駒の高さを調整するアジャスターの使用については、誤解が有るような気がする。
特殊なアジャスターを除いて、アジャスターは左右の出を同じにして使う必要がある。
最初に取り付けられた時の状態にもよるが、正確に付けられていれば、アジャスターのディスク部分より下に出ているネジの長さが同じになっていなくてはならない。片側だけを操作する使用方法は、基本的に間違いと思って良いと思う。もちろんやむを得ない場合は有るかもしれない。
アジャスターの基本的なコンセプトは、駒の高さを変えることであって、各弦は一緒に平行に動くような構造になっている。もともと通常のアジャスターには、G側とE側の弦高の相対的なバランスを調整する機能は無い。全ての弦をそのままの配置で、上げたり下げたりするのがアジャスターの機能と考えて良いと思う。
例えば、「E線側の弦高を高くしたい」と思う事が有っても、E線側のアジャスターだけを上げるのは間違いである。
仮に、E線の弦高を高くする目的で、E側の足のアジャスターを上げたとする。この時、駒はG側の脚の接地面を中心として、G側に傾くように動く。この時、図の矢印の方向に弦は移動する(図は指板と弦の断面を書いた)。従って、E線はは指板から離れる(?)とともに、G側に移動する。E線は指板の山の方に移動するので、指板からの高さは高くなるかもしれないし、あまり高くならないかもしれない。これは、駒のサイズや高さ、指板のRに依存する。ともかく、アジャスターを上げたほどには指板からの高さは増えない。
一方で、G線は、指板の山から離れる方向に移動するので、指板からの高さは高くなってしまう可能性が有る。
さらに、片側だけを上げたり下げたりすると、両方の駒足のG線側かE線側かのどちらかに余計に荷重がかかる事になり、音にも良くないし駒足のフィットも悪化する。場合によっては表板に良くない影響が有る。つまり、アジャスターを片側だけ動かすことは、弦と指板の位置関係を変えるだけでなく、音や楽器に良くない影響が有る。
弦相互の関係を変えるには、通常の駒と同様、駒自体を調整して行う必要がある。
2012年2月5日
2012年1月19日
ネックリセット
指板が下がって弦高が高くなった時、駒を低くするのは対症療法である。駒の高さを維持するためには、ネックをリセットする事が行われる。一見何ともなさそうだが、昔行われたネックのリセットがまずかったようである。表板とネックの間に入れられた材の方向が良くないため、材料が潰れてネックを支えきれず、リセットの意味があまりない。
この楽器は駒自体すでにかなり低くなっているうえ、駒の溝も演奏者自身の手で深く掘り込まれていた。
駒の高さは、コントラバスとは言え大体の範囲はあるけれども、 楽器の問題で、楽器に聞け、という事のようである。
良くない部分を取り除くと、その他の問題も見えてくる。やればやるほど問題が出てきそうな匂いがする。費用との兼ね合いがあるので、どこかで妥協する必要はある。今回は、前のネックリセットが想定していたと思われる高さまで戻すことにした。あまり無理が無く、それで十分3/4の駒の高さになる。
Overstandは、音に対する影響はあまりないと教えられたが、本当は影響があるのではないかと思う。サドルを高くするのと同じで、高くすればするほど、駒が表板を押える力が減る。この楽器はかなり古いし、ネックはリセットされているので、元の量は分からない。製作者は表板のアーチの高さとの兼ね合いで決めているという話も聞いた。
2011年12月31日
教えを乞う
どの分野にも素晴らしい人がいる。そのような人が、インターネットで情報を発信してくれていると、たとえ直接指導を受けることが出来なくても、素晴らしさの一端に触れる事ができる。パソコン越しでは一端に触れるまでも行かず、本で言えば目次をちょっとだけ見せてもらったようなものかもしれない。自分の技量の稚拙さ故に、誤解してしまう危険もあるけれど、その存在を知る事が出来るだけでも貴重だと思う。情報をもとに自分で試し、そこから学ぶ事もできる。
かつて師範に、「たとえ技術が稚拙でも、気持ちは必ず伝わるんだよ」と諭された。使い古された言い回しに聞こえるかもしれないが、これは、拙い技術でも、気持ちがこもっていれば良いという安易な意味では無いと思う。師範は、レベルに達しているかどうかについての判断に厳しいかただから。一定のクオリティに達した先の遥か彼方に一流と呼ばれる領域があって、現実には皆が皆その領域に到達できる訳ではない。しかし、一流でなくても愛のある仕事をすれば、せめてそれが伝わるという事ではなかろうか。
今年は、楽器の師匠と師匠のお弟子さんの助けを頂いて、一流のかたに毛替えを見てもらう機会に恵まれた。本当に有難かった。具体的なアドバイスを色々頂いた。その時に頂いた言葉を年の締めくくりにしたい。厳しいが、勇気づけられる。
「自分で何度もやって見つけていくしかない」
2011年12月18日
指板に月
指板の反りの量が適正でも、ナット付近から急速に深くなっている指板がある。
そのような指板の形は左手への負荷が増えると考えるが、指板の反りは、演奏家のスタイルに応じて調整して良いように思う。コントラバスは、もともと体への負荷が大きいから、楽に弾けるよう方向に調整する事が多いものの、演奏スタイルによっては、反りの量は多い方が適正となるかもしれない。
この楽器は、反りを減らして負荷を減らす方向で作業した。
刃の通りが良い材料に当たると、削るのは楽しい。一方で、材の中に何らかのミネラル(?)を含んだような材料では、刃持ちは悪く、仕上げるまでに何度も刃を砥がなくてはならない。正確に削るには刃が切れる必要がある。
「刃物は切れるうちに砥げ」とは師匠の言葉で、その通りではある事は分かっていても、つい「もう少し削ってから」と粘ってしまう。砥ぎを先に延ばすと、切れなくなる分削る労力も増えるし、刃裏が減って、結局次に砥ぐ時に時間がかかってしまう。
仕上がった指板には、何かを映してみたくなる。ランプをかざすと、ちょっとしたお月見気分になった。
そのような指板の形は左手への負荷が増えると考えるが、指板の反りは、演奏家のスタイルに応じて調整して良いように思う。コントラバスは、もともと体への負荷が大きいから、楽に弾けるよう方向に調整する事が多いものの、演奏スタイルによっては、反りの量は多い方が適正となるかもしれない。
この楽器は、反りを減らして負荷を減らす方向で作業した。
刃の通りが良い材料に当たると、削るのは楽しい。一方で、材の中に何らかのミネラル(?)を含んだような材料では、刃持ちは悪く、仕上げるまでに何度も刃を砥がなくてはならない。正確に削るには刃が切れる必要がある。
「刃物は切れるうちに砥げ」とは師匠の言葉で、その通りではある事は分かっていても、つい「もう少し削ってから」と粘ってしまう。砥ぎを先に延ばすと、切れなくなる分削る労力も増えるし、刃裏が減って、結局次に砥ぐ時に時間がかかってしまう。
仕上がった指板には、何かを映してみたくなる。ランプをかざすと、ちょっとしたお月見気分になった。
2011年10月7日
杢
汚い楽器だからと言って雑に扱ったりはしない。しかし、綺麗な楽器にはそれなりの緊張感がある。チューニングマシンの掘り込みの修正をした。ウォーム部分がスクロールチークに当たると、動きは悪くなる。マシン自体は木ネジで止められる。木ネジで締めると意外に強い力で締め付けられ、動きが妨げられてしまう。
この楽器のスクロールの杢はとても綺麗で、作りも丁寧だ。ペグボックス内側も外と同様のニスで仕上げてある。マシンをつければ見えなくなる部分のニスも美しい。掘り込みの拡張は必要最小限にとどめたい。古い楽器では、時として、このような場所のニスの方が元の色を留めている事がある。杢が美しいのは、反射が深いからではなかろうか。角度によって明暗が変化し、見るものを飽きさせない。杢が無くても木は美しいが、やはり華がある。
オリジナルのチューニングマシンに問題がなければ、通常は、なるべくオリジナルを生かしたいと思う。ただ、重要なのは、音に対する影響を考えたうえで、楽器とマシンのクオリティが一致している事ではなかろうか。必ずしも高価なものである必要はないと思うが、センスは問われると思う。オリジナルから変更された場合でも、ふさわしい物がついていると、楽器もひき立つのではないだろうか。
2011年9月27日
コンポジションかもしれない
ペグに巻いた弦が滑ってしまう事がある。
弦の巻肩や弦を通す穴の形状が問題の事もあるが、今回のケースでは、どうもコンポジションが塗られているような気がする。しかも、ペグの軸全体にコンポジションが塗られているような気がする。 なんとなく、軸全体が茶色くなっていて、石鹸かロウのような感触であった。クリーニングした。
ヴァイオリンのように、摩擦で止まっているペグに対しては、コンポジションは有効である。潤滑のための成分と摩擦を増やす成分の両方が含まれていて、適度に回転し適度に止まるように調整できる(ようだ)。
しかし、コントラバスのような機械式のチューニングマシンでは、そもそもコンポジションの必要性が無いのではなかろうか。コントラバスの場合、ペグ軸の摩擦ではなく、ギア比の高いウォームギアを使う事で弦のテンションを止めている。従って、潤滑が必要になる事はあっても、摩擦を増やす必要はないように思う。ペグ軸の摩擦が増えれば、かえって滑らかな調弦が難しくなる。ペグとペグ穴の摩擦が増える事で音に何らかの影響を与えている可能性は無くも無いと思うが。
摩擦を増やす成分が含まれるコンポジションはコントラバスのチューニングマシンの調整には向かないのではないか。
弦の巻肩や弦を通す穴の形状が問題の事もあるが、今回のケースでは、どうもコンポジションが塗られているような気がする。しかも、ペグの軸全体にコンポジションが塗られているような気がする。 なんとなく、軸全体が茶色くなっていて、石鹸かロウのような感触であった。クリーニングした。ヴァイオリンのように、摩擦で止まっているペグに対しては、コンポジションは有効である。潤滑のための成分と摩擦を増やす成分の両方が含まれていて、適度に回転し適度に止まるように調整できる(ようだ)。
しかし、コントラバスのような機械式のチューニングマシンでは、そもそもコンポジションの必要性が無いのではなかろうか。コントラバスの場合、ペグ軸の摩擦ではなく、ギア比の高いウォームギアを使う事で弦のテンションを止めている。従って、潤滑が必要になる事はあっても、摩擦を増やす必要はないように思う。ペグ軸の摩擦が増えれば、かえって滑らかな調弦が難しくなる。ペグとペグ穴の摩擦が増える事で音に何らかの影響を与えている可能性は無くも無いと思うが。
摩擦を増やす成分が含まれるコンポジションはコントラバスのチューニングマシンの調整には向かないのではないか。
2011年9月13日
弓の構造
弓の中はどうなっているだろうか。毛はどのようにして留められているのだろうか。
リンクの図中にいくつかの訂正がある。しかし良く描かれている図だと思う。
Don Reinfeld, Bow Maker / Detailed illustration of a bow (http://www.drbows.com/diagram.html)
図示されているのは、ヴァイオリンの弓だが、コントラバスのジャーマンボウでも本質は同じである。面白いのは、毛の束が2回折り曲げられてplugで固定されている事で、何度見ても何度手にしても、本当に良く考えられた仕組みだと思う。狭いスペースの中で確実に毛を固定する方法には感心するしかない。もちろんPlugを正しく作れるだけの技量は必要になる。
図を見れば、弓がいかにスペース的にギリギリの所で作られているか分かる。Tipでは、弓先が細くなるのに、plugの穴は広くなる。Frogでもplugの穴を深くしすぎればeyeletと干渉してしまう。木工としてみれば安全率は低い部類ではないか。それでも作者の配慮が行きとどいた弓では、それぞれのスペースの取り合いが考えられていて、一筋の安心感がある。毛替えのしやすさも、配慮された弓とそうでない弓では全く変わってしまう。
弓の中にも世界があり、ディティールに入っていけば無限の広がりがある。その縁に立って、その表面をひっかいているだけだと思い知らされる。
リンクの図中にいくつかの訂正がある。しかし良く描かれている図だと思う。
Don Reinfeld, Bow Maker / Detailed illustration of a bow (http://www.drbows.com/diagram.html)
図示されているのは、ヴァイオリンの弓だが、コントラバスのジャーマンボウでも本質は同じである。面白いのは、毛の束が2回折り曲げられてplugで固定されている事で、何度見ても何度手にしても、本当に良く考えられた仕組みだと思う。狭いスペースの中で確実に毛を固定する方法には感心するしかない。もちろんPlugを正しく作れるだけの技量は必要になる。
図を見れば、弓がいかにスペース的にギリギリの所で作られているか分かる。Tipでは、弓先が細くなるのに、plugの穴は広くなる。Frogでもplugの穴を深くしすぎればeyeletと干渉してしまう。木工としてみれば安全率は低い部類ではないか。それでも作者の配慮が行きとどいた弓では、それぞれのスペースの取り合いが考えられていて、一筋の安心感がある。毛替えのしやすさも、配慮された弓とそうでない弓では全く変わってしまう。
弓の中にも世界があり、ディティールに入っていけば無限の広がりがある。その縁に立って、その表面をひっかいているだけだと思い知らされる。
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