2011年12月31日

教えを乞う

どの分野にも素晴らしい人がいる。

そのような人が、インターネットで情報を発信してくれていると、たとえ直接指導を受けることが出来なくても、素晴らしさの一端に触れる事ができる。パソコン越しでは一端に触れるまでも行かず、本で言えば目次をちょっとだけ見せてもらったようなものかもしれない。自分の技量の稚拙さ故に、誤解してしまう危険もあるけれど、その存在を知る事が出来るだけでも貴重だと思う。情報をもとに自分で試し、そこから学ぶ事もできる。

かつて師範に、「たとえ技術が稚拙でも、気持ちは必ず伝わるんだよ」と諭された。使い古された言い回しに聞こえるかもしれないが、これは、拙い技術でも、気持ちがこもっていれば良いという安易な意味では無いと思う。師範は、レベルに達しているかどうかについての判断に厳しいかただから。一定のクオリティに達した先の遥か彼方に一流と呼ばれる領域があって、現実には皆が皆その領域に到達できる訳ではない。しかし、一流でなくても愛のある仕事をすれば、せめてそれが伝わるという事ではなかろうか。

今年は、楽器の師匠と師匠のお弟子さんの助けを頂いて、一流のかたに毛替えを見てもらう機会に恵まれた。本当に有難かった。具体的なアドバイスを色々頂いた。その時に頂いた言葉を年の締めくくりにしたい。厳しいが、勇気づけられる。
「自分で何度もやって見つけていくしかない」

2011年12月18日

指板に月

指板の反りの量が適正でも、ナット付近から急速に深くなっている指板がある。

そのような指板の形は左手への負荷が増えると考えるが、指板の反りは、演奏家のスタイルに応じて調整して良いように思う。コントラバスは、もともと体への負荷が大きいから、楽に弾けるよう方向に調整する事が多いものの、演奏スタイルによっては、反りの量は多い方が適正となるかもしれない。
この楽器は、反りを減らして負荷を減らす方向で作業した。

刃の通りが良い材料に当たると、削るのは楽しい。一方で、材の中に何らかのミネラル(?)を含んだような材料では、刃持ちは悪く、仕上げるまでに何度も刃を砥がなくてはならない。正確に削るには刃が切れる必要がある。

「刃物は切れるうちに砥げ」とは師匠の言葉で、その通りではある事は分かっていても、つい「もう少し削ってから」と粘ってしまう。砥ぎを先に延ばすと、切れなくなる分削る労力も増えるし、刃裏が減って、結局次に砥ぐ時に時間がかかってしまう。

仕上がった指板には、何かを映してみたくなる。ランプをかざすと、ちょっとしたお月見気分になった。

2011年10月7日

汚い楽器だからと言って雑に扱ったりはしない。しかし、綺麗な楽器にはそれなりの緊張感がある。

チューニングマシンの掘り込みの修正をした。ウォーム部分がスクロールチークに当たると、動きは悪くなる。マシン自体は木ネジで止められる。木ネジで締めると意外に強い力で締め付けられ、動きが妨げられてしまう。

 この楽器のスクロールの杢はとても綺麗で、作りも丁寧だ。ペグボックス内側も外と同様のニスで仕上げてある。マシンをつければ見えなくなる部分のニスも美しい。掘り込みの拡張は必要最小限にとどめたい。古い楽器では、時として、このような場所のニスの方が元の色を留めている事がある。

杢が美しいのは、反射が深いからではなかろうか。角度によって明暗が変化し、見るものを飽きさせない。杢が無くても木は美しいが、やはり華がある。

オリジナルのチューニングマシンに問題がなければ、通常は、なるべくオリジナルを生かしたいと思う。ただ、重要なのは、音に対する影響を考えたうえで、楽器とマシンのクオリティが一致している事ではなかろうか。必ずしも高価なものである必要はないと思うが、センスは問われると思う。オリジナルから変更された場合でも、ふさわしい物がついていると、楽器もひき立つのではないだろうか。

2011年9月27日

コンポジションかもしれない

ペグに巻いた弦が滑ってしまう事がある。

弦の巻肩や弦を通す穴の形状が問題の事もあるが、今回のケースでは、どうもコンポジションが塗られているような気がする。しかも、ペグの軸全体にコンポジションが塗られているような気がする。 なんとなく、軸全体が茶色くなっていて、石鹸かロウのような感触であった。クリーニングした。

ヴァイオリンのように、摩擦で止まっているペグに対しては、コンポジションは有効である。潤滑のための成分と摩擦を増やす成分の両方が含まれていて、適度に回転し適度に止まるように調整できる(ようだ)。

しかし、コントラバスのような機械式のチューニングマシンでは、そもそもコンポジションの必要性が無いのではなかろうか。コントラバスの場合、ペグ軸の摩擦ではなく、ギア比の高いウォームギアを使う事で弦のテンションを止めている。従って、潤滑が必要になる事はあっても、摩擦を増やす必要はないように思う。ペグ軸の摩擦が増えれば、かえって滑らかな調弦が難しくなる。ペグとペグ穴の摩擦が増える事で音に何らかの影響を与えている可能性は無くも無いと思うが。
摩擦を増やす成分が含まれるコンポジションはコントラバスのチューニングマシンの調整には向かないのではないか。

2011年9月13日

弓の構造

弓の中はどうなっているだろうか。毛はどのようにして留められているのだろうか。
リンクの図中にいくつかの訂正がある。しかし良く描かれている図だと思う。

Don Reinfeld, Bow Maker / Detailed illustration of a bow (http://www.drbows.com/diagram.html)

図示されているのは、ヴァイオリンの弓だが、コントラバスのジャーマンボウでも本質は同じである。面白いのは、毛の束が2回折り曲げられてplugで固定されている事で、何度見ても何度手にしても、本当に良く考えられた仕組みだと思う。狭いスペースの中で確実に毛を固定する方法には感心するしかない。もちろんPlugを正しく作れるだけの技量は必要になる。

図を見れば、弓がいかにスペース的にギリギリの所で作られているか分かる。Tipでは、弓先が細くなるのに、plugの穴は広くなる。Frogでもplugの穴を深くしすぎればeyeletと干渉してしまう。木工としてみれば安全率は低い部類ではないか。それでも作者の配慮が行きとどいた弓では、それぞれのスペースの取り合いが考えられていて、一筋の安心感がある。毛替えのしやすさも、配慮された弓とそうでない弓では全く変わってしまう。

弓の中にも世界があり、ディティールに入っていけば無限の広がりがある。その縁に立って、その表面をひっかいているだけだと思い知らされる。

2011年8月21日

Slant? Round?

E線の下だけ平らになった指板がある。

低音側の弦の方が振幅が大きいために、平らにしてあるということのようである。現代の弦は、4本のテンションは相当程度揃って来ているために、コントラバスにおいても、平らになった指板の必要性は少なくなってきているかもしれない。もちろん、使用する弦や弦高などのセットアップにもよるし、演奏家の好みもある。
ただ、もし丸い指板に問題があるなら、「E線だけががノイズになるんだよね」というケースがもっと沢山無ければならないように思う。

この楽器の指板には十分な厚みがあり、ラウンド指板に削り直した。演奏家の方は、今まで平らな指板でも問題は無かったとのことであったが、キャンバーの調整のため指板は削り直す事になっていたので、ついでにラウンドにする事になった。

指板は黒檀でできているので、削りくずや粉も黒い。道具や手も黒くなってしまう。健康のためには、マスクをしたりエアフィルターを動かしたりして、なるべく粉塵を吸わない事が重要である。しかし、削っている時の木の匂いは良いものだ。その魅力の故に、意識して注意する必要がある。

2011年8月12日

駒のメンテナンス

駒のメンテナンスは、楽器の能力を維持するために決定的に重要である。日々チューニングを重ねるにつれて駒は指板側に倒れてくることが多い。これを修正するのはプレーヤの仕事である。

動画があり、危険性の少ない方法なので紹介したい。この動画では、弦長を基準に駒の位置を合わせているが、これには駒が正しい位置にあるという前提がある。また、正確な弦長は、専門家に教えてもらうか、セットアップしてもらった時に自分で記録しておく必要があると思う。
ビデオ中では作業台の上で行っているが、下に何かを敷いて床の上で行ってもよいし、ベッドの上でもできる。


どのような修正方法をとるにしても、力を入れすぎてしまったときに駒が倒れてしまわないよう、何らかのロックを作って操作することがポイントである。この動画の場合は、片方の手で駒を押し、もう片方の手で駒が行きすぎないためのロックを作っている。

この方法で簡単に駒が動かないようなら、駒の溝がきついか弦の巻線が緩んで駒に食い込んでいる可能性がある。その場合は無理に押さず、弦を少し緩めてから行う必要がある。

2011年8月11日

粘着テープ

 弦楽器にとって、剥がれは安全弁のような働きもある。特に表板は割れやすいので、薄いニカワでつけてある事が多い。

剥がれたら、すぐに楽器屋に行ってつけ直してもらうのが最も無難である。つけ直せば剥がれは無かった事になる。ただ、事情によっては、どうしても必要に迫られることがあるようで、この楽器は持ち込まれた時、梱包用のテープが貼られていた。

色々なパターンの最悪の事態が頭をよぎる。剥がすときに、ニスがテープ側についてしまっても、粘着剤がニスの側に残るにしても、良い結果にならない。さらに、楽器自体はとても良いものである。こんな時には、「テープの粘着力は、ファンデルワールス力によるものだ」などと言われても、あまり心は動かない。
このタイプのテープは、テープ自体に強度があるので、上手くはがせるかもしれないと思い、専用のヘラを併用しながら、ほんの少しずつ端から剥がしていった。非常に時間はかかったが、今回は、上手くいった。シールの神様に感謝したい。殆ど無傷と言っていいと思う。が、それでも「殆ど」はつけなければならない。上手くいった理由のひとつには、持ち主の方が、早めに持ってきて下さったからだと思う。張ってから時間が経つとより剥がしにくくなる。

修理する側としては、粘着テープを張ることはお勧めできない。しかし、楽器が突然剥がれてしまったが、一応弾けそうで、他に変わりが無く、ノイズを抑えたいために、どうしてもテープを貼りたい時もあるかもしれない。そんな時には、せめて、マスキングテープやドラフティングテープのような粘着力を弱めたテープを使う方がダメージを小さくできるのではないだろうか。いずれにしても、出来るだけすぐに楽器店に持ち込む必要はある。

この楽器は新作だったのも幸いしたが、マスキングテープを使っても、ニスを剥がす可能性はある。マスキングテープの粘着力はいろいろなものがあり、クオリティも様々で、中には張って時間が経つと剥がせなくなるものもある。
日ごろの作業では大変お世話になり、大いなる味方となってくれる粘着テープも、ひとたび楽器上に現れると手強い相手となってしまう。

2011年7月25日

チューニングマシンのノイズ

 チューニングマシンからノイズが出る事がある。

チューニングマシンは耳に近いので、場所が比較的分かりやすいが、それでも、何故ノイズが出るのか分からない時もある。
このマシンでは、ウォームを止めるパーツが裏からネジ留めされていて、そのネジがゆるんでいた。これがノイズの発生源になっていると思われた。

この際だから、分解してクリーニングする。 樹脂製のワッシャーは、主に軸を潤滑するためのものである。また、ウォームの振動を押さえるための樹脂部品が入れられていたりして、考えられている。樹脂製のパーツはIrving Sloaneの影響だろうか。
しかし、使ううちにネジが緩んできてしまったので、樹脂部品以前の問題になってしまっていた。

全てのパーツを組み直し、ネジの緩み止めを施した。セットアップ後、弾いてみるとノイズがした。チューニングマシンから・・・。
結局、ノイズの原因は複数あり、ウォームの軸と取っ手の接合部に緩みがあった。先のクリーニングでは分解しなかった場所であり、毎度のことながら戒められる。簡単な修理など無いと。

2011年7月23日

石川滋氏のCD


ヨハン・セバスチャン・バッハ
無伴奏チェロ組曲第1番,第2番,第3番
J.S.Bach Unaccompanied Cello Suites No.1,2,3
Performed on Doublebass

石川滋 (コントラバス)
Shigeru Ishikawa (Contrabass)
録音: 2010年4月25日~28日オランダ・ヴァルトヘアモント
Recorded April 25th to 28th, 2010Valthermond Concert Hall ,Netherland

* * *

2011リサイタル会場 (スケジュールはShigebass clubでご確認下さい。)

2011年7月15日

指板交換

指板を交換する理由として、指板が消耗して薄くなった、指板の材質に問題がある、指板の形に問題がある、等が挙げられる。さらに、演奏上の理由で交換する場合もある。

指板とネックを足した厚みにも好みがある。ネックの強度は音に影響があるので極端な事は良くないが、ある程度の範囲で好みにできる。ネックの材質や、指板とネック部分の比率にもよる。
手の大きさや形は千差万別だから、薄いほうが良いベーシストもいれば、ある程度の厚みを好む演奏家もいる。今回は、厚みがある方が良いというご希望で指板を交換した。

写真は、元の指板を外したところで、どのような接着が行われたかをしめす痕跡があった。指板とネックを接着する時、指板とネックの間のニカワによって指板がぬるぬると動くのを防ぐために、何らかの工夫がしてある事が多い。位置決めに手間取ると、ニカワをかんでしまう。小さい釘を打つというのは、後に指板を外す可能性を考えると頂けないように思うが、指板の裏に溝を掘ることは良く行われる。余ったニカワを溝に逃がして、指板とネックの密着を促す。これらは、あくまでも接着をスムーズに行うためのものなので、作業上の都合である。

この楽器の指板には溝は無く、指板の裏3か所にスポット的に別な接着材が使われていた。どんな接着剤かは分からないが、ニカワではなかった。この部分が先に固着する事で指板の滑りを防ぎ、接着の工程を助けているのではないだろうか。

以前の指板も指板として薄い訳ではなかった。日々の仕事でお使いになるため、より良いフィーリングを求めて交換を希望された。用意した指板の中から、材質が良く厚みのなるべく厚いものを選んで使用した。

キャンバーを削りだす過程では、指板の材が許す限り指板を厚くするよう注意した。少しでも薄すぎれば、交換した意味が無くなってしまう。実際に弾いていただくと、少し厚すぎたようである。申し訳ありません、次の機会に削らせて頂きます。

2011年7月11日

湿度にご注意を

すでに時遅しだが、今年の梅雨は雨が多かった所もあり、当方にも複数の楽器が持ち込まれた。
確かに、当工房でもかなり意識的に除湿しないと、湿度が高くなりすぎる傾向であった。

冬場の乾燥に気をつけるのと同様に、多湿にも注意が必要である。コントラバスは大きいのでタフだと勘違いされやすいが、ヴァイオリンと同じである。湿度が高い環境に長時間置かれると、ニカワが柔らかくなって、条件によっては接着面が開いてくる可能性がある。

一度乾燥された木材では、水分を吸いこむ速度より水分を吐き出す速度の方が早いと言われている。乾燥する日があればあまり問題ないが、ずっと雨続きだと問題が起こる可能性がある。接着面が剥がれる他に、カビが発生する事がある。ソフトケースの内側表面を良く見て、斑点のようなものがうっすらと見えたら、カビの可能性がある。そうなったら、ケースはアルコール系の消毒剤で拭きとり良く乾燥させる。楽器は、ニスを痛めるので決してアルコールで拭いてはいけない。

単純に乾燥と多湿を比べれば、乾燥の方がより深刻と言われる。これは単に、板が割れるより接着面が剥がれるだけの方が故障としては軽度だからである。

2011年6月27日

東欧から日本にいらしたの?5

古い駒の足の跡には、緑っぽい粉がついていた。

チョークフィットされたのか、または、他の目的があったのかは分からない。世の中では、駒と表板の間に何かを挟んでみるという実験も行われているようなので、これだけから何かを特定することは出来なかった。映画やドラマの刑事は、白い粉を見つけたら、舐めて物質を特定するようだが、そんな危険なことは出来ない。ともかく、この粉は拭きとり、新しい駒を製作した。

 小さめだったナットも、大きさを合わせて製作する。製作なのか制作なのか、今では特にこだわりは無いが、ナットのような単純なパーツでも、機能上いくつか押さえなくてはならない事があり、その辺はこだわっても良いと思う。
ナットのスタイルに関しては、基本的に元のナットを踏襲する。
チューニングマシンのネジは、真鍮製を使用した。本来ならスチールが望ましいのかもしれないが、自分のコレクションには、まとまった数の同じネジが無く、真鍮製のものを使用した。真鍮の表面が酸化してくればなじむと思う。ネジ穴のうち、下穴が大きいものは埋めなおした。

セットアップを終えてみると、反応が良く、かなり明るい傾向になったと思う。特段明るくする方向に調整したわけではなく、たいていの楽器は、問題を取り除いていくと以前より明るく感じる。また、いったんテンションを解放すると、弦を張ったすぐ後は明るく聞こえる事もある。特に、今回は弦もシンセティックコアの弦で、その分派手さが加わっている。

東欧からいらして、しばらくは日本に滞在し、持ち主の方に大切にしてもらえると思う。いつかまた旅する時がきたら、今度はどの国に行くのだろうか。

2011年6月19日

東欧から日本にいらしたの?4

一見ニスが残っているように見えて、実はニスが無いことがある。

手擦れしてニスのような光沢があっても、ニスが無ければ表面から汗を吸いこんでしまう。手でよく触る部分がそうなっていることが多い。この楽器の肩もそうで、クリーニングすると白く木の地肌が出てきた。元の風合いを残すようニスをかける。


 駒や魂柱をセットアップして試奏した結果、ハイサドルにする。サドルを外すと、サドルは以前に外した時に割れたようである。ハイサドルにするので、このサドルは、オーナーの方にお渡しする。表板のノッチも綺麗にする。前に表板を開けた時のピンがかなり際にある。ノッチの奥行きは比較的小さめである。
サドルをとると表板の年輪が良く分かる。ブロックがどのように木取りされているのかも見える。また、横板の厚みがどの位なのかも見ることができる。もっとも横板は、全ての場所で同じとは限らない。


ハイサドルは、少し高めに作って、試しながら下げる。黒檀を少し大きめに木取りする必要はあるが、逆はできないからである。弾いてみて、少し低くした。ハイサドルの形は、いろいろやってきているが、機能としての構造は変わっていない。

2011年6月13日

東欧から日本にいらしたの?3

 コントラバスのチューニングマシンはスクロールチークにネジ止めるされる。

ネジの長さが長すぎれば貫通する。弦のテンションは、チューニングマシンをとめるネジが受けるわけだから、可能な限り大きめで、長めのネジを使いたくなるのは、心情としては理解できるが、貫通はよろしくない。
このネジ部分のトラブルは散見するが、経年変化によるものよりは、取り付け時の不手際によるものが多いような気がする。

例によって、プラスネジが気になるけども、材質がステンレスであることの方が違和感があるかもしれない。この辺の趣味は人によると思う。このチューニングマシンなら、材質がスチールのマイナスが良く合うように思うが、本体と同じくらいの時代があれば、プラスネジでも納まる気がする。

スチールのマイナスネジも集める事にしよう。古い家具や、建具などからサルベージできる。時に、古い道具箱から、箱で見つかることもある。
以前、金物屋が間違って、金物の取り付け用にマイナスネジをつけてくれたことがあった。喜び勇んで店に行くと、丁寧に間違いを詫びられた。そうではなくて買いたいと言うと、探してくれたが、もう無いとの事であった。

2011年5月10日

東欧から日本にいらしたの?2

弦のテンションが無くなると、隙間があいてくるナットがある。

ナットは、たいていの場合は接着してある。あくまで個人的な認識であることをお断りしたいが、ナットは接着されていなくても音の上ではあまり問題にはならない。楽器の使用上は、弦を緩めた時などにずれると面倒なので、接着してある方が実用的である。ただ、接着の有無にかかわらず、ナットが収まるべき場所に密着していることは重要ではないかと思う。

このような事を書いていると、重箱の隅をつつくような事を言うようで、ちょっと気がひける。しかし、テンションがかかっている時に隙間が無くて、テンションが無いと隙間が開くという事は、その分だけバネが入っている訳で、その量によっては、音に影響している可能性がある。本当に影響しているかどうかは、定性的に判断できないかもしれない。通常は一度に全ての弦を外す事は無いので分かりにくいのではないか。一度に弦を外すと、魂柱が倒れたりセットアップを元に戻せなくなるリスクがある。

さらに細かい事を言うようだが、この楽器のナットはなぜか小さめであった。もともとこうなのか、何かの事情があったのかは分からない。

ちょっとくらい隙間があっても、ちょっとくらい小さくてももちろん良い人には良いと思う。法に触れるわけではないし、第一、楽器の世界にはいろいろな自由があるはずだ。しかし、だからこそ、チマチマ細かい事を言って、隙間をなくしたりサイズを合わせる自由だってある。

2011年5月1日

東欧から日本にいらしたの?

 もし楽器の中に何か書いてあったら、一応持ち主の方にお知らせする。

自分の楽器の中に、何か書いてあったら知りたいと思う。時代のある楽器なら、昔に想いを馳せることもできるし、自分が楽器をあずかって来た中の一人で、次の人に引き継いでいくという事も実感できる。

表板の裏側に書いてあるときには、鏡に映す事になるので、読みにくい。写真に撮って反転するまでは、アルファベットでは無いような気もした。

内容がどこまで正確なのかは、鑑定家によるしかない。私は鑑定には素人だから、持ち主の方には書いてあったことを伝えるだけだ。ただ、名のある楽器でなければ、敢えて嘘を書く理由もないとも思う。仮にこの記入自体がオリジナルでなかったとしても、ラベルが痛んだ等の理由で、内容が書き写されたかもしれない。

チューニングマシンから始めた。このマシンには、大きな故障は無かった。左がクリーニング後である。使い込んだ感じが残った方が良いと思う一方、汚れが残っていると、汚れの下がさびていても分からないので、汚れの部分は落とした方が良いと思う。汚れと味の境目はどこなのかが難しいが、機械として正常に動作するために必要な事はやるようにする。歯車の歯の間には、オイルやワックスとホコリの混ざった物が詰まり、ウォームとの摩擦を大きくしたり、かみ合わせを悪くしたりする。この詰まった汚れは思いの外固い事が多い。

チューニングマシンがオリジナルかどうかは(私には断定できないけれども)、ネジ穴やスクロールへの彫りこみが現状のものと一致していれば、オリジナルの可能性は高くなる。ネックから先全てが交換されていれば別だが、マシンだけをつけ直すには、ネジ穴を埋めなおしたり、ブッシングしなければならないので、跡が残る。この楽器にはそのような跡は無かった。

2011年4月26日

カメラ

カメラを倒してしまった。

楽器のケースをひっかけて三脚を倒してしまった。自分の不注意で仕方ない事だが、慣れ親しんだものが壊れるのはつらい。特に自分で修理できないものはガックリである。

写真を撮るのは、第一には持ち主の方への説明のためで、第二に作業の記録のためである。だから、カメラはとても重要である。許可を頂いたお客様の写真はブログで使わせていただき、皆様に見ていただく事ができる訳である。

本格的なカメラには及ばないと思うが、小さいカメラにも利点がある。このカメラは、レンズの筒の部分がエンドピンの穴に入り、買った当時としては広角だったので、楽器の内部が比較的広い範囲で映った。ただ、手ブレ補正もないし、レンズも暗いので、三脚を使う必要がある。ともかく、筆者はカメラには詳しくないし、三脚につけっぱなしで工房に置いておくのにはちょうど良かった。

実は、このカメラを倒したのは2回目で、一回目は倒れる途中で気付き、足を伸ばして受けたので、なぜかオートフォーカスが2回繰り返されるようになったものの、なんとか使えていた。
今回は倒れるまで気づかなかった。Mama don't take my Kodachrome away!

2011年4月24日

セルフネックのコントラバス6

 テールガットは、かなり太い針金であった。

どうやって入れたのか分からないが、テールピースの裏側には、針金を入れる過程でついた傷があったし、ガットを通す穴の一部には亀裂も入っていて、苦労の跡がしのばれる。
針金をねじった部分は、テールピースの中に納まりきらずに出っ張っており、サドルが低いのとあいまって表板に傷をつけていた。針金は取り除き、新しいテールガットに交換した。

 表板のニスは一応目立たないように修正したが、サドルは低すぎて、テールピースが表板に触れそうである。表板のアーチがサドルの近くからすぐに始まっているのも一因である。今回は、いろいろな事情で、サドルに部分的に黒檀を足して、しのぐことにした。楽器の感じからは、将来的にはハイサドルにしても良いと思う。
 この楽器には、falese nutがついていた。弦長を短くする手段の一つだが、ちょっと特殊な製作方法であったこともあり、材をエボナイズして、成形もして見た目に違和感が少ないようにしてみた。

駒を作り、弦を張ってみると、予想にたがわぬ良い反応である。少しウルフが強くなったかもしれない。ウルフキラーをつけて、具合をチェックしていただくことにした。

家人に支えてもらって、写真をとった。アッパーバウツが大きめななりに良い形をしているし、体積に余裕があって鳴りが深い。今回は力及ばず、合成系接着剤が残った部分もあるが、持ち主の方に愛されて、これから幸せになっていけると思う。

2011年4月17日

湿度計

新しい湿度計を買ってみた。あまり高価なものは必要ないが、ある程度信頼できる数値は欲しい。

デジタルの方が正確という情報を頂いていたが、毎日見るものでもあるし、針で示すタイプが好きなので、迷った末アナログのものにした。精度の範囲が示されているものなので、表示通りなら問題なく使えるはずである。

今使っているものも、精度範囲が示されている。ただし、先代からの更新以来何年もたつので、経年変化があるかも知れないと思っていた。

新旧で表示が違う。10パーセント位違う。50が60でもあまり問題ないが、30か40かとなるとちょっと問題である。どちらが正しいのかそれぞれの読みだけでは分からない。もうひとつ買っても、結局は同じ状況になってしまう。

ふと、湿球を作ればよいと気付いた。手近にあった温度計で湿球を作り、乾球との温度差から湿度を求める。チャートは理科年表に載っているし、インターネット上にもある。湿球が氷結している場合にも湿度が求められると初めて知った。

結果は新しく購入したものとよく一致した。

2011年4月13日

セルフネックのコントラバス5

Cバウツの裏板と横板は着いてはいるが、合成系云々が充てんされている状態である。

これも取り除くしかない。この部分には魂柱が乗るクロスバーがあって、その下の隙間にもしっかり合成系が入っていたので、クロスバーも少し剥がす。剥がしたクロスバーの奥の方はニカワだった。

どうせならと、進めていくうちにかなりな長さを貼り直すことになった。それでも完全には取り除けなかったが、接合部が密着すると気持ちが良い。(写真(上から二番目)はクリーニング前)
しかし、ちょっと問題が残った。先のネックの所でも触れたように、横板がフリーになると、ヘナヘナして元の位置に戻すのにはそれなりの配慮がいる。

この部分も再度接着する前に、横板の配置を試してみたが、どうしても少し裏板が余ってしまう。よくよく裏板を見てみると、余る部分に木が足してある。そういう目で見てみると、足してある部分は少し不自然な形になっている。このことから、木が足してある部分は余って正解という事にして、接着した。

最初の状態で、隙間が接着剤で充てんされていた時には余ってなかったのが不思議だ。ともかく、余った部分にはニスを塗り、持ち主のかたに見ていただいてから、必要に応じて修正していくことにした。

さて、リセットしたセルフネックは、十分な角度に戻ったが、テンションをかける前に、まだやることがある。

ネックの付け根と表板が当たる部分は、以前の修理で木が足されていた。しかし木の使い方が悪く、強度が無いため、足された木は弦のテンションでつぶれて隙間ができている。この部分は、弦のテンションを表板に伝える重要な部分で、ボタン側をいくら修理しても、ここが持たなければ、ネックは再び下がってしまう。セルフネックの楽器だから、うめ木が横から見えて不思議な感じがする。オリジナルの状態では、表板はうめ木の分長かったのかもしれない。


2011年4月10日

セルフネックのコントラバス4

 ネックのヒールと裏板の隙間を埋めるプレートを作る。

このプレートと、裏板が密着するよう削り合わせる。単に密着させるだけでなく、ネックの角度を決める要素でもあるので、様子を見ながら少しずつ進める。
横板の欠けた部分も足した。

横板の裏板への着き方も調整する必要がある。横板が裏板から外れていると、横板の周長は一定だが、ある部分を押しこむと、別な部分が出っ張ってくるという具合に自由度がある。これを出来るだけうまく配分することが必要になる。



話は戻って、このプレートは、ボタンと裏板をつなぐ役割も担う。仮に、プレートの厚みが1mmであっても、木取りが正しく行われていれば、弦のテンションに耐えるだけの引っ張り強度が期待できると思う。

ところで、V型に切られたボタンだが、殆ど鋸の挽き代が無いので感心していた。どうやって切ったのか。答えは、ボタン部分はオリジナルでなかった、であった。ボタン部分の保存は行わず、新たに製作することにした。

 ボタンを新しく製作した後、裏板のオーバーレイパッチを施すことにした。先のプレートにプラスして補強しておく意味がある。

このタイプのパッチは、時折見かける。ボタン部分の損傷に対する補強である。今回は、この部分にパフリングもなく、ボタンはオリジナルでない事もあり、パッチは許されると判断した。

元のネックのラインはパッチにかけて、多少不自然になっているが、パッチのボタン部分の面積を稼ぐ目的がある。ネックにはこの部分以外にも、過去に負った故障があるので、将来的には交換される可能性が高い。ネックが交換されるまで、辛抱をお願いしたい。オーバーレイパッチも、将来ボタンのグラフトが行われるまでの辛抱かもしれない。

2011年4月2日

セルフネックのコントラバス3

いくつかの方法を組み合わせて、合成系接着剤を取り除く。

 切り離されたボタンと裏板をつなぐ補強の板が入れられていたが、これも合成系接着剤で固定されていた。補強の板は、横板との接合部までそのまま続いていて、1mm程度の段差があるにもかかわらず、横板と裏板はかなり無理して張り合わされていた。

裏板がきれいになったところで、横板とネックの接合部分を修正する。セルフネックでは、横板はネック材に掘られた溝に差し込まれて固定されるが、この部分にも合成系接着剤が使われているうえ、横板の接合状態が良くない。
ボタンが外れて、ネックが引っ張られた結果、横板を固定する接着剤はクリープし、横板は中途半端に抜けた状態で、固まってしまっていた。この状態では、横板が突っ張ってネックの角度が修正できない。

最も良いのは、横板をネックからはずすしてから接着剤を取り除くことである。しかし、それでは、ネック周辺を全て分解する事になってしまう。もし、完全に分解するのであれば、現在のネックを再度使用するかどうかも含めて考えた方が良いと思うので、費用が大きく変わる。今回は横板の接着剤は取り除かず修正するだけにした。

接着剤のクリープは、大きな力が長期間かかった結果なので、常温のまま短時間に元に戻すことはできない。 熱をかけて接着剤を軟化させながら、クランプで圧締し、ネックを元に戻していった。フレッシュな接着から比べれば強度は低下していると思うが、一定の強度は保てたのではないか。合成系接着剤の多くが熱で柔らかくなる性質を利用できたことになる。

2011年4月1日

How Insensitive

知人から、もう少し親しみのもてる内容も入れてみたらどうかと提案を受けた。
4月1日だからかもしれない。


弦の振動を正確に表しているのか、カメラの特性による効果を含むのか、筆者には良く分からない。説明によれば、スローモーションではなく、カメラのフレーム数をコントロールして撮影されたもののようである。

2011年3月20日

CD

CDを頂いた。

時間のかかる作業の時には、音楽をかける事もあるので嬉しい。

ジャズのCDで、ベーシストはSanFrancisco Symphonyのメンバーということである。気楽に聞けて、なんとなく70年代の香りがする。

作業のときCDをかけておくと、一枚終わった時に気づいて、時間の目安になる。

CD情報(2011年3月22日追記)
myTunes! / Larry Epstein (2005 Tonality Records)

2011年3月17日

セルフネックのコントラバス2

楽器の寿命は、材料である木材の寿命に準ずると考えて良く、長い。ただ、全うするにはいろいろなことを乗り越える必要がある。

楽器として良い特徴をもったものならば、大切にされ長く使われる可能性が高いが、どれだけ大切に使っても、長い間には、必ず故障は起こる。故障は修理によって乗り越えられる。適切な修理のためには、可能な限り、修理がリバーシブルである必要がある。

この楽器は、150年の間修理を重ねて使われてきた訳だから、愛され、修理して使いたいというだけの魅力があると言える。
ボタンを開け、ネックの故障を調べるうち、合成系接着剤が使われていたことが分かった。コストなど何らかの事情ががあったのかもしれない。正確に何が使われたのかは分からないが、通常の手段で取り除くことは難しい。
また、接着剤の種類や接着の状態によるが、合成系接着剤には、クリープの問題がある。大きな力がかかると、少しずつ接着面がずれてしまい、場合によっては、ずれたまま固定されてしまう。

今回の修理の目的には、構造を元に戻すことはもちろん、可能な限り合成系接着剤を取り除くことも加わった。しかし、合成系接着剤は、かなり多くの部分に使われているため、全てを一度に取り除くためには、多額の費用がかかる。今回は、構造上主要な部分を手当てし、残った問題とは共存しつつ演奏可能な状態にするという道を選んだ。合成系接着剤であっても、現状の接着を利用できる部分もある。

楽器の寿命がある限り、これからも修理は行われる。この楽器の合成系接着剤を取り除くのは、手間はかかるが可能である。修理の度に、少しずつ問題個所を取り除き、少しずつ良い状態にしていくことができる。その価値がある。