
今回は、周辺の補修個所が多く、サドルの両脇の表板も補修しなくてはならなかった。外観上の問題で、古いハイ・サドルの痕を新しいハイ・サドルでカバーする必要があったため、ワイヤ・スリーブはハイサドル上に位置している。
ハイ・サドル(high saddle, raised saddle)は、表板へのダウンスラストを減らす手段のひとつである。筆者のものは、Robertsonのものを参考にしているが、構造には、別のメソッドも取り入れている。
ダウンスラストを減らすには、ネックの角度を変えて駒の高さを減らす方法もある。ただし、ネックの角度を変えてダウンスラストを減らすと駒の高さが低くなる。駒の高さを適切に保つ事は、音の面からだけでなく演奏上の面からも必要である。駒が低くなりすぎれば、G線やE線が弾きにくくなってしまう。ハイ・サドルは駒の高さを変えずにダウンスラストを調整する手段と言えそうである。
通常のサドルは、表板の切り込みとエンドブロックの夫々の木口に接して、テールガットからの力を伝えている。ハイ・サドルであっても、可能な限りオリジナルのサドルと同じ様に力を伝えるのが良いのではないかと思う。当然といえば当然で、もともとそのように作られているのだから、そうでなければどこかに無理が生じるのではなかろうか。
とは言っても、サドルの高さを高くしている以上、ハイ・サドルには常に駒側へ倒れこもうとする力がかかる。もし、ハイ・サドルが駒側に倒れてしまうと、表板を傷つけてしまう。筆者の場合は、木ネジを併用して、この力に耐えている。当然木ネジも、テールガットからのテンションを受けているが、ハイサドルが倒れこまないための補助であって、テールガットからの力を受けるのが主目的ではない。写真のハイ・サドルは、古いハイサドルを取り除いて付けなおした関係上、ネジは2本用いている。
テールガットのテンションだけで、この力に耐えるコンセプトのハイサドルもあるが、この場合には、エンドピンのシャンクを抜こうとする力に耐える構造が必要になる。いずれの場合でも、結局は、弦のテンションは、可能な限りオリジナルのサドルと同様に伝えられる事が必要なのではなかろうか。