
先日、弦高の修正と、セットアップの調整ということで楽器をお預かりした。
5弦の楽器で、一見したところ、作業するのに特に問題は無い様だった。一通り現状のセットアップを測定したあと、弦を緩め駒を外し、あまりにも位置が悪いため、魂柱も一旦とり外す事にした。調整されないまま長く置かれた楽器では、魂柱はきつくなっている事が多いような気がする。今が乾燥の季節というのもあり、予想通り、魂柱はきつくなっていた。ところが、予想以上にきつく、取り外すのが大変な位にきつかったのである。表板に大きな損傷が無いのが不思議な位であった。
ともかく、魂柱を外し、「長い分には調整できるな」などと考えていたが、事態はそう甘くなかった。突然、楽器がメキメキと音をたてはじめたのである。どうしたことかと、場所を探すと、サドルと横板の間が開き始めていた。開き始めたのは分かったが、ただ置いてある楽器が勝手に開いて行くのだからどうしようもない。ひとしきり音が続いた後、サドルがボンと外れて音はやんだ。サドル周辺の一部の表板はブロックから剥がれて、隙間が出来ていた。
弦のテンションやきつくなった魂柱によるストレスから開放されたため、変形がもとに戻ろうとしたのだろうと思う。楽器としてはそれほど高価では無いが、名のあるメーカーだから、接着面の剥がれだけで、夫々の部材に損傷が無かったのは、然るべき配慮をもって膠が使われていたからかもしれない。
木材は、相当長い間ストレスを受けていても、そのストレスを取り除けば元に戻ろうとする力がある。取りあえず全てのテンションを取り去った状態で、一晩置くことにした。翌日見ると、エンドブロック周りの表板の隙間は小さくなっていた。
5 件のコメント:
いつも興味深く読ませてもらっています。
テンションから解放されたとたんにサドルが
飛ぶなんてすごい話ですね。セットアップが楽器に与える影響を再認識しました。
また、一般的に言って、テンションの強い弦を張りっぱなしにしておくのもあまりよくないんでしょうか?とはいえ、弱めの弦を張って音に満足できなければ本末転倒なんですが。
こみみさんコメントありがとうございます。いつも読んで頂いていると思うと大変嬉しいです。どうぞ厳しくまた長い目で見ていただければ幸いです。
楽器が健康なら弦を張った状態でバランスがとれると思うので、基本的には張ったままで良いと思います。通常は、張ったり緩めたりする悪影響の方が大きいと思います。ガット弦のように保管に気遣いが必要な弦であっても、楽器自体に影響がでる程には緩めないと思います。
また、私の経験からは断定的なことが申し上げられないのですが、弦のテンションが強いかどうかは、楽器との兼ね合いがあるのではないでしょうか。テンションの強い弦が合う楽器もあると思いますし、そうでない楽器もあるのではないかと思います。
もし、弦を張っているだけで楽器に問題が起こるようなら、セットアップか、おっしゃるように弦との相性に問題がある事も考えられると思います。今回サドルが外れたのは、弦を外した時ではなく、魂柱を外した時なので、これは、セットアップに問題があった例と考えて良いと思います。
ご丁寧にありがとうございます。たしかに、弦のテンションは、楽器のと兼ね合いという観点から見るべきかもしれませんね。
私は自分でセットアップをするわけではないのですが、プレイヤーとして楽器と接するうえでも為になる知識が得られ、毎回の更新を楽しみにしています。それでは、今後も期待しています。
これって,かもめ...のフレーズです
よね...ちょっと確認です.
その後ラップ現象はおきていませんか?
教授さんコメントありがとうございます。
"かもめ"は、世代ですね。確認を確認します。
その後、写真の5弦は、サドルをフィットしてつけなおし、変な音を出す事も無く安定しています。次の段階では、キルリアン写真を撮って生体エネルギーを・・・というのは冗談で、別な楽器の作業をはさみ、新しい弦が届いてから作業再開です。
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