2007年12月26日

Manson氏のアジャスター


駒の高さを変える事ができるアジャスターは、ソロとオーケストラ、体調や気候に合わせて弦高を変えられるので、非常に便利である。取り付けにあたっては、作業のクオリティも問われるが、アジャスター自体の出来(機能や見た目)も重要なことだ。

以前に紹介した黒檀のアジャスターもクオリティが高く、選択肢の上位と考えているが、軸部分が太くなるため、脚の細い駒には取付ができない。そこで、取り寄せて実物をチェックした結果、今回は、Manson氏のアジャスターを使う事にした。

ご覧の通り、Mansonアジャスターは、軸部と円盤部分が別体で、軸部と円盤部分の間が可動部分となる。円盤部分が一体のタイプでは、駒の木部が可動するメネジとなる弱点があったが、このタイプでは、可動するのは金属同士のネジ部分なので、テンションをかけた状態でも調整が可能である。参考までに、別体タイプはLemurContrabass Shoppe にもある。

Mansonアジャスターの特徴はまず材質にあって、軸部がステンレス、円盤部がアノダイズされたアルミなので、先の黒檀製のものよりは重いが、真鍮製のものに比べれば半分近くの重さしかない。また、ネジ部分はM6で、脚の細い駒にも付けられる。このアジャスターのネジは通常のネジに比べ精度の高いネジ切りがされていて、ガタが少なく、動きもも滑らかである。さらに、円盤部分の上下には段欠きが施されていて、駒とのフリクションを減らしている。

取り付けた結果は上々で、テンションをかけた状態でのアジャスターの操作も問題無かった。但し、高さを上げる場合には、チューニングがかなり上がるので、一時的ではあっても、弦が張り過ぎにならないよう注意した方が良いと思う。見た目に関しても、円盤部分の真鍮色は落ちついた良い色で、今回取り付けたVienneseのオールドに良く合った。アジャスターの取り付けは、DIYはお勧めできないが、筆者に連絡を頂ければ手配は可能である。

Manson Superspikes
http://www.superspikes.co.uk/

2007年12月21日

テスト用のハイサドル


ハイサドルは、駒から表板にかかるダウンスラスト(テンション)を減らすために用いる。

ハイサドルを導入すべきかどうかは、各弦の音量のバランスや弾いた時の感覚によって判断している。しかし、気軽にテストできれば、それに越した事はないと思う。

以前、ハイサドルの簡易な代替手段として、レイズド・テールピースをテストしたが、ダウンスラストを減らす効果は無かった。ただ、レイズド・テールピースには、テールピースの振動をより自由にする効果があり、テールピースの共振ピッチを下げる。これは、テールガットの長さを長くすることとほぼ同じ効果なのではないかと思う。モード・チューニングでテールピースの共振ピッチをコントロールする手段として有効なのではなかろうか。テールガットの長さには制約があるからだ。

話しが逸れたが、今回の写真は、テールガットの下に挟んで、既存のサドルの上に載せ、サドル高を上げるための、一時的なハイサドルである。単に挟むだけで、サドル以外の部分には当らないようにしてある。テールガットさえ長いものと交換すれば、他には変更を加える事無く、ハイサドルの効果をテストできると言う訳である。先のレイズドテールピースと同じか、それ以上に簡単である。

このサドルが一時的な理由は、テールガットを介して、エンドピンのシャンク(ソケット?)を引きぬこうとする力が働くことにある。エンドピンのシャンクがしかるべくフィットされていれば、一時的な使用には問題が無いが、時間が経つと抜けてくる可能性が大きい。

2007年12月19日

サドルクラック


写真は、英語ではサドルクラックと呼ばれる、サドルの角から伸びる割れだ。

表板は、湿度に応じて巾方向に伸び縮みするが、サドルの繊維方向は表板と直交していて、伸び縮みが殆ど無い。表板の巾が広がろうとする場合は問題無いが、乾燥して縮もうとするとサドルが突っ張る事になって、表板に割れが入る。

この割れを防ぐには、サドルの両端に隙間を設けておく事が必要だ。隙間が大きすぎてもみっともないが、ピッタリに入れてあるサドルも良さそうで良くないのである。もちろん、隙間をあけるのはサドルの両端のみで、表板の木口と接する面は密着していなくてはならない。この部分は弦からのテンションを表板に伝える重要な部分だからである。

この楽器の場合も、サドルの両脇にクリアランスが無かったか、少なかったかのいずれかが原因ではないかと思われる。サドルはオリジナルではなく、後の仕事かもしれない。本当は、サドルを一旦外してクリアランスを取る必要があるが、周辺の表板の状態も考えて、今回は外さずに割れの補修をして様子を見ることにした。

サドルの話とは関係無いが、サドルの上方に2箇所のダボ跡が見える。このようなダボは、表板を開けて修理を行う時に、位置決めのために使う。この楽器は、過去に少なくとも2回は開けて修理をされたということかも知れない。

2007年12月14日

エッジ補修5


色が合ったところで、今回は周囲の状態に合わせてエイジングを行った。

贋物作りみたいでちょっと気が引けるが、ここだけ新品の様でもおかしいのでやることにした。年月が経ったときにもあまり違和感なくフィットしてくれていればと願うのみである。

この位の面積ならそれ程目立たないけれども、当てる光によって違う色に見えたりするから油断は禁物だ。白日のもとにさらすとは良く言ったもので、室内の光線では仕上がっているように見えても、外光では、全く違ったりする。木材の塗装では、塗膜だけでなく材料自体の反射があるので、素地調整の段階から仕上がりに影響がある。しかし、だからこそ反射に深みがあり奥行きができるわけで、木という素材の前には自分の力足らずを知らずにはおれない。

2007年12月6日

エッジ補修4


形が整ったら、ニスでタッチアップしていく。ニスの配合は人それぞれだと思うので、特にこだわりがある訳ではないが、楽器用にはshellac, mastic, sandrac, benzoin等の樹脂を適宜配合して使う。

筆者の所は、埃のコントロールが難しいので、アルコール系のニスである。写真は、何度か塗り重ねて、色が合ってきたところである。エッジ部分は、特にこの位の面積なら音には殆ど影響が無いと思うので、少し固めのニスにした。多少は磨耗に耐性があるかもしれない。

2007年12月4日

エッジ補修3

写真は、Scarf jointの部分にも材料を継ぎ足して、あらかた成形したところである。この部分は後の修理で外す必要性が薄いと思うので、接着は強めにして、但し、横板との接着面に影響を与えないように行う。強めの接着とは言え、膠だから、後の修理者が気に入らなければ外す事は可能である。

接着が上手く行ったら、成形は比較的楽しい作業だ。この楽器の場合は、表板の他のコーナーが全て補修されていて、夫々の形になっているので、オリジナルの形が判然としない。裏板も見ながら他とバランスを取って形を作らざるを得ない。オリジナルは、もっとクリスピーなラインだったのでは無いかと思うが、長年使って磨り減った感じが出ていると言えば言えるかもしれない。