硬くなるためだと思う。この感覚は、差しこんだものを揺すっても分かりにくく、差し込んだ瞬間の感覚である。この時の加工精度に対する手の感覚からすると、写真の右左の差は十分に感じられる位の大きさに思える。

フィットの精度が高ければ、その手応えは、仕口部分に吸収されずに伝わってくる。この話と、駒のフィットを全く同じ物として取り扱う事はできないと思うが、感覚的には、駒の足の裏のフィットの精度が高ければ、弦の振動は、駒の足裏部分で吸収される事無く効率的に伝わるように思えるのである。楽器は、意外なほど多くのパーツから出来ていて、それらの間には必ず接合されている部分がある。その全ての部分でフィットが必要である。この時フィットの精度が低ければ、その部分では、振動を伝える効率が低下してしまうのではなかろうか。そして、個々の効率の低下が僅かでも、それらが積み重なれば最終的には、大きな差にならないだろうか。

コントラバスでは、ヴァイオリンより圧倒的に大きな板を動かさなくてはならない。しかし、コントラバスもヴァイオリンも、動力は1馬力ならぬ1人力で同じである。このため、ヴァイオリンよりもさらに効率が求められる楽器なのではなかろうか。例えわずかずつでも、効率を低下させる要因を取り除く事が有効なのではなかろうか。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

こんにちは。以前匿名で5度チューニングにされたとコメントしましたきゃっつと申します。
いつ来てみても面白い内容ばかりで感激しています。

さて、駒足の密着精度における振動の効率への影響についてお聞きしたいと思いコメントいたしました。
密着度が低ければ振動の吸収が生まれるというのは、直感的には理解できるのですが、では、そのロスした振動(エネルギー?)はどこへ行ったのかと考えると、私の頭ではうまい答えが見つかりませんでした。
私としては、密着度が低ければ表板に不規則な振動の伝達が起こり、それらが互いに相殺しあうため、結果的に振動が抑制されたと考えるのもアリだと思いましたが、当然ながら確証など得られておりません。
いかにお考えになりますか?

yamaguchi さんのコメント...

きゃっつさんコメントありがとうございます。また、いつもご覧頂いてありがとうございます。

今回の話は、作業している上で手で感じた感覚ですので、実際の現象がどのようなものなのかは分かりません。効率の問題なのかどうかも推測の域を出ませんので、おっしゃるとおり、不規則な振動が起こっている事が理由なのかもしれません。

本文の内容とも重複しますが、作業時の感覚では、フィットしていない面同士は、大雑把に言えば、「フワフワ」しているような感じです。カッチリしていない感じです。ここからは推測ですが、「フワフワ」の場合には、極端に言えば、表板との間に柔らかいものを挟んだのと似ているような気もします。これがおっしゃるような不規則な振動を許容したり、ロスしたエネルギーを吸収しているのかもしれません。

世界のどこかでは、きっと多くの研究が行われているのだと思いますが、実際に確かめる術がなくても、楽器と付き合う上で色々と考えるのは楽しい事ですし、現象が解明できなくても、音に良い効果があることならば実践していく事は可能だと思います。コメントは大変励みになります。これからも宜しくお願いします。